戦争と歌人たち

  • 本阿弥書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784776815129

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  • 白【しら】みゆくジャングルの空に対【むか】ひをり唯一葉そこにそよげる木の葉
       米川 稔

    600ページ超の大冊「戦争と歌人たち」。学徒兵の歌や、見送る教員の歌も詳述され、徴兵制を知らない世代にこそ読んでほしい、という著者篠弘の願いが伝わってくる。

    成人男性の義務でもあった兵役は、さまざまな悲劇を生んだ。「自決した軍医の米川稔」という章では、1942年末、45歳で召集された医師の短歌が紹介されていた。

    鎌倉に暮らした米川は、吉野秀雄らと短歌会も開いていたが、高齢でのまさかの召集。しかも派遣されたのは、補給も途絶え「飢惑【うえわく】」と当て字されたほどの孤立の地・ニューギニア北部のウエワクだった。

    マラリアで病者は激増するが、薬が足りない。医師としての立場に思い悩み、米川は、戦争終結を待たずに自決を選んだという。享年46。冒頭の歌では、密林で風にそよぐ木の葉の生命力を感じ取っている。けれども、それも慰めにはならなかったのだろう。

    71年になって、旧知の宮柊二らが編集に尽力し、遺歌集「鋪道夕映」が刊行された。戦時下の鬱屈とした心情も、ようやくそこに活字化されたのだった。

     ・うつつより離るることの難かるをあはれうつつに即【つ】きて嘆かふ

    「うつつ」=現実から逃れることは難しい。過酷な現実の中に踏みとどまり、胸中の嘆きを短歌だけに託し、帰らぬ人となったのだ。

    戦後76年。「戦争」が、再び歌語となる日のないことを切に願う。
    (2021年8月15日掲載)

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著者プロフィール

歌人

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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