古歌そぞろ歩き

著者 :
  • 本阿弥書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784776812968

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  • いづくにか我が宿りせむ高島の勝野の原にこの日暮れなば
     高市黒人

     この連休、旅行中というかたも少なくないだろう。近代の歌人も旅の歌を多く残しているが、上代日本文学が専門の島田修三の近著によると、日本人が本格的に「旅」をするようになったのは、7世紀後半からのことらしい。

     時代はちょうど、律令国家の成立以降。天皇の地方への旅はじめ、命令を帯びた官人が、都から地方を行き来することになり、それとともに交通網もしだいに整備されていった。

     掲出歌も官人による和歌である。「高島の勝野の原」は、現在の滋賀県高島市あたりで、琵琶湖西側の湿原地帯という。当時はおそらく人気もない、ただただ広大な土地であったのだろう。そこで日没を迎えてしまったが、さて、どこで野宿をしたものか、と途方に暮れている。異界に足を踏み入れてしまったような緊張感も伝わる。

     とはいえ、対照的に、風光明媚な土地では、同じ日暮れの景色も歌いかたががらりと変わる。

     わがおもふ人に見せばやもろともにすみだ川原の夕暮れの空
     藤原俊成

     「すみだ(角太)川原」は、現在の奈良県と和歌山県の境の、真土山を流れる紀ノ川の川原。「万葉集」でよく歌われた場所であり、ああ、これは1人で見るのはもったいない、私の思う人にも見せてあげたいものだ、という愛おしさが伝わってくる。

     恋人や伴侶と、美しいものを共有したいという心は、上代も現代も同じなのだ。
    (2017年4月30日掲載)

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