保育園を呼ぶ声が聞こえる

  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778315740

感想・レビュー・書評

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  • 保育関係について取材の多いジャーナリスト、猪熊弘子氏とブレイディみかこ、國分功一郎氏の対談。2016年2月に猪熊氏がブレイディみかこさんを世田谷区の保育所に案内した。みかこさんはイギリスと日本の保育所の状態の違いにおどろいた様子。個々の保育園で実情はちがうのだろうけど。保育士1人当たりが入園児をみる数がイギリスの方が少ない。


    1部「日本の保育はイギリスに学べ」(atプラスウェブ)
    2部 語り下ろし

    2017.6.30第1刷 図書館

  •  前期高齢者の男性が読んで、何だか暗澹としてくる現場の報告です。

     自分の子供たちのことをきちんと考えなかったし、ましてや保育園とかについて実質的行動を何もしなかった「子育て」だったことに対して、まず振り返らないと、というのが一つ。

     今、目の前の、お孫さんたちや、その母親、父親の置かれている社会的現実に対してというのが二つ目。

     話し合っていらっしゃる、三人の、なんというか、態度に好感を持ちました。国分さんの本はファンですが、残りの二人の本を読むことから、はじめようか、そんな感じです。

     自分の中で何かが始まるといいなと思っています。

  • 日本の保育園とイギリスの保育園を比較しながら、日本の保育の問題を対談形式で掘り下げていく本。

    保育園の理念とニーズがずれてしまっているという点について警笛を鳴らしている。

    子供の人格が形成される大切な時期に、いかに生活環境を整えて接するかが重要であるが、待機児童問題の対策として、基準の緩和、子供一人当たりの面積の縮小、保育士の見る児童の数の増加が解消策になってしまっている。

    政治家たちがきちんと保育の理念と現実を理解できていない。イギリスには国で統一された保育へのチェック制度があるが、日本はそれぞれの基準で運営できてしまう。という問題点を明確に指摘する。

    自分の体験からも、保育園と一言にいっても、色々な保育園があり、保育士たちが疲れ切ってギスギスしている保育園もあり、ビジネスとして考え割り切っている保育園には非常に危機感を覚えたことがあるので、この本に書かれていることは実感として得られるところがある。
    ただ、一方で、なんとか保育園に預けて仕事を継続することを重視する自分もいて、良い保育園に当たったからよかったものの、芯の部分では、保育とは育児とは何が大切なのかということをしっかり考えて対応しなければいけないのだなと感じた。

    イギリスの理念は良いと思うが、階級社会の中で富裕層がより良い保育園を選べるという現状があり、色々な総が一つの保育園に通っている日本の状況も悪くはないのではないかと感じた。
    本にも書いてあったが単純に日本とイギリスを比較できないので、社会背景も含めて良いところを取り入れるべきだと感じた。

  • 現状の保育園事情からも日本は世界の先進国より随分遅れているし、保育園のみならず、幼児教育のこと、子供の権利のことを真剣に考えられていなかったことにただただ驚く。保育園にただ子供を預けられればいいという話ではない。 実際に自分がいくつも保活で保育園を見学して、狭い、汚い、交通量が多い立地など、小さい子供を預けるのに躊躇する保育園がいくつかあったことを思い出す。しかしどこにも受からなければ、その躊躇したところにも預けざる負えなかったかもしれない。実際にそういうことも起きているのが日本の現状でもある。
    本当におかしい。子供は未来なのに。
    子供の権利、保育士という命を預かる専門職の待遇改善など早急に対策をと願うばかり。イギリスはじめ欧米では子供の権利の視点が必ず考慮されているのは本当に羨ましい。 対談形式で読みやすく、日本の保育園事情を知るという意味でも行政関係者はじめ、直接保育園とは縁のない人達にも広く読んでもらいたい一冊。

  • 保育園が教育産業であることを英国の保育事業にも詳しい方を招いての座談会。改めて保育園が重要な役割を担っており、それがここ10数年の趨勢であることを痛感する。日本では単なる就労支援の手段!と考えていることにその遅れの原因があるように思われる。したがってこの問題を考えるとき、預ける母親の視点に立った検討が多いが、子どもの立場、視点を考えるという観点が抜けているとの指摘は全く同感。幼児であっても一人の人格として尊敬するという姿勢が大切である。小規模保育所(市町村認可)が2015年からスタートしたことも知らなかった。日本はあらゆることがギリギリで進められ、保育の世界も例外でないことが、ブレイディ氏の言葉から痛感する。戦後まもなくできた基準が今でも残っていることに、日本のこの分野での遅れ、理解のなさによるものであると良く分かった。ブレイディ氏は「自分の考えを伝えることができる」教育プログラムの必要性を主張しており、また引用しているノルウェー幼稚園法の文言は教えられるところが大きい。「子どもは、彼ら自身の権利において主体的国民あるいは代理人とみなされ、表現方法はさまざまであっても、尊敬されるべき存在である。」「大人は、子どもたちが幼稚園での研究に完全に参加できるように、また、民主的社会における活動に参加できるような子どもを育てることができるようにしていかなければならない。」

  • 昨年は「保育園落ちた‥」のブログや、新規保育園の計画中止のニュースで「待機児童問題」という言葉を何度も聞いた。
    だけど「待機児童」の何が問題なのか?本当には分かっていなかった‥問題は、保育そのもの。安心して「保育」を受けられなければ、親は働くことができない。もちろんそれは二人であろうがシングルだろうが、すべての「親」のこと‥。どんな職場であれ必ず「親」がいる。考えてみれば保育の問題は、働く人=この国に暮らすすべての人にとっての問題なのだ。いやいや‥日本、大丈夫だろうか?
    この本はこどもが身近にいる、いないに関わらず、行政や政治家には課題図書にしてもらいたいし、なるべく多くの人(特に若者)が読んで考えてもらいたい。イギリスとの比較、対談形式なのも読みやすくてとても良かった。

  •  NHKクローズアップ現代『子どもの命が危ない ~保育園が非常事態~』http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3790/ などにご出演のジャーナリストの猪熊弘子さんが、『子どもたちの階級闘争』などで注目されているブレイディ みかこさん、『民主主義を直感するために』などで知られる哲学者の國分功一郎さんと対談した時の様子がおさめられた本です。
     私は元々保育所というものに懐疑的ではありませんでした。でも娘を預けてはじめて、大変なことが保育の現場で起きているのだと感じ、日本の保育の問題に目を向けるようになりました。どうして保育士さんはいつもせかせかしていて、怒りっぽくて、精神不安定なのか。小学校の先生は小学校に子どもを託す親のことを出来損ないの親と見なし、問題視したりはしません。小学校に通えるのは子どもにとって幸せなのだ、という信念を持っていて、だからこそ保護者は安心して子どもを小学校に通わせられています。ところが保育所の場合、保育士さんが保育というものの社会的意義に懐疑的な場合も多く、働く親はきちんと保育しない人と考えている保育士もいるのではないでしょうか。働く親を支えることは子どもを支えることでもあるという理念が定着していないように思えます。今上映中の『いのちのはじまり』という映画でも、シングルマザーの女性が保育士から、お子さんがお母さんを恋しがっています、と言われたことから、昼間働くのをやめて、子どもの世話を自分でし、夜中働く過酷な生活をはじめた、と語るシーンが出て来るのですが、福祉やケアというものの理念をきちんと理解、学んでいない保育士が日本にも多いのではないでしょうか。
     今、待機児童解消について活発に議論されていますが、本書に書かれている通り、経済面ばかりに重きが置かれ、子どもの幸せや生活環境が議論の中心に据えられていないような気がします。ブレイディさんとの前半の対談では、保育士一人がみる子どもの数がイギリスと比べ多すぎること、日本では保育士資格取得の際、多様性についてあまり学ばないこと、また最近の保育は母親の就労支援の側面が強くなって、子どもの福祉という本来の理念が薄れてきてしまっていること、保育士が働きながら専門性を高めていき、それが給与に反映される仕組みができていないこと、くるみん、プラチナくるみんなどの認証マークが当てにならないことなどが分かりました。また「どうしたら日本の状況はよくなるのか」と聞かれたスウェーデンの研究者が「そもそも月六十時間残業しているっていう社会が理解できないので、どうしたらいいか分からない」と答えたというところも、印象的でした。
     後半の國分さんとの対談では、おかしいと思ったことは声をあげていいんだ、ということなどが書かれていました。保育所にあずけている時は、とにかく感謝しなくてはいけない、不満を持ってはいけないと自分の気持ちを押し殺してきたので、その言葉に救われました。この本に書かれている通り、保護者は保育所を利用する期間が限られているので、卒所してしまうと保育所問題への関心が薄れてしまいます。でも例えば保育士さんの低賃金に反対することは、将来、自分の子どもが大人になって子育てしながら働くようになった時に、自分と同じように苦しまなくて済むことに繋がるのだと考え、関心を持ち続けることが大事なのだと思いました。確か私が保育所に娘を通わせている時、役員が代表して市に保護者からの要望を出せました。そこで私は保育士の賃金アップを求めてはどうかと提案したのですが、他のママ達から、却下された経験があります。自分達には関係ないと思ったようでした。でも本当はこのような対市交渉の場で保護者が声をあげていくことが有効だと思いますし、福田萌さんがブログで書いていた通り、保育士さんの給与アップが問題解決の糸口となるのではないでしょうか。https://ameblo.jp/fukuda-moe/entry-12267627474.html 実際その時出した要望(門の前の道路の安全確保)は通りました。
     『職場の問題地図』など職場の労働環境改善に関心がある人にもぜひこの本を読んで欲しいです。
     働くママの割合が社会全体でまだまだ少ないので、政治家が働くママへの施策を公約に掲げてもなかなか票につながりにくいかもしれません。どうしたら働くママ以外の人たちがこの問題に関心を持ってくれるのか……。新聞などで子育て、保育所の問題が多く扱われるようになってきていますが、その陰には女性ジャーナリストの方達の活躍があるように思えます。私はジャーナリストではありませんが、素晴らしい記事、作品はSNSなどでシェアしたり他の人に薦めたりして、微力ながら認知を広めるために何かできたらと感じました。
     個人的には、保育所以外の保育の可能性についてももっと知りたいです。(ファミリーサポートを今使っていますが、とても素晴らしい制度です。ただ支援員の方に自治体からの金銭的助成がないので、安い賃金で半分ボランティアのような形でお願いしなくてはならないことを心苦しく思っています。とはいえ、今以上の額支払うのは難しいのが現状です)保育ママ制度もうちの自治体はなくなってしまいました。ファミリーサポートは、1対1で保育してもらえますし、ママが働きながら子どもの成長を感じ、支援員の方から子育てについて学ぶこともできるのでとても優れた制度だと思います。なぜ日本で広がらないのか、とても不思議ですし、ファミリーサポートの実際についての記事も保育所問題程見かけないので、ぜひジャーナリストの方達には記事にしてほしいです。
     この本では長いスパンでの変革が論じられているので、今小さい子どもがいて子どもを保育所に預けたい/預けている人は読んで不安になったり辛くなったりしてしまうかもしれません。この本と併せて『みんなの保育の日 2017 ~子どもは社会で育てよう』の動画や ~https://www.youtube.com/channel/UCLw-C4SkzfLQTgyedECTatQ 映画『いのちのはじまり』http://reikohidani.net/3569/ を観ると、ほっとできて、励まされると思います。でも今回の本のような問題提起も大事です。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。一般社団法人 子ども安全計画研究所代表理事。東京都市大学客員教授。保育・教育、子ども施策などを主なテーマに、執筆・翻訳、テレビ・ラジオ出演、講演を行なう。

「2019年 『重大事故を防ぐ園づくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

猪熊弘子の作品

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