私たちが熱狂した90年代ジャパニーズヒップホップ

制作 : リアルサウンド編集部 
  • 辰巳出版
4.10
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784777817948

感想・レビュー・書評

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  • もっとヒップホップのことを知りたいと思わせてくれた一枚。
    日本のヒップホップはまだまだ生きている人が作り上げたものだというのが改めて認識できた。

  •  HIPHOPを聴きはじめたのは、ドラゴンアッシュの陽はまたのぼりくりかえすから、ラップに興味が出て、ツタヤの演歌コーナーにある日本語ラップをとにかく全部借りたりしたところからで、そして、天満橋のHMVにフューチャーショックの白いアルバムと、リップスライムのチップトークをはじめて買ったり、試聴コーナーに張り付いていたりしていた、そんな日々がよみがえる本。
     この東京シーンで語られるものと比べれば、やはり地方は蚊帳の外を感じる。すべての情報が東京に集まっていて、大阪の歴史がわからない。仕方がないことだと思う。
     予想では、なんだが新しい世代へのマウンティングみたいなになっているのかなと思ったけれども、そういう風にならないように構成されていると思う。これは編集部というかこの本をつくる方針なのだと思う。編集部は立派だと思う。

     宇多丸のインタビューにて、P49では、
    【それまでの日本語ラップは、いとうさんとか近田さんのように、あくまで日本語の構造には忠実に、そこからなんとかリズムをひねり出してゆく発想か、もしくは英語でやるか、その二択しかなかった。日本語ロック論争と同じで、はっぴいえんど的であるか、フラワー・トラベリン・バンド的であるか、どっちかしかない、みたいなことだったと思うんです。それに対して僕ら以降の世代は、「いや、英語的なフロウ、リズムのほうに日本語を当てはめてきゃいいじゃん」って。】
    P51では、【「英語のラップのかっこよさを殺さずに日本語に置き換える」っていう実験を僕らの世代が始めたことで、さっき言った日本語ロック論争の次元からひとつ先に行けたんだよね。要は弁証法ができた。日本語的か英語的かの二択じゃなくて、その両方をとるっていう。それによって日本語ラップが進化したし、ここまでの興隆があると思ってるんです。】とある。
     P59では、宇多丸は、当時のヒップホップのレコードのレビューがひどかったこと、バブル的なものから、そういう価値観に対して、もっと普段着の、普段の生活がかっこいいという考え方にシフトできないか、考えていた。
     P60、スチャダラパー的な考えでを踏まえて、【俺たちを取り囲むサブカルチャー全体を、ヒップホップ的な解釈で照合していけば、それはすべて「俺たちの」ヒップホップになるんだよという、ある種の読み替え。】と述べている。【本場のアメリカを仰ぎ見ている限りは、絶対にそれを超えるものは作れないわけだから。でも、コンプレックスを感じる必要はないんだよ、と。というか、自分の出自にコンプレックスを感じる必要はないということこそ、ヒップホップから学ぶべきだっていう。俺たちは日本人で、こういう環境で育っていることは変えられないんだから、「自分が自分であることを誇る」しかないじゃんっていう。Kダブシャインの名ラインだけど、本当にあれが言い当ててると思う。】

     川辺ヒロシは、スチャダラパーの登場について、
    【ラップの現場に行っても、黒人になりきったようなラッパーは、ちょっと違うなって思っていて。で、レゲエの現場に行ったら行ったで、ジャマイカ人になりきるのは100%無理だなって思っていて。当時は、そういう日本人がいっぱいいたというか、そういう人が両方のジャンルの中心にいたんですよね。いかにブロンクスのマナーに近づくか、いかにジャマイカのマナーに近づくかっていう。で、何かそういうのじゃないのになって思っていたところに、スチャダラパーが出てきたんです。】

    日本における元祖B-BOY、クレイジーAは、【世界中で一斉に始まったのは、やっぱり『フラッシュダンス』と『ワイルド・スタイル』の影響。ちなみにヨーロッパは、公開時期の関係で日本より2年ぐらい遅れていたから、その経験の差で彼らとバトルして負けることはほとんどなかった。85~86年だと、俺らはすでに2~3年やっていたから。そう考えると日本はヒップホップ先進国だよ。DJ機材だって日本製のものが一番いいわけだし】と述べている。【いまのDJ機材なんかはなんでもできちゃうから、ヒップホップがやりにくくはなっているよね。枠からはみ出ること自体が難しい】というのも面白い。チプルソが、常に違う曲になり続けるのは、枠から出る戦いをしているからだと思われる。

    B-YAS氏がアメリカで自分が日本人だということを伝えると、侍や忍者や敗戦の歴史が日本にはある。でも黒人にはそういう歴史はなくて、奴隷だったというだけでそれ以前は分断されている。歴史を持たない我々が自らのアイデンティティーを確立するためにある。その新しムーヴメントがヒップホップなのだという。

    古川耕と高橋芳郎へのインタビューのところでは、ドラゴンアッシュへのディスのところで、P162、【当時のヒップホップシーンは全員が同じ価値観を共有している「ワン・ヒップホップ」だった、という幻想があった。でも、それが99年あたりから崩れていく。カリフォルニアのshing02や札幌・平岸のTHA BLUE HERB、韻踏合組合みたいな、既存のシーンとは繋がりの薄い場所から新たなアーティストたちが登場し始めて、それまで編集部が持っていた「ストレート・ヒップホップか否か?」みたいな線引きは意味をなさなくなってきてしまった。そのころからヒップホップの解釈が多様化していったんです。】。
    加倉井純の、現場主義によってシーンの裾野を狭めてしまったこと、自分たちが知らないところから出てきたものが売れることが脅威だった、それでストリートにこだわりすぎて自らの首を絞めてしまったシーンについて話している。
    森田太へのインタビューで、ナイトフライトでリスナーが暴れたりして、大問題になったときに、DJ KEN-BOが、「こんなことを続けていると、俺たち自身が文化の芽を、音楽の芽を潰すことになるんだ」と熱く語っていた。
    日本語ラップは、外国にかぶれているのかどうかわからないが、不良の暴力やめちゃくちゃや排他やパワハラとの戦いであると思われる。そのパワハラをうまいことすり抜けていきぬいた賢い人だけでなく、ひどい目にあった人や、外から嫌だなあと思ってみていた人の証言が集まりつつあるのが、この本なので、非常に評価できる。
    最後に、「アートが足りない」というのは興味深いと思う。ラッパーは詩人としてロックミュージシャンとかに負けてほしくないという森田氏の思いは、誰が達成するのだろうか。

  • 非常に面白かった。
    これ以外に漢さんの「ヒップホップドリーム」
    ダースレイダーさんの「MCバトル史から読み解く、日本語RAP入門」
    を読みましたが、ダントツでこの本が当時の空気とか匂いを感じれると思います。

    この本が凄い所は当時のMCだけではなく、トラックメイカー、ライター、放送曲、CDの店員と、様々な視点から当時の「HIPHOPとは何だったのか?」について、独自の解釈で読み取れる点です。

    特に面白かったのはLAMP EYEの「証言」をプロデュースしたB-YASさんの話。
    B-YASさんがアメリカで留学していた際に仲の良い黒人から、

    「君らは戦争で負けた歴史があるし、遡ればサムライや忍者もある。でも俺達のブラックカルチャーにはそういうものがない。少し遡れば奴隷だった歴史だっただけで、それ以前は分断されてしまっている。黒人のムーブメントは歴史を持たない我々が自らのアイデンティティーを確立するためにある」

    っとこの一文を見た瞬間に当時のHIPHOP改めソウルとJAZZやら、全ては鑑賞としての音楽ではなく、カルチャーそのものだと理解できます。

    この本はまさにそのカルチャーが日本で誕生した瞬間を味わえる貴重な記録と言っても過言ではないでしょう。

    素晴らし本でした。

  • 青春時代のど真ん中。
    懐かしい気持ちになった。

  • シーンの勃興期の熱気が伝わってきました。
    知らないことも一杯あって面白かったです。
    私がジャパニーズヒップホップに夢中になったのは結構遅くて、90年代末にドラゴンアッシュの曲を聴いたのがきっかけ。
    弟から紹介され、単純に「カッコいい」と思いました。
    それからZEEBRA、キングギドラ、ライムスター、ラッパ我リヤに夢中になり、我リヤはライブにも行って怖いヘッズたちと一緒に盛り上がりました。
    それ以外にも、DABOとか餓鬼とか、もちろんニトロも聴いて、もっとアンダーグラウンドなのも聴いて、本場・米国のヒップホップへ。
    50セント、エミネム、ザ・ゲームあたりから入って、オールドスクールまでさかのぼり、NWA、2パック、RUN-DMCなんかに夢中になりました。
    歴史がある分、米国のヒップホップは厚みがありますが、90年代のジャパニーズヒップホップは産声を上げた直後だけあって勢いがあったのだなーと本書を読みながら感心しきり。
    「向こうでいうJB(ジェームス・ブラウン)は、こっちだとドリフ(ターズ)」なんていう宇多丸さんの解説に膝を打ったり。
    それから約20年。
    最近のヒップホップアーティストの曲を聴くと、レベルは当時と比べ明らかに向上したことが素人にも分かります。
    ただ、熱気という面ではどうなのでしょうか。
    「俺たちが恵まれていたのは、教科書がなかったこと!」というYOU THE ROCK★の言葉に魅かれました。
    ヒップホップ最高(レビューになってないですね)。

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