赤紙と徴兵: 105歳最後の兵事係の証言から

著者 :
  • 彩流社
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779116254

作品紹介・あらすじ

兵事書類について沈黙を通しながら、独り戦没者名簿を綴った元兵事係、西邑仁平さんの戦後は、死者たちとともにあった―全国でも大変めずらしい貴重な資料を読み解き、現在への教訓を大宅賞作家が伝える。渾身の力作。

村人に毎日のように赤紙(召集令状)を届けつづけた兵事係、西邑仁平さん(105歳で亡くなった、滋賀県大郷村〈現・長浜市〉)は、敗戦時、軍から24時間以内の焼却命令が出ていたのに背き、命がけで大量の兵事書類を残した。「 焼却命令には合点がいきませんでした。村からは多くの戦没者が出ています。これを処分してしまったら、戦争に征かれた人の労苦や功績が無になってしまう、遺族の方にも申し訳ない、と思ったんです」 警察や進駐軍による家宅捜索への不安の毎日。妻にさえ打ち明けることができなかった。100歳を超え、ようやく公開に踏み切った。赤紙は軍が綿密な計画のもとで発行し、人々を戦地に赴かせていた。兵事係は、その赤紙を配るだけでなく、戦死公報の伝達や戦死者の葬儀なども担っていた。

感想・レビュー・書評

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  •  まず感心したのが、赤紙・徴兵のシステムがここまで緻密で高度なものだったということである。ITが進化するたびに議論になる国家による監視・管理の体制強化は、ITなどなくてもここまで緻密にできるのだということだ。
     技術ではなく、国家の強い意志、国民への煽動と相互監視がそれを可能にしているのは言うまでもない。
     本書のように焼却処分に逆らった方がいらしたおかげで、今、こうやって過去から学び、後世による歴史の判断が可能になっているが、IT化のもとでの国民監視で、それは可能だろうか。
     

  • 松本にて。

  • 在りし日の汗して努めし稲稔り今日ぞ供えん君の御前に
     河瀬 勇

     「赤紙は、来る時に来る」
     戦時、召集令状は唐突にやってくるものと恐れられていた。人選の方法や人数、任地、令状の届け方さえも軍事機密であり、一般の家庭は受け身でいることしかできなかったのだ。
     吉田敏浩著「赤紙と徴兵」は、滋賀県大郷村(現長浜市)で「兵事係」の任に当たった男性の証言と、貴重な関係書類をめぐるノンフィクションである。徴兵に関する事務は、軍と警察、地方行政機関が密接に関わった動員システムであった。敗戦後、兵事文書の焼却命令が出されたが、「戦死者を出した家族に関わる大事な書類」だと熟知していたその男性は、60年近く密かに自宅に保管していた。妻にさえ打ち明けられないことだったという。
     その男性から召集令状を受け取った当地の人々の肉声も取材されている。掲出歌は、農業を営む河瀬家の長男の作。男兄弟4人全員に召集令状が届けられた。

      菊薫る十月二日のあの佳き日征って来るぞの顔忘られじ

     「征【い】って来るぞ」と決意した「君」は次男。2度目の召集で、フィリピン戦線で戦死したことを悼んだ兄の歌である。三男も戦病死し、一家は大切な働き手を失った。
     兵事係は「戦時召集猶予者」として召集されない立場にあった。村の人々はみな、口にこそ出さないが、どこかで兵事係を恨む思いもあったと想像される。証言を残した男性は、その葛藤も胸に戦没者名簿を作り続け、2010年に没。享年105。

    (2012年8月19日掲載)

  • 一兵事係が密かに残した記録から実体を精査する一冊。村役人の兵事係は赤紙配達だけでなく、対象の資質・技能も平時から調査し、死後は戦死報告も。末端の苦悩から浮かび上がる恐るべき生-権力。決して過去の話ではない。

    著者が取り上げる兵事係の西邑さん(105歳で逝去)。敗戦時、軍から資料の焼却命令が出ていたにもかかわらず処分を拒否。妻にもその事実を知らせることが出系無かった。百歳を向かえ公開。その貴重な資料を著者は丁寧に読み解き、現代への教訓として伝える。

    赤紙は恣意的な抽選によって「選抜」されるわけではない。軍が周到な計画(だから平時からの調査がある)のもとで発行し、人々を戦地に送った。そして兵事係は、戦死公報の伝達だけでなく葬儀なども担っていた。余儀なくされた職員の苦悩は戦後もなお続く。

    いったいどのような仕組みのもとに日本の民衆は日常の生活から切り離され戦場に送りこまれたのだろうか。本書の分析は、国民と地意識社会がどのように戦争へ組み込まれ、それが「日常」へと錯覚させられていったのか、克明に浮き彫りにする。おすすめです。了。

  • 赤紙とか徴兵ってこういう仕組みだったんだ・・・と初めて知った。
    国を挙げてがんじがらめになってて、当時だって戦争に反対する人は庶民レベルでも絶対にいたと思うけれど、こういう時代こういう仕組みの中で反戦なんてもししたいと思ってもすごく難儀なことだったんだろうなあ。

  • 所謂『赤紙』を配った、軍に従った人『兵事係』の実話。
    国民が怒りそうな事は全て伏せて、今でいう『情報操作』万歳の世界。
    本当なら、マル秘な事項なので 『敗戦決定』と共に全て燃やしてしまわなければいけない とお達しが来ていたにもかかわらず、
    『燃やしてはならない』とずっと保管していてくれたお陰で現在に残っている。
    コレは非常に貴重な資料である。
    兵事係とは、非常に重い任務であり、そして憎まれたのではないだろうか?
    軍としては非常にありがたい存在だったろう。
    そこに住む人の個人情報ダダ漏れ。今では考えられない、正反対の世界。
    個人の氏名、年齢、人柄から、年収やら性格、評判等全て記載されている。
    ただ、軍に従うだけで『選定はどうやってしているのか判らない』というのが微妙な表現だと思う。

    TVドラマを放映していたのを見て、コレが原作だというので読んでみた。
    原文のママというワケではないがそれに近いカタチで載っている。
    それを現代表記しているので、ある意味二重に書かれているのがちょっと面倒。
    資料としては本当に重要な本だと思う。
    ちなみに、兵事係をした西邑仁平さんは2010年105歳で亡くなられた。
    最後まで戦争を忘れなかったそうだ。

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著者プロフィール

吉田敏浩(よしだ・としひろ)/1957年、大分県臼杵市生まれ。明治大学文学部卒。ジャーナリスト。『森の回廊』(NHK出版)で、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。著書に、『北ビルマ、いのちの根をたずねて』(めこん)、『生と死をめぐる旅へ』(現代書館)、『ルポ 戦争協力拒否』(岩波新書)、『反空爆の思想』(NHKブックス)、『密約 日米地位協定と米兵犯罪』(毎日新聞社)、『人を“資源”と呼んでいいのか』(現代書館)、『赤紙と徴兵』(彩流社)、『沖縄 日本で最も戦場に近い場所』(毎日新聞社)など多数。

「2016年 『「日米合同委員会」の研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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