スペイン無敵艦隊の悲劇: イングランド遠征の果てに

著者 :
  • 彩流社
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感想 : 1
  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779120893

作品紹介・あらすじ

意外? 世界史を変えた海戦の真相は、正確に伝わっていなかった…。 初めてスペイン側の史料から、戦いの実像を再現する画期的な試み!

「本書ではフェリペ二世、メディナ・シドニア公、パルマ公、メンドサ大使等の書簡を精読のうえ、スペイン内部から(艦隊の)イングランド遠征の流れを組み立て、イギリスの資料も睨みながらスペイン艦隊の動きを追っていった。」(「あとがき」より)

感想・レビュー・書評

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  • イングランド海軍との戦闘による戦死者969名に対し戦闘以外の犠牲者(難破沈没による溺死、アイルランド漂着後に敵対勢力により処刑等)は7754名と推定される。

    【イングランドと交戦した背景】
    ①イングランドの私掠船が新大陸からの船だけでなくスペイン本土も攻撃してきたためにイングランドの力を削ぐ必要があった。
    ②ネザーラントのプロテスタント反乱軍をイングランドが援助しており、プロテスタント反乱軍よりも手強いイングランドを先に叩くべきと判断した。
    イングランドに上陸後はエリザベス女王を確保、カトリックに引き渡し異端審問にかける。
    艦隊の任務としてフランドルの部隊を上陸させるため艦隊を派遣し上陸を支援する。
    なお上陸部隊を掩護するため無駄な戦闘は行わず防御に徹する。

    【実情】
    船速が遅い船が艦隊に組み込まれておりさらに天候悪化による航海日数の延長で食料飲料水不足が発生。
    当時の大砲の照準技術が未発達であり接近しないとあたらない。加えてスペイン艦隊の大砲はあまり使い物にならず。
    イングランド海軍の猛攻を凌いで目的地に到着したが、上陸部隊との合流が果たせずスコットランド、アイルランドを北周りでスペインに帰還することに決定。
    しかしアイルランド沖の悪天候で艦隊はバラバラになりイギリス海峡に入る前は126隻、イギリス海峡を抜けた後は119隻いたのにスペインの港に帰還したのは65隻のみ。

    初っ端から戦列艦ロサリオが鹵獲され、戦闘で沈没したのはマリア・ファンのみ(味方の艦艇と接触した後に動けなくなりイングランド海軍の集中砲火をあびて沈没)
    ガレアサ旗艦サン・ロレンソも味方と接触し操舵不能になりカレー湾入り口で座礁
    集中攻撃受けたサン・マテオはオランダに鹵獲されるも沈没
    同じく集中攻撃受けたサン・フェリペも漂流し座礁

  • スペイン無敵艦隊の悲劇 岩根圀和著 敗者の資料精査し海戦を再構築
    2015/5/3付日本経済新聞 朝刊

     世界史上の四大海戦の一つと言われる「ドーバーの海戦」。1588年にスペインとイギリスが国家の威信をかけて戦った海戦で、覇権交代のきっかけとして知られる。結末は約3万人の将兵を乗せた約130隻のスペイン艦隊がイギリス海峡でイギリス艦隊に撃破され、帰還したのは65隻、将兵1万3千人。スペインの惨憺(さんたん)たる敗北であったという。







     しかし、この戦史はイギリス側の資料に準拠したものである。ちなみに「無敵艦隊」という名称は、戦闘後にイギリス側が皮肉を込めて付けたのであり、スペイン側は「艦隊(アルマダ)」と呼んでいた。本書は、スペイン側の資料を精査。従来の資料を睨(にら)みつつ、この海戦を再構築し、新たな見方を示す意欲作だ。


     総司令官シドニア公の作戦はフランドルに駐屯中のパルマ公軍に6千人の補充兵を送り込み、同時にイギリスへ進攻するパルマ公軍の渡峡船団を警護することであった。イギリス側の作戦は、「艦隊」の上陸を阻止することであった。


     7月31日、イギリス海峡入口のプリマス沖、7キロに広がる防衛陣形をとって進む130隻の「艦隊」と80隻のイギリス軍が激突する。大型の花形戦艦2隻が衝突事故と火災事故で喪失。だが、「艦隊」は、イギリス艦隊に追尾されながらも、そのまま狭い海峡を航進し、目睫(もくしょう)の間のパルマ公軍との合流を図るが、何故か、パルマ公軍が出撃しなかった。虎口を脱出した「艦隊」は北海へ入り、スコットランド北端から西へ、アイルランド沖を南下し、スペインまで3600キロ航海することになる。結局、スペインが喪失した艦船は7隻であった。


     しかし、この「動く要塞」と怖(おそ)れられた「艦隊」は、8月13日から18日まで続いた途轍(とてつ)もなく激しい嵐に襲われ、難破、座礁などで、54隻を喪失する。乗員は溺死するか、漂着地で待っていたのは殺戮(さつりく)の地獄であった。こうして「艦隊」は、海の藻屑(もくず)と消えてしまった。


     この海戦の結果は、果たして敗北なのか、あるいは遠征の失敗だったのか。実は、この海戦後40年間もスペインの大西洋支配は不動であった。この敗北に致命的な瑕疵(かし)があるなら、それは1492年のグラナダ制圧以来、軍事行動は国民的「十字軍」であるという信念に深刻な動揺を与えた点である。この海戦史の例を出すまでもなく、現在まで幾多の大戦争の結末は戦勝側の戦史のみが歴史として刻印されている。それが敗者側の戦後処理に重大な影響を与えていることも忘れてはならない。




    (彩流社・3500円)


     いわね・くにかず 45年兵庫県生まれ。神奈川大名誉教授。著書に『物語 スペインの歴史』など。
    《評》法政大学名誉教授 川成 洋

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著者プロフィール

いわね・くにかず Kunikazu iwane
1945年、兵庫県生まれ。神戸市外国語大学修士課程修了、
神奈川大学名誉教授。
著書に、
『贋作ドン・キホーテ  ラ・マンチャの男の偽者騒動 中公新書』
(中央公論社、1997年)、
『物語 スペインの歴史 海洋帝国の黄金時代 中公新書』
(中央公論新社、2002年)、
『物語 スペインの歴史 人物篇  エル・シドからガウディまで
 中公新書』(中央公論新社、2004年)、
『スペイン無敵艦隊の悲劇  イングランド遠征の果てに』
(彩流社、2015年)があり、
訳書等に、
『名誉の医師』(カルデロン・デ・ラ・バルカ 著、訳註、
 大学書林、 1982年)、
『サラメアの村長』(カルデロン・デ・ラ・バルカ 著、訳注、
 大学書林、1982年)、
『人生は夢』(カルデロン・デ・ラ・バルカ 著、訳注、
 大学書林、1985年)、
『セビーリャの色事師と石の招客』(ティルソ・デ・モリーナ 著、
 訳注、大学書林、1986年)、
『復讐なき罰』(ローペ・デ・ベガ 著、訳注、大学書林、1986年)、
『シドの青春時代』(ギリェン・デ・カストロ 著、訳注、
 大学書林、1987年)、
『疑わしき真実』(フアン・ルイス・デ・アラルコン 著、訳注、
 大学書林、1988年)、
『ヌマンシア』(ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ 著、
 訳注、大学書林、1990年)、
『赤い紙』(ミゲル・デリーベス 著、彩流社、1994年)、
『バロック演劇名作集  スペイン中世・黄金世紀文学7』
(牛島信明責任編集、共訳、国書刊行会、1994年)、
『贋作ドン・キホーテ〈上・下〉 ちくま文庫』
(アベリャネーダ 著、筑摩書房、1999年)、
『異端者』(ミゲル・デリーベス 著、彩流社、2002年)、
『マリオとの五時間』
(ミゲル・デリーベス 著、彩流社、2004年)、
『La lengua de las mariposas 中級読み物 蝶の舌 詳細注釈付』
(共著、朝日出版社、2008年)、
『糸杉の影は長い』(ミゲル・デリーベス 著、彩流社、2010年)、
『落ちた王子さま』(ミゲル・デリーベス 著、彩流社、2011年)、
『新訳 ドン・キホーテ 【前編・後編】』
(セルバンテス 著、彩流社、2012年)、
『ラ・セレスティーナ  カリストとメリベアの悲喜劇』
(フェルナンド・デ・ロハス 著、アルファベータブックス、2015年)、
『アマディス・デ・ガウラ(上・下)』
(ガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボ 著、彩流社、2019年)、
『エスプランディアンの武勲  続 アマディス・デ・ガウラ』
(ガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボ 著、彩流社、2020年)、
等がある。

「2020年 『ドン・キホーテのスペイン社会史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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