誰がパロミノ・モレーロを殺したか (ラテンアメリカ文学選集 6)

制作 : Mario Vargas Llosa  鼓 直 
  • 現代企画室
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  • レビュー :10
  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773892116

感想・レビュー・書評

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  • ★★★
    警官のリトゥーマは惨殺された若者の死体を見つける。彼はパロミノ・モレーロ、歌とギターはプロ並み。秘密の恋人に歌を捧げるために軍隊に入隊したらしい。リトゥーマと先輩のシルバ警部補は捜査を続ける。シルバ警部補は金髪の白人でいい男。それなのに町のおデブの料理屋のおかみさんにいかれてる。
    捜査では軍隊は非協力的。混血の一兵卒が軍隊エリートの家の娘と恋をするなどあるはずがない。人種や階級による差別が圧倒的に立ちはだかる中、二人はほぼ個人的執念で捜査を続け、関係者達の証言を通して事件の顛末を掴む。
    しかし町の人たちからは「きっともっと大きな陰謀を隠しているに違いない」と信じてもらえない。そして軍隊の内部機密に関わったため二人も地方へ左遷される。「なんてぇこったい」
    ★★★

    題名に「誰が殺したか」となっているが、誰が、なぜ、というのはあっさり分かる。テーマはペルーの中に当たり前にある階級や血による差別、軍隊への批判。またリトゥーマというのはバルガス・リョサ作品ではよく出てくるキャラクターなので、彼を通して一人の人間の心身遍歴を書いているような作品。ここでのシルバとリトゥーマが実にいいコンビなのでこれきりなのが残念。

  • タラーラというペルーの港町で、イナゴマメの老木に吊るされた若い男の残虐な死体が発見された。犯人は誰か?ここまで傷めつけた理由はなにか?

    こんな感じのサスペンス調で物語は幕を開ける。リトゥーマ警官とシルバ警部補のコンビが事件解決にむけて調査を開始するが、このシルバ警部補がなかなかいい味だしてるのだ。警部補は若くて仕事もできるイケメンだが、唯一の(?)欠点が、食堂のおかみに首ったけということだ。おかみは年増のデブ(警部補曰く「デブじゃなくて肉付きのいい女」)で、亭主もいる。ところが、警部補は隙を見てはおかみをくどこうとするのだ。そんな警部補の気持ちや言動が理解できず、リトゥーマはうんざりしている。

    このふたりのユーモラスなやり取りがとても楽しい。差別問題や閉鎖的な軍の体質など重いテーマもあるが、基本的には、「あーおもしろかった」とページを閉じられる軽くて愉快な小説だった。

  • 小説は、世界を映し出す鏡となる。

     事実は小説より奇なりと言うなら、小説に将来はあるのだろうか。新聞もテレビも、今となっては小説ばりの事件を報じている社会。それをノンフィクションではなくフィクションで、更にはエンターテイメントで押していくには、不謹慎な趣味ではないかという疑いもついて回る。

     ぐらついている時に『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』をめくった。小説の立ち位置が見え、大きな慰めを感じた。本書に限らず、ある種のラテンアメリカ文学は、力強くリードしてくれて一緒に踊っているうち、いつの間にか「小説は有効だ」という答えがはじき出される。
     幾つかの小説は「特定の企業、政治団体とは関係ありません」というポーズをとりながらも、現実社会を鏡写しにしている。小説の反射作用に気づいた人間は、作品の外に問題を見つけ出す。

    『パロミノ・モレーロ』も娯楽小説の体裁をとった作品だが、読み終えてみると大事な部分が書かれていない、意図的に作品の外側に置かれてあるという気がした。

     内容は、警部補シルバと部下リトゥーマのコンビがくりひろげるドタバタ南米ミステリといったところだ。シルバは、パロミノ・モレーロ事件の捜査の合間をぬって女を口説いたり、下品な冗談を炸裂させたり。覗き見にまでつきあわされるリトゥーマはうんざりした様子だが、聞き込みに入れば上司のやり口にうまいもんだと感心する。徐々に真相に接近してきたなと思った頃、いかにも自然に人物の台詞として、それは挿入される。

    「この種の犯罪は、何年たっても解決しないことがちょくちょくある。迷宮入りということだってなくはない」

     どの種の犯罪だ? 二人の最後は左遷と思っていい。ユーモラスな語り口の背後には、絶対に政治問題が絡んでいる。

     小説は世界を映す鏡となる。あからさまな糾弾、摘発でなくても、問題意識を目覚めさせることができる文学の力を、もっと信じてみたい。

  • 「若い男がイナゴマメの老木に吊るされ、同時に串刺しにされていた。」
    書き出しからハードボイルドタッチである。主人公というか、探偵の助手でワトソン役をつとめる警官の名が、リトゥーマ。代表作の一つ『緑の家』にも登場するピウラ出身の若者なのだ。つまり、この作品は『緑の家』を本編とする「スピンオフ」にあたる。

    リョサが、それまでの重厚なリアリズムの作風を変化させた時期に書かれた作品で、エンタテインメントに近づいたタッチで書かれている。砂漠の町や海岸線を舞台に、権力を振りかざす空軍大佐とその娘がからむ殺人事件を探偵役の警部補が解決するという筋立ては、チャンドラーの書くフィリップ・マーロウものを思い出させる。

    ちがうのは、探偵役が一匹狼の私立探偵ではなく、二人の警官コンビになっていること。コナン・ドイルがホームズとワトソンというコンビを発明して以来、読者の目線で事件を見るワトソン役は、ミステリになくてはならない存在である。そのワトソン役にリトゥーマというのは、リョサの愛読者向けのサービスだろう。

    しかも、このコンビなかなか相性がいい。片時もサングラスを放さないシルバ警部補は女にもてそうな風采なのに、太った年増の料理女にぞっこんで、亭主の留守に夜這いをかけたり水浴び姿をのぞいたりする好き者ときている。リトゥーマは、そんな警部補にあきれながらも、憎めないものを感じていて、どこに行くときもはなれない。けれども、女の趣味は別として、警部補の人間観察力はかなりのもので、権力をかさに威圧にかかる空軍大佐相手に一歩も退かない。このシルバ警部補の人物造型が魅力的だ。リトゥーマでなくとも好きになってしまう。

    事件の謎はミステリファンならだいたい想像がつく設定になっている。それがつまらないという人には、この本はすすめられない。ミステリの一ジャンルに「捕物帖」という形式がある。形式はミステリながら、読者の楽しみは謎解きにはない。江戸の市井に住まう人々の人情や四季折々の風物をたっぷり味わうのがお目当てだ。この作品もペルー北端部のピウラやタラーラといった田舎町を背景に白人と混血、軍部の将校と兵隊、お偉方と庶民といった相容れない人種や階級間におこるひずみから生じる事件を題材に、警官コンビのユーモアに溢れた会話や村に一台しかないタクシーの運転手や料理女の亭主である老漁師などとのやりとりを楽しむのがほんとうだろう。

    実際のところリョサの作品の中で、これほどシンプルな構成と主題を併せ持った作品はめずらしい。喜劇的なタッチで描かれるシルバ警部補とリトゥーマの醸し出すほのぼのとしたあたたかみと、事件の背後にあるものが垣間見せる冷え冷えとした人間関係の対比が鮮やかで、この作品の印象を陰影の濃いものにしている。

    事件は解決されるのだが、その結末はほの苦いユーモアにまぶされながら一抹の哀感を漂わせて終わる。凸凹コンビのドタバタ劇が挿入される中間部は別としても、発端と終末は、紛れもないハード・ボイルドタッチに仕上げられている。ノーベル賞作家の手すさびと見る見方もあるだろうが、この味わいはちょっと他にかえがたい。二人のコンビものの続編を読みたいと思うのは評者一人だろうか。

  • ノーベル賞作家バルガス・リョサの推理小説。ミステリーとしては可もなく不可もなくの出来映え。
    陰謀論を語る町の人々の他愛なさと、事件の真相の下世話さ、メインストーリーの脇で語られる警部補の恋の脱力的な結末。これらが描くペルー社会の、何でもない等身大の姿が、何ゆえか愛らしく思えるのは、作家の力によるのだろう。

  • FMシアター のこれを聞いて図書館から借りてきました。
    面白い!に尽きる。
    もっと読まれるべき!と思いましたが、単行本だし価格も高いせいか
    知名度も低く絶版になってます。

    著者の本を現在出してる岩波とかでなく、新潮社とかの親しみやすい文庫にしたら手ごろな厚み、値段になってくれそうな気がします。

  • ¿Quién mató a Palomino Molero?  Vargas Llosa

    明るいミステリ仕立てながら、見えない誰か(お偉方)からの圧力を描いてます。エベリオ・ロセーロの「顔のない軍隊」ほど直接的ではないですが、最後のオチまであって楽しめました。

    あらすじとしては、惨い姿で放置された死体を発見した主人公の若い警官が、男前の上司と一緒に捜査に乗り出す。少しづつ手がかりが見つかっていく中で、軍隊という大きな組織がバックにあるんじゃ解決のしようがないんじゃないか・・・と匂ってきます。

    混血度(生まれ)×職業・階級の絡まりあった人間同士の関係とその結果の不幸が話の筋にあるわけですが、主人公たちの明るさがエンタメ作品にしてくれてます。★★★★

  • 『緑の家』の登場人物、リトゥーマを再登場させて展開する、推理小説。

    平凡、というのが第一印象。
    ミステリーとしての筋立てもあまり驚くべきところがないし、優秀な上官と見習い警官という組み合わせも使い古されたもの。むしろ、リトゥーマを平平凡凡たる一見習い警官に配役しているのが、『緑の家』を読んだ時とだいぶ印象が違い違和感が甚だしかった。『緑の家』に登場した彼なら、未熟なりに活躍できたろうと思われる勢いがなかったのは残念。

    結局解説でも、エンターテインメントとしての側面を取り上げるより、リョサの作品の共通する社会諷刺、二項対立といった特徴を取り上げていることからも、エンタメ小説としての質は知れている。
    そして、「リョサらしい」小説が読みたければ、他にいくらでもいい小説がある。
    『パンタレオン大尉と女たち』が面白かったので、彼がエンターテイメント作品全般を苦手にしているわけではないはずなので、『フリアとシナリオライター』には期待。

  • 推理小説で、シンプルな展開なのですが、結構ぐいぐいと引っ張ってくれる空気が流れているので、気になって読み続けてしまう。
    何となく犯人は分かっているんですが、最後のオチが「やはりそういうものなのかー」と南米文学らしい結末でした。

    今までにない雰囲気の文学なので、やみつきになりそうです。
    次は「都会と犬ども」を。

  • ノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・リョサの推理小説。南米の作家の小説は始めて読んだが、全項で200Pたらずで読みやすかった。
    推理という点では登場人物も少なくストーリーが平板だが、白人と混血というペルー(あるい南米)の社会背景が物語の根底にあり、ラテナメリカ好きには面白い内容だった。
    (リョサ自身は白人だと思われる)

    原書は1986年に出版されているが、著者は4年後の1990年にペルー大統領戦に出馬し、フジモリ大統領と争っている。

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