- Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
- / ISBN・EAN: 9784776811138
感想・レビュー・書評
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春だねと言えば名前を呼ばれたと思った犬が近寄ってくる
上記の短歌をインターネットで見かけ、気になっていました。購入のきっかけは装丁がカワイイことです。くるみ製本だけど上品。表紙の模様が箔押しになってて贅沢なかんじです。
短歌はどっしりとして華やか。ゆっくりとした速度で聞こえてくる。以下、好きな短歌を挙げます。
粘膜のような光を載せたまま昼を眠っている海だった
はめ殺し窓のガラスの外側を夜は油のように過ぎるも
花曇り 両手に鈴を持たされてそのまま困っているような人詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
#服部真里子 #短歌 冬の終わりの君のきれいな無表情屋外プールを見下ろしている p8 雨の昼わたしを訪ねる人のいてうつむきがちなハンカチ落とし コンドルがどうして好きだったんだろうテトラポッドを湿らせる雨 p9 はつなつの光よ蝶の飲む水にあふれかえって苦しんでいる p16 湖の近くに家があると言うなるべく嘘に聞こえるように p17 諍いをそれとなく避け出かければ貴和製作所に降る天気雨 p19 広野(こうや)へと降りて私もまた広野滑走路には風が止まない p56
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白杖の音はわたしを遠ざかり雪降る街を眠らせにゆく(雲雀、あるいは光の溺死)
きみの靴 きみの不機嫌 透過して少年野球の声が聞こえる(夏の骨)
樅の木の線対称のいくつかを収めた冬のカメラを磨く(冬のカメラ)
海を見よ その平らかさたよりなさ 僕はかたちを持ってしまった(地表より)
封筒のおかあさんへという文字の所在なく身をよじっている夜(塩の柱)
感情を問えばわずかにうつむいてこの湖の深さなど言う(湖と引力) -
「Tシャツにかがやくタグを切りはなす 微風、快晴、会いに行けるよ」「当たらない星占いがきらきらと折りたたまれて新聞受けに」「ガラス戸に触れて夜の深さを測る ちいさな雪と書いて小雪」「何らかの口止め料のようにして眠るキャベツを受け取っている」「見下ろせばほとんどひかり父親がラジオ体操第二を踊る」短歌の作り手はまだ20代の女性。瑞々しく明るい句が多い。時に若さならではのユーモアも見せてくれる。読後はとびきり澄んだいい気持ちだ。