北斎と応為 下

  • 彩流社
3.42
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本棚登録 : 102
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779120282

作品紹介・あらすじ

浮世絵師・北斎の娘、応為(おうい)こと葛飾お栄の謎に包まれた生涯を描き出す!

「美人画では娘に敵わない」と北斎をして言わしめた実在の娘・お栄(画号は応為)。
緻密な描写、すぐれた色彩と陰影表現を得意とし、父と共作するだけでなく、
代作もしていた! 
歴史の闇に消えていった「もうひとりの北斎」を、
綿密な調査と豊かな想像力で描き出した歴史フィクション!

◆「これはほんとうにカナダ人作家が書いた時代小説なのだろうか」ーー浅田次郎氏(作家)
◆「ボストン美術館名品展 北斎」(2014年巡回)に「三曲合奏図」出品
◆杉浦日向子『百日紅』(応為が主人公、ちくま文庫(上・下))が
  長編アニメーション映画化!
『百日紅 Miss HOKUSAI』 2015 年5月9日より全国ロードショー!
監督は「河童のクゥと夏休み」「クレヨンしんちゃん」のアニメーション作家
原恵一監督。キャスト(声の出演) は、杏-お栄、松重豊-葛飾北斎、
濱田岳-池田善次郎、高良健吾-歌川国直、 美保純-こと …等々です!

——女絵師・葛飾応為への注目がますます高まっています!

装丁は『ソフィーの世界』、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『極北』などを
手がけた坂川栄治氏です!

感想・レビュー・書評

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  • カナダ人女性作家が書いた、葛飾北斎と娘の女絵師、応為の物語。何故、作者がこの題材を取りあげたのか。

    というのは、著者あとがきにある。北斎は晩年、精力的にとんでもない数の肉筆画を描いているのだが、中風になった彼がはたして描くことができたのか。北斎の落款があったとしても北斎工房の誰かが描いたものではないか。それは恐らく、娘の応為によるものではないのか。という疑問が発端だ。この説は、『北斎娘応為栄女集』を上梓した久保田洋一により詳細な解説がされている。本作は、執筆にあたり、やはりその久保田洋一にも取材し、更に日本に来て緻密な調査をしたという。

    当時の江戸の下級町民の生活スタイルが詳細に描かれる。まあそれは読者が海外の人であれば必要なのかもしれない。下手な日本人時代小説よりもリアリティを感じる描写だ。

    北斎と応為に関わる作品としては、朝井まかての『眩』、杉浦日向子の『百日紅』を読んでいたので、父娘の周りの登場人物は凡そ頭に入っており、人間関係や時代背景は頭に入った上で読むと、いろいろと比較できて興味深い。

    本作における応為のキャラクター設定は、当時の女性としては特異なもの。男尊女卑な江戸時代にあって、絵師という男性社会で対等に立ち向かい、自我を持っている。しかし偉大な父の北斎の影に隠れ、結局絵師としての名声は後世に残すことはできなかったという矛盾。

    小説という形をとってはいるが、著者の調査とその結果による熱い思いを込めたの応為の物語だろう。

  • 北斎署名の晩年の肉筆画などには、実は娘お栄との共同作、あるいは代筆もかなり含まれているという。この説は「あとがき」に触れられているが、もしこれが冒頭にあれば、本文が種明かし的な要素をも含んで、より良かったかもしれない。(一般読者は北斎が偉いことは知っていても、お栄の事はそれほど知らないので、代筆と言われても、単にヒロインを引き立てる作為に見えてしまう)

    それは別として、吉原遊郭や下町の描写はきめ細かく、"外国人による筆とは思えないほど"。当時の情景やにおいを体感できるかのようなクオリティ。江戸時代の雰囲気を損なわない登場人物の言葉遣いなどは、訳者との共同作業による見事な完成度で、日本の時代小説家にも見習ってほしいくらい。

  • やはり応為が特殊だったらしい。時代から浮いているお栄の感じが素敵です。
    贋筆というと違和感があるが、代筆といえば、この父子関係にしっくりくるかと。
    他の、応為関連の小説も読んでみます。

  • 北斎が亡くなってからの応為の描写には疑問がある。あとがきにも。北斎が患っていた中風とは脳卒中のこと。言語に障害があったなら右麻痺がある。視野狭窄もあれば画風が変わってしまってもなんら不自然ではないという事を曖昧にしている。そして北斎も酒飲みとしている根拠に「長生きの方法としてウォッカと同じような芋焼酎2杯を朝晩飲んでいた。」と書いてあるがウォッカは90度以上、芋焼酎は25〜45度。江戸時代は蒸留技術がよくないので25度程度と思われるので間違いである。ひょっとしたら2杯もお猪口の可能性もある。応為の絵は酒飲みならではの見え方で素晴らしい絵。なぜ北斎も酒飲みにするのか応為の酒飲みを否定するのか分からない。江戸時代にも独り身の女性はたくさんいて仕立てなどで自立している人はたくさんいた。絵描きは印刷物以外にも襖、屏風、掛け軸、料亭、旅館、お寺、茶室、俳諧と沢山需要がある。これだけ絵が上手くて北斎の娘というネームバリューがある女性は職人として自立しているはず。まるでフランスの女流画家のように自己主張しているのは違うと違和感が残った。しかし志乃とのフィクションの部分はとても楽しめた。史実に忠実かどうかは小説の評価とまた少し違う。応為をクローズアップした良い物語だった。

  • 文体が少々残念。体言止めの多用で、スピード感やリズム感はあっても綺麗でなく含みもない文章となり、ガサツな印象が残ってしまった。講談のような感じを出したかったのかもしれないが。。。
    もしかしたら、もっと緻密に積み上げた感じを出したにほうが、物語に似合っていたのではないだろうか? 

    北斎の作品をあらためて見たくなった。

  • なぜ、外国文学の棚に北斎?と思って手に取ると、そこには英語で書かれたとは思えないほど、江戸時代の人々が生き生きと描かれていた。
    下町の町人のやり取りは、まるでその場にいるような臨場感に溢れている。
    北斎が可愛いおじさんというキャラクターで書かれており、新鮮だ。
    さて、美人画の真実はいかに!

  • 感嘆、の一言。カナダの作家が書いたとは思えない。生臭く極彩色に彩られた江戸の文化が、そして明治への変遷の激動が、まるで目の前に浮かぶような文章。丁寧な取材と確かな知識を基盤に(正しいのかどうかは勉強不足の私には分からないけれど)、北斎への、応為への、そして日本文化への、謙虚な愛と、尊敬と、労りが、隅々から感じられる作品だった。

    ただ、時間の経過がちょっと分かりにくい。原文がそうなのか、カナダ文学の特徴なのか、訳者の采配なのかは分からないけれど、風景描写もクドくて物語に入り込みにくい。現実なのか妄想なのか、本音なのか建前なのか、掴みにくいところも。多分に私の力不足もあると思うが、、、それらを上回る圧倒的内容の濃さに助けられた感はある。

    後悔していることが二つ。応為のことばかりで、北斎について勉強していなかったこと。江戸文化についても同様。そして、当時の世相や、交流のあった文人墨客についての知識不足。普段時代小説なんてからっきし読まないので、知らない単語をスマホで調べつつの読書。そりゃあ進まないし感情移入しようにも削がれる。応為のことが知りたくての選書だったのに、彼女の人生に多大な影響(影響どころかほとんど全てだったのではないか)を及ぼした父親と、彼らが生きた時代について、教科書程度の知識(ほとんど丸腰では?)でこの作品に挑んだこと、大いに反省すべき、と読書中に思いました。それでも充分楽しめた、作者の手腕に拍手。またいつか知識を増やして再読したいです。

    なぜ応為が自分の人生のほとんどを父親に捧げたか。当時の慣習をものともせず、料理も縫い物もしなかった偉大な影の女絵師。勿論、世相に逆らいきれなかったところもあるだろう、人間はいつだって時代に洗脳されている。他の門人たちのように「北斎」という名前の偉大さに幻影も抱いていただろう。だからこそシーボルトに本当のことを言えなかった。けれど、それよりもなによりも、「父に心底惚れていた。」「あんたより惚れた男はいない。」これほど的確な理由はないと思う。父としてでも、男としてでも、人間としてでもなく、絵師としての北斎に、心底惚れていた。だからこそ、北斎という男の偉大さに、横暴に、情熱に、己の人生ごと振り回されながら、慈しみ、仕えて、信仰し、父娘らしく憎しみ合って、愛した。史実が、真実がどうかは分からないが、少なくともそれこそが、この物語の全てであると思う。そして願わくば、父親も同じように娘に惚れていたのでありますように。

  • 買ったのに、上巻で中断したので、読んですらいないけど、終了かなぁ。

  • 下巻は1823年、シーボルトからスタート。
    えー、栄がシーボルトに片恋⁉︎式亭三馬や渓斎英泉との絡みはともかく、コレはないやろ。
    江戸の街を練り歩き、四文屋で買い食いする、栄みたいなオンナはきっと、我々の想像以上に偏屈扱いされたんだろうなあ。中盤で北斎は逝っちゃって、後は栄の晩年。何気にちょいちょい絡んで来て栄を助けてくれる、でもって最終的には東慶寺の住職に収まった(!)志乃の生き様が印象に残る。

  • 2.5

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著者プロフィール

Katherine Govier
カナダの作家。元ペン・カナダ会長。
Canada’s Marian Engel Award for a woman writer (1997)、
Toronto Book Award (1992) を受賞。2003年、代表作 Creation が
ニューヨークタイムズ紙ノータブル・ブックの1冊に選ばれた。

「2014年 『北斎と応為 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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