家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313821

作品紹介・あらすじ

二〇一二年一二月一二日、兵庫県警本部の留置施設内で、ひとりの女が自殺した。女の名は角田美代子。尼崎連続変死事件の主犯である。美代子と同居する集団、いわゆる"角田ファミリー"が逮捕され、これまでの非道な犯行が次々と明らかになってきていた矢先のことだった。主犯の自殺によって記憶の彼方に葬り去られたこの事件の裏側には何があるのか?尼崎を中心とした徹底取材をもとに、驚愕の真相を白日の下の曝す、問題作!

感想・レビュー・書評

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  • 主犯の美代子は子供の頃からネグレクトの中で育った。
    現在服役中の実弟も、彼女と同じく非常に暴力的なことから、
    おそらく暴力は日常的だったのだろう。
    誰にも愛されない孤独な寂しさと不条理な暴力が、人間形成に大きく作用し、
    負の感情だけがとてつもなく増殖してしまったようだ。

    乗り込んだ家の子供を引き取る際、
    不当な暴力に立ち向かえない情けない親の姿を見せつけ、
    親への失望を子供の心に植え付け、互いに殴り合いを命じる。
    このやり口は、子供の頃自分が感じた辛さを同じように体感させることで、
    自分の気持ちを誰かに解って欲しかったのではないか?
    そして優しさを装い手なずけて、ファミリーに加えた後は絶対的な忠誠を求めた。

    彼女をよく知る人は口を揃えて、「本当は寂しがりや」だと言うそうだ。
    留置場で同房だった30代の女性には、気持ち悪いほど甘えたらしい。

    これは勝手な推測であり、もとより弁護する気など毛頭ないが、
    美代子の心に空いた底なしの穴のような寂寥と、家族に対する狂おしいほどの渇望が、
    この事件の根源ではないだろうか。
    自殺という卑怯な手段で全てから逃げたことが、
    弱く憐れな本当の彼女を物語っているように思った。

  • こわいこわいこわい。
    ひとりのなんでもない中年女性がどうして、何人もの人を死に追いやり身内を死に追いやったのか。
    時間をかけてひとりひとり糸をつなぐように聞き出していった。
    人物相関図を見ても結局よく把握できなかった。家族が全滅していたり、逮捕と死亡が絡まりめちゃくちゃになっていた。

    彼女が自殺してはいおしまい、ではなく、類似した組織があちこちにあるような記述が一番怖かった。

    まったく関係なくても、ある日突然そうなってしまって、しかも警察は助けてくれない、となると結局どうしたらよかったんだろう。

    負の連鎖は断ち切れないのかな、救いは、ないのかな。

  • ネット等では載ってない事件の詳細や、美代子の過去の事などもたくさん載っており勉強になった。家系図は複雑すぎて、結局のところ最後まで全ては理解できなかった。美代子の生い立ちは両親にあまり構ってもらえないという、かわいそうなものであったが、それを理由に罪のない人を傷つけ追い込み殺してもいい理由にはならない。恵まれない過去があったとして、そこからどうするかというのは、その人次第だと思った。本当に異常な事。少し思ったのは著者の方は熱血型で、情がふかそう。著者の方の主観が少し強い感じがしましたので、読む時は注意してください。

  • 20140112
    どうしてこんなひどいことが、できてしまうのか知りたくて読んだ。元を正せば、美代子の親がひどく、さらにひどくなってしまったのが、美代子だと思った。救えた命があったことが本当に悲しい。家族内で殴り合いをできてしまう精神状態は誰にも理解できないほど、つらいことなのだろう。そして、川村大江さんたちがそうだったように、いつ誰にふりかかるかわからないことが、怖くて仕方なかった。本としては少しわかりづらかったけど、仕方ないのかな、

  • 我々の記憶に新しい、被疑者自殺で全貌解明が絶望的となった“尼崎連続変死事件”。その真相に迫った執念のルポ。

    マスコミが挙って報道した事件当時、被害者の数も逮捕者の数も多く、またその殆どが“1人の女を介した親戚関係”にあるという、とんでもない事件だったのは記憶していたものの、新聞などで人物相関図を見たらとてつもなくややこしかったので読むのを放棄していた一冊。
    いや、もっと早くに読めば良かったです。
    この事件より10年ほど前に、北九州監禁殺人事件があり、これも1人の人物による親類への洗脳、監禁、暴行、殺人であったことを思い出した。
    角田美代子のような怪物がどのようにして生まれたのか、なんとなくわかった気になった。
    読めば読むほど、警察への不甲斐なさ(民事不介入を理由に相談に行っても対応してくれず、最後には角田美代子の自殺も止められず)を感じてしまった。

  • ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

  • 尼崎連続変死事件を追ったルポ。当時報道で見てた時はなんだかよくわからなかったが、本書を読んでなるほどこれは全容を理解するのは大変だわと納得。小説より奇なりな実話であるが何より恐ろしいのはこの事件、ある一線を超えなければこんなに話題にならなかったのだろうという読後感。確率低くても自衛の心が必要。書いてないけど地域性の問題もあるのだろうが。

  • 尼崎連続変死事件のルポルタージュ。
    あの事件は当時TVの報道で見て、かなり衝撃を受けた。マンションのベランダに設置された「監禁小屋」はまだ記憶に新しい。今回この本で詳しく内容を知って、その異常さに改めて戦慄した。戦後まもなくの時代とかではなく、これがごく最近の出来事だということに驚く。
    推理小説なら投げ出しているレベルで人物相関図がややこしい。身内や関係ない人をも巻き込んで、角田美代子という一人のおばさんが、暴力と洗脳でこんなに人を支配してしまえるものなのか。茉莉子さんや猪俣光江さんなど、救える命もあっただけに、警察が民事不介入ということで周りの訴えをことごとく無視していたことに怒りを覚える。角田美代子はその尋常ならざる洞察力と人を操るすべを、会社経営とかもっと正当なことに使えなかったのだろうか…。

  • わたしは今慄然としている。少なくとも10人以上の連続変死事件が起きたこの尼崎事件の内容を読めば読むほど、わたしが事件を知るキッカケになった北九州監禁連続殺人事件との関連性があぶり出されるのである。北九州は7人の死者を出している。ただ、わたしが気に入らないのは、主犯角田美代子の自殺を隠れ蓑にして、角田ファミリーの7人が、果たして強制されて殺人したのか、或いは進んで自らの親族を殺したのかわからないことだ。その全容の解明がまだ明らかにされていないまま、どうやら次々と結審しているらしいことだ。

    この本は、尼崎事件について書かれた詳しいルポの中の一冊である。それでも著者の認めている通り、事件の全容は不明のままだし、角田美代子の生い立ちは分かっても、彼女の人心コントロール方法はヒントぐらいしか書かれていない。読んだあとは、わたしは北九州事件のように裁判で明らかにするのだと思っていた。しかし、少しネットでググると兵庫の検察も裁判所も、兵庫県警や香川県警の失態を隠すかのように早々と幕引きを図ったようだ。それを汲んでか、ほとんどの容疑者が控訴しなかった。もしかしたら、もっと大きな闇が隠されているのかもしれない。

    わたしがこのワイドショーネタのような事件に興味を持ったのは、遺族には申し訳ないが被害者に対する義憤からではない。このような、親族が親族を殺すような、しかも連続殺人をする人間の「システム」に興味があるからである。

    北九州事件は、究極のマインドコントロールだったと思う。密室性、絶対的な権力者、通電による思考能力をなくさせる環境、それぞれを疑心暗鬼にさせ密告を奨励し孤立化させる仕組み、罪の意識の植え付けと殺人に無感覚になる価値観の変換。小さな綻びで事件は表面化したが、ひとつ間違えれば永遠に事件化されなかった可能性もある。一方尼崎事件は、被害者並びに被害親族が倍化しているし、容疑者も多くなり、「民事不介入」という新たな技も使っているという「新味」もある。しかし、全ての家族が何回も脱走していて、北九州のような徹底的なマインドコントロールではなかったのは明らかである。だから、いつかは事件は表面化したと思う。

    わたしが空恐ろしく思うのは、徹底していなくても、子供が親を殺し、親族が姪を殺すような殺人が、この「密室性、絶対権力、環境、孤立化、価値観の変換」というシステムでは可能だったということだ。

    わたしの問題意識は何処にあるか。そうです、これは戦時における「兵士の作り方」と同じだと思うのである。教育基本法の改悪、秘密保護法の成立、そして教師の政治活動の密告を奨励するような現政権のもとでは、この本にあるように価値観の変換が起こり、「戦時環境下」での「敵を殺す」事をなんとも思わない時代が来ないとも限らない。いくつかの条件が揃うと、人間という者は「やってしまう」のだ。わたしはホントに身の毛がよだつ想いだ。

  • ★角田美代子がみせた「民事不介入」と「集団心理」の闇

    尼崎連続変死事件のルポ。ルポライターの著者が、手探りで事件の情報を集め断片がどんどん繋がる形で話が展開するので、臨場感はあるが、解釈や学術的な観点はない。ルポなので当然と言えば当然だが、期待していた部分もあったので少し残念。
    主犯格である角田美代子を中心にした家系図、すなわち親族の誰がどう関係して誰が誰を殺したのか、を整理して説明されているのが良い。この事件は、それが複雑すぎてその闇の深さがなかなか見えない側面があるが、この本を読むことで家系図がある程度頭に入った状態になるので、話を読み進めたり他の記事を見るとさらに理解が深まりやすくなる。

    読んでいると、角田の直感的な「他人の足元を見る才能」をビシバシ感じる。おそらく、角田は考えてこの方法を編み出したのではない。

    警察に何度かお世話になりながら、本能的に警察がどこまで自分が起こす問題に介入し、介入できないのかを掴んできたのだろう。いわゆる「民事不介入」だ。
    最近DV法などが出てきてはいるが、それでも未だに家族・親族間の問題に対しては司法も行政(警察)も<役に立たない>ということは、この国の殺人事件の半数以上家族・親族間のものであるということが証明している。強い絆が生み出すのは愛だけではない。愛は憎しみと両輪だ。そういう意味で、ストーカー法も同じだ。ここ数年でこの手の法律が立て続けに出てきたということが、この「民事不介入」の闇に飲み込まれ犠牲になってきた人間が今までいかに多かったのかを象徴している。

    警察に対する直感と同じように、自分以外の人間をどのように自由にし服従させるのかも本能的に学んだのだろう。どこまで踏み込み、どこまで自由にすれば、どんな風に自分の都合の良いように操れる人間に「教育」できるか。角田の用いた相手を徹底的に恐怖と緩和で服従させる人心掌握術は、ミルグリム実験で証明された人間の本質的な心理を、巧妙に利用している。しかし、彼女は集団心理学を学び論理的に戦術としてそれを取り入れたのではないだろう。

    「家族」と聞いて思い描くイメージ。世の中には「家族」や「絆」という言葉に対して良いイメージを持つ人が、想像以上に多いと感じる。そういう人には、角田やこの事件は理解できないものなのかもしれない。
    「民事不介入」という恐さを身をもって経験しているか否かは、この事件の恐怖を理解する上である程度必要な素養なのかもしれない。家族・親族間でなくても良いが、どうやら「民事不介入」と直面した時にようやく人は「社会は自分を守ってくれるわけではない」という重大な真実に気が付くらしい。非常に愚かだが、この感覚は犯罪に関するルポを読みく際には役立つ。

    格差は、産まれた時から始まっている。どんな場所に、どんな家庭に、どんな身体と能力を持って産まれるか。角田は、自分がうまれたその場所で、最低な方向に才能を開花させたのだろう。いや、劣悪な環境の中だからこそ開花した才能なのかもしれない。その才能で、彼女は本当に恐ろしい事実に辿り着いたのだ。「最も効率の良く安全な金の儲け方は、家族や親戚からむしり取ること」だと。

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著者プロフィール

一九六六年、福岡県生まれ。「戦場から風俗まで」をテーマに数々の殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。『冷酷座間9人殺害事件』『全告白後妻業の女筧千佐子の正体』『新版家族喰い尼崎連続変死事件の真相』『限界風俗嬢』など著書多数。

「2022年 『昭和の凶悪殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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