落ちた王子さま

  • 彩流社
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779116810

作品紹介・あらすじ

みんなの愛情を一身に受けて育っていた末っ子の主人公キコに妹が出来た。すると以前のようにはかまってもらえなくなった。おりしもキコが釘を飲み込んだと勘違いしたママの早とちりから大騒動がもちあがる。キコの一日を時間に添って追いながら……。スペイン・モロッコ戦争を背景に、子どもと大人の眼を通して複雑な家庭問題と夫婦間の微妙な関係を描く、楽しくも悲しみに満ちた物語。スペイン文学のベストセラーの初訳!

感想・レビュー・書評

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  • 6人兄弟の下から2番目、3歳の男の子キコ。少し年上の兄フアンと妹クリス、お手伝いさん2人との賑やかな一日を描く。といっても作者が作者だからほのぼのな話だけで終わるわけもなく、60年代頃の社会背景や夫婦間の不和がちらちらと現れる。と言ってもキコの視線からなので断片的ではあるが。

    キコはお手伝いさんやお母さんにいろいろ話しかけるけれど、どうしてもみんなの目線は1歳の妹クリスに行ってしまう。それはお母さんとて例外ではなく、「赤ちゃんのクリスは許されるけどあなたはダメ」というダブルスタンダードであっさり片付けられてしまう。まさにキコは一家の中心の座から滑り落ちてしまった「落ちた王子様」なのだ。
    そして小さな事件が起こり、一家の注目を浴びたキコは喜び満面。もちろん大きな注射針を抱えたロンギーノス先生(笑)には見抜かれてしまうのだけど。
    一騒動も解決し、キコの一日は静かに終わる。

    3歳児キコの言動の一つ一つが「あるある」感があって苦笑を禁じ得なかった。そして自分の子育てをちょっと振り返って反省してみたり。

    ところで小児用とはいえ鎮痛剤の座薬をキコに入れられて「すやすやとよく寝」てしまったクリスちゃんは大丈夫だったんでしょうか?

  • スペインの子沢山家族(6人兄弟)の下から二番目、4歳のキコの一日。大好きなママのお膝は、赤ちゃんのクリスティーナに奪われ、ちょっとご不満。すぐ上のお兄ちゃん・ファンや、子守のビトラたちとの、賑やかな一日。

    4歳の子どもらしい発言や行動、賑やかな一家の様子が楽しい。でも、時代が少し前と思われるところと、スペインが舞台というところが、少し違和感。日本版のこんなお話があったら、もっとおもしろかっただろうに。

  • 読む前までは、美しい幸せな子供の一日を描いているだけの小説だと思っていた。読み進めてみると、私のために書かれた小説だと感じた。

    外から眺めると、これ以上ないくらい完璧に幸せな家庭なのに、実は葛藤と不和と余裕のなさで、家族が引き裂かれている。同じ家で暮らしているのに一緒じゃない。
    同じテーブルにみんな一人きりでついている。聡明で感受性の強いキコが、将来どうなっていくんだろうと、心配になってしまった。

    七つ目の王冠が積まれたら、何もかも崩れてしまう。
    ある裕福な家の幼い子供の一日を追っているだけの小説なのに、所々の描写で背筋が冷えた。
    カトリックの国ならではの価値観も新鮮だった。

    『マリオとの五時間』も読みたい。

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著者プロフィール

Miguel Delibes Setién (1920-2010)
20世紀のスペインを代表する作家の一人。『糸杉の影は長い』(1947年:岩根圀和 訳、2010年、彩流社)でナダル賞を受賞し文壇登場。自然の中で伸び伸びと生きる子どもたちを描いた『エルカミーノ(道)』(1950年:喜多延鷹 訳、2000年、彩流社)で確固たる地位を得た。以後、家族・子ども・自然・死をテーマに、独自のスタイルで数多くの作品を発表し、セルバンテス賞を始め、多くの文学賞を獲得した。時期的にはフランコの厳しい検閲(1940-1975年)と重なるが、検閲を巧みにかわし抵抗した『ネズミ』(1962年:喜多延鷹 訳、2009年、彩流社)や『マリオとの五時間』(1966:岩根圀和 訳、2004年、彩流社)などの作品もある。その他の邦訳された作品に、『そよ吹く南風にまどろむ』(喜多延鷹 訳、2020年、彩流社)、『落ちた王子さま』(岩根圀和 訳、2011年、彩流社)、『翼を失った天使』(ミゲル・デリベス 著、近藤勝彦 訳、2007年、私家版)『異端者』(岩根圀和 訳、2002年、彩流社)、『灰地に赤の夫人像』(喜多延鷹 訳、1995年、彩流社)、『赤い紙』(岩根圀和 訳、1994年、彩流社)、『好色六十路の恋文』(喜多延鷹 訳、1989年、西和書林)がある。



「2023年 『無垢なる聖人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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