演劇は仕事になるのか?: 演劇の経済的側面とその未来

著者 :
  • 彩流社
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779116421

作品紹介・あらすじ

「演劇で、食っていこうじゃないか」、「はたして食えるのか?」など、演劇・劇団をとりまく経済的側面とその未来について、アーツ・マネジメントの分野ではもっとも事態の本質をつかんでいるといわれる著者が詳細に分析する。演劇についての本は数多にあるが、プロの劇団とは何か、演劇で食っていくとは具体的にどういうことなのかについて書かれた本は、ほとんどみあたらない。そしていま我が国では「劇場法」という法律の制定が動いており、この国の文化政策が新たな局面を迎えようとしている。
劇団員も劇団をひっぱっていく座長や、公共施設を活用したいと考えている自治体の職員も必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • 舞台芸術に対する文化政策を語って、生きのいい一冊。「劇場法」について「アーツ・マネジメント」について、理念や歴史、現状分析や問題点、提言が丁寧に整理され、わかりやすい。労作である。教科書としてもいい。著者は経済・演劇に通暁し、演劇雑誌編集を経て、留学を経験した。アーツ・マネジメントが必要とする能力「経済に強く、芸術を愛し、広い視野を持ち、言語で説明できる」を体現している。説得力がある。
    私自身も仕事で「劇場法」に関わりがあるため、本書を熟読し、勉強になった。これは演劇の分野について書かれたものだが、演劇以外の実演芸術・芸能(音楽、舞踊、伝統芸能)との共通課題はいくつもあり、実演ものに急速に関心が薄れつつある"ヤバい"現状に対して、これらすべてのジャンルは垣根を越えて共闘すべきだとの意を新たにした。なにより、危機感をもつべくは劇場である。バーチャルものに流れ、実演を軽視する動きがあるとすれば(わたしはそれを感じている)、それは劇場自体の存立意義の問題であるのだ。
    本書では日本演劇史を簡単に振り返り、明治以来の輸入された「演劇」と日本ネイティブの「芝居」が並走、後に融合されるさまに触れて興味深い。ここにやはり輸入芸術である「クラシック音楽」とネイティブの「邦楽」、「バレエ、ダンス」と「舞踊」の在り方と関わりの変遷、戦後各地に建設された「公共会館」とバブル期以降に林立する「私立ホール」その後の華麗な「公立ホール」群がどういう役割を担ってきたかという劇場史と絡めて俯瞰すると、「文化芸術・・という理念先行でつくられたようなことばがあらわすもの、が、人々に、余興…余裕があるときの遊び、ではなく必要不可欠なものとして根づいたか」の様相が見えてくるだろう。文化(演劇)は人間に必要か、著者は情熱をもって必要性を明示する。文化と社会をつなぐ施策を訴える。ひるがえって、演劇人、劇場関係者、アーツ・マネジメントに携わる人々にも覚悟を迫る。誠実な本である。

  • ボウモル、ボウエン
    「舞台芸術 芸術と経済のジレンマ」
    社会生活基本調査 総務省

  • 楽器演奏者やダンスを実際やる人の少なさ。枝をみて森全体を観ない助成。演劇の所得限界と機械化の不可能。

  •  能・狂言・歌舞伎といった伝統芸能と袂を分かって始まった日本の演劇(少なくとも本書の「演劇」の定義はこれに近い)。
     これらがあらわれてきた背景や、以降の歴史を顧みた上で、現在の法制度と日本演劇が抱え続けている体質とのズレや矛盾を細かく分析している。
     そして「アーツ・マネジメント」や「公共劇場」といったキーワードを用いて将来あるべき日本の劇団、劇場、ひいては演劇界全体についての提言を行なっている。

     自分の住んでいる地域でも、演劇活動のスタイルは財団法人化した劇団、法人格の無い劇団、プロデュース公演、趣味の側面の強いサークルなど、本当に多様であり、これらの演劇集団が充分に採算の取れた運営を行なうことができているのか、意識して考えてみると疑問符がつくものが多い。このような商業演劇だけではない、スタイルの多様化した現代の演劇に適合した運営のしかたを考えるきっかけとなる、意義のある本である。

  • 経済面から「演劇」を考察していく一冊。

    食える「演劇」と食えない「演劇」。

    地道に修練を積み重ね、自分の持ち出しで発表の場を作るのが当たり前!

    という習慣が根付いている日本の演劇業界。

    営利・非営利双方の面で劇団が存続していくための方法を

    公的資金制度も含めて考えてみる。


    演劇をビジネスとして考えたい方にはオススメの一冊。

  • 日本の表現者、特に補助金を貰った活動している人 プロの人が読んで 知って 心にとめておきたい書。

  • 一言で言えないたくさんの事を考えるきっかけになった。
    ただ、すぐ評価を出来るものでもなく、もう一度読み返してから評価することにする。

  • 演劇と社会を結びつける方法を考えさせられた。
    少なくともこの本には答えは載っていない、当たり前の話ではあるが。

    文化芸術振興基本法
    文化芸術の自由を保障する
    文化芸術の継承と発展を図る
    文化芸術を誰もが享受できるようにする(文化芸術へのアクセスの保障)
    文化芸術の多様性を確保する

    この四点が大切な理念


    公共劇場のあり方
    どのような観客を増やすのか?
    決して既存の観客や演劇関係者を喜ばせることを目的としてはいけない
    地域主体じゃないと意味がない
    これまで劇場に足を運んだことのない人が訪れてみたいと思えるようなきっかけづくり、また来たいと思える内容
    地域の人々が文化芸術を通して心の豊かさを実感し、生活の質を高める


    日本の傾向として、アマチュアが嗜む稽古ごと、そしてそれを発表する場所としての公共劇場という役割もある。これは欧米には殆どみられない傾向で、これを一概にダメと否定することはできない。
    このような日本にあったアーツマネジメントの方法を探っていくべきである。

  • 109
    「芸術と社会をつなぐ役割」というよりは、芸術の創造と提供を通して「芸術を通して多様な価値観を共存させるやりくり」とでも定義し直した方がしっくりくるように思います。ですが、劇団などの芸術団体の制作者や事務局がアーツ・マネジメントの必要性を実感する最初のきっかけは、どうやって助成申請書を書くか、資金調達のノウハウとして、どうしたら支援のお金を得られるのかということからのように思います。その先には、自分たちの活動がどういう価値を実現しようとしているのか、どうやって自分たちの目指す創造性を実現していくのかを説明する力がなければならないのですが、目の前の仕事を片付けることで精いっぱいで、組織全体の経営を考え直すということ、それも芸術界全体や社会全体を見回しながら考えていくというところまで、なかなか余裕がないというのが大方の芸術団体の実情でしょう。

    俳優ではどうしても食えない?
    舞台は〈時間の缶づめ〉!
    よそで稼いで舞台を支える
    ・公共財と芸術の価値
    多様な価値のジャグリング
    「森」を見てデザインする助成制度に
    継続的な助成制度を核に
    「八方美人」の公立文化施設
    コミュニケーション教育の拠点?
    演劇の力を応用する
    「演劇を支える」から「演劇で支える」へ
    芸術団体の説明責任
    公演のつくりかたは、このままでいいのでしょうか?

  • 遅ればせながら。。

    私の興味はどちらかというと「演劇は社会を変えるのか?」やな。
    あえていえば。
    そのためには、演劇が仕事になることも大切やと思う。
    けど、順番を間違えたくはない。
    個人的感想。

    演劇で食べていきたい人には、よい本だと思います。
    ざっくりと演劇界?の概要もつかめるし、
    単なるハウツーでなく、演劇を巡るさまざまな問題提起がなされているので、
    自分でも考えざるをえない。そこがいい。

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著者プロフィール

1960 年富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。外資系銀行勤務を経て、86 年から88 年、白水社『新劇』編集部に。フリーの演劇ジャーナリストなどを経て、91 ~ 93 年、英国シティ大学大学院芸術政策運営学科に留学(Postgraduate diploma in Arts Administration, MA in Arts Criticism 修了)。93 年、慶應義塾大学アートセンター立ち上げに参加、94 年~ 95 年、米コロンビア大学大学院に留学(Teachers college, Arts Administration 客員研究員)。96 年より日本芸能実演家団体協議会(芸団協)に勤務。舞台芸術にかかる研修事業、調査研究、政策提言などに携わる。

「2016年 『【改訂新版】演劇は仕事になるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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