素粒子論はなぜわかりにくいのか (知の扉)

著者 :
  • 技術評論社
4.19
  • (16)
  • (13)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 148
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784774161310

作品紹介・あらすじ

素粒子論の「やさしい解説」を何度聞いても、どうにも腑に落ちない…。それもそのはず、多くの人は、素粒子論を理解するためには避けて通れない「場」の考え方について、ほとんど学ぶ機会がないからだ。素朴な"粒子"のイメージから脱却し、現代物理学の物質観に目覚める、今度こそわかりたいあなたのための素粒子入門。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 素粒子論の一般向け解説は、素粒子を粒子として説明するため、「波動と粒子の二重性?」、「力を伝える粒子とは何?」「ヒッグス場が凝縮?」という疑問が浮かんでくる。素粒子論をある程度理解するためには、「場の量子論」の考え方を理解する必要がある。その見方によれば、素粒子は「粒子」ではない。場が高いエネルギーを持った(励起した)状態であり、それが粒子のようにふるまっているだけである。

    素粒子論も時代により変わっており、どの時代の研究者が書いたかで、一般向け解説も異なっている。この本では「場の量子論」の考え方を、一つのモデルを使って、一貫的に説明する。これも場の説明に対する一つのイメージでしかないが、巷にある本とは違い、「場」の考え方をしっかり伝えてくれる。空間に場の値を示す振動子が、バネでつながったイメージである。これにより場を伝わっていく波動という概念、エネルギーを得て激しく振動しているところ(「励起しているところ」)が、あたかも「物質や力」を持った箇所、「粒子」の流れとして見なせるようになる。振動のエネルギーが質量である。このイメージを使って、「標準模型」を説明する。

    またファインマン図は、場の量子論に基づく計算法である摂動法の道具である。摂動法では相互作用ありと相互作用なしの部分に分けて考えることで計算する。ファインマン図が便利なために一般的な解説に使われてしまった。そのため、摂動法の計算で現れる仮想粒子(相互作用のない波動)が、実際の物理現象を表すものであるかのようにとらえられてしまった。

    標準模型の拡張か、より革新的な量子重力理論か?量子重力理論の候補の一つである超弦理論の功罪についても著者の意見が述べられている。正しい理論の可能性もあるが、正しいかどうかはまだわかっていない。実験データに基づいて数多くのアイディアが集まって標準模型は作られたが、超弦理論には実験データに基づく練り上げの過程がなく、正しい理論なのかもしれないが、そう主張するだけの根拠がほとんどない。一般書が数多く出版され、正しいか不明なまま振動するひもや9次元といった曖昧なイメージが流布されている。

  • 素粒子がなぜ突如として変化するのか、なぜ素粒子の交換が力を生むのかという点を、場の概念を用いることで理解しようという主張。素粒子はビリヤード球のような粒子ではなく、場の波動が量子論的な効果で粒子のように振る舞っているものである、ということを、固定バネと連結バネの例えを用いて説明してくれています。目からウロコでした。摂動法と繰り込みについても、今まで読んだ本にはあまり書いていなかった。吉田先生は超弦理論に懐疑的なスタンスですが、今まで読んだことのなかった意見だったので、なるほどと思いました。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】
    ・丁寧に追って読もうとしたら厳しかったが、巨視的に読むといいかも、と思ったところで、後待ちがいたので返却。

  • う〜ん、やっぱり場のイメージは捉えがたい。素粒子が粒子イメージではなくばねイメージで考えるということはなんとかわかったけど。

  • 素粒子が「粒子」であるかのように語る「やさしい解説」では,素粒子論の本当の姿は分からない。素粒子の概要をつかむには,どうしても場の理論の考え方が必要だ。本書は,数式をほとんど使わずに,素粒子論を支配する場の考え方を丁寧に説いてくれる。素粒子は,実態を伴った粒子などではなく,場に現れるエネルギーの集中した波動であり,あたかもそれが粒子であるかのように振る舞っているのだ。そう,モニターに写るブロック崩しのボールのように。
    摂動法や繰り込みについても誤解を正してくれる。摂動法については,探査機のスイングバイを例に分かりやすく解説。ファインマンダイヤグラムに現れる仮想粒子,仮想反粒子は飽くまでも計算の便宜に導入されたものであり,それらの対生成・対消滅が実際に起こっているというイメージは完全に間違っていること。繰り込みは,無限大から無限大を引いて有限の値を得るという怪しげなものではなく,解像度を落として現象を見ることで小さいスケールを無視した有効理論を作ることに相当していること。
    一般向けの素粒子論の本には食傷気味の人にも十分おすすめできる内容だと思う。

  • 中途半端に分かりやすさを謳っている本より、真摯に説明しようとしているところに好感がもてます。良い本。

  • タイトルの答えを書いてしまえば、多くの素粒子論の通俗解説では素粒子をピンボールの球のように解説しているからだ。そうした自立した存在として素粒子を描いてしまうと、素粒子が別の素粒子に変わることや、力の担い手としての素粒子というのが理解し難くなる(p.17)。また、こうした描き方は粒子と波動の二重性を謎のままにしてしまう。それは数式を使わない説明は結局のところ、正確な説明になりえないとそもそも説明を放棄していること(および、数式が何を表しているかそもそも決着がついていないこと)だ(p.66)。しかしこうした物理学界の傾向は、単に説明から逃げているだけだと著者は考えている(p.69)。

    ピンボールの球としての説明に著者が代えるのが、連結されたバネとしての説明だ。素粒子が登場する微細な内部空間をバネ(量子場の励起状態を表すもの)によって表現し、それらが別種のバネによって連結されたものという図を描く。個々に振動するバネが連動し、一つの波が成立して伝わっていくように見える状態、それが素粒子だ。内部空間に形成された、バネ同士の共鳴パターンとしての定在波は古典的な波のように消えることはない。この場の振動によって移動するエネルギー量子が素粒子なのである(p.57f)。したがって素粒子における粒子と波動の二重性などない。あるのは波動である。

    「素粒子は粒子ではない。[...]空間全体に拡がるのっぺりとしたものがあり、これがエネルギーを得て振動すると、あたかも量子のように振る舞うのである。この”のっぺりと拡がったもの”を、物理学では”場”と呼ぶ。」(p.11f)

    著者は、こうした場の量子論をきちんと正面から説明しようとする。それも様々な比喩や外挿を用いながら、実にうまく説明している。例えば幾何光学と波動光学の違いの説明から、量子論的な粒子観(ファインマンの経路積分のアイデア)を説明する件などは、かなりよくできているのではないか(p.41-59)。やや細かい記述になっているが、惑星のスイングバイを用いた人工衛星の加速メカニズムと対照させて摂動法を説明する箇所(p.133-139)も果敢な試みだ。

    この本のもう一つのテーマなヒッグス粒子についてだろう。そもそもヒッグス粒子にまつわる一般的な報道に不正確なものが多かったことが、著者のこの本の執筆の動機の一つと見える。例えば以下の基本的事項なども指摘されている。

    「原子の質量の99%近くは、ヒッグス粒子が起源となるのではなく、原子核の内部に閉じ込められたエネルギーに由来する。[...]質量はエネルギーの一種であり、物質の内側にエネルギーを閉じ込めると、外から見た時の質量が増えることになる。陽子や中性子の質量の大部分は、内部に閉じ込められたエネルギーに由来しており、ヒッグス粒子起源ではない。ヒッグス粒子がもたらすのは、電子やクォークが持つ質量で、原子の質量と比べるとほんのわずかである。」(p.9)

    摂動法やファインマン・ダイアグラムが近似的な方法でしかなく、その多用は戒めるべきだ(p.146f)と指摘しつつ、摂動法のアイデアをまともに解説している。そしてゲージ対称性SU(2)を破るものとしてヒッグス場を導入している(p.119-125)。これにより、電子とニュートリノの違いがもたらされる。ゲージ対称性の説明の辺りはやや難しい。著者の他書も読んだが、場の量子論の説明に正面から挑む姿勢と、その説明力は素晴らしい。この本もまた貴重な試みだろう。

  • 資料ID:21401178
    請求記号:429.6||Y
    配架場所:普通図書室

  • 場の理論からするといわゆる粒子はなく、粒子的なものがあるだけである!

    素粒子、とくに量子色力学を卒論で私が20年以上前に取り上げたときには、このような本はなく、ただひたすら数式を展開している感じだった。

    本書はいろいろな意味で目から鱗である。

    超弦理論について盲信を戒めたり、繰り込み論は無限大から無限大を引いて、有限値を取り出すモノではないとか、ニュートリノに質量があるように理論を拡張するのはたいしたことないとか、ファインマン図の無思慮な使用とか、冷や水をかける場面が多々ある。

全19件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1956年三重県生まれ。大阪大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は、素粒子論(量子色力学)。東海大学と明海大学での勤務を経て、現在、サイエンスライター。 著書に、『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」』(講談社ブルーバックス、2020)、『量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く』(技術評論社、2017)他。

「2020年 『談 no.117』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉田伸夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×