純白光: 短歌日記2012 (コスモス叢書 第 1035篇)

著者 :
  • ふらんす堂
4.00
  • (0)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 10
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781405698

作品紹介・あらすじ

◆短歌日記シリーズの第四弾!
窓際に置くシクラメン一月の純白光となりて奔れり
2012年にふらんす堂のホームページにて短歌日記の連載が一冊に。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2012年の一年間、毎日一首づつ書きつづった短歌の日記。「信号を待つ間見あぐる冬のそら雲の家族もゆるく別れぬ」「制服の男子は霧のにほひしてせつなかつたよ卒業のころ」「娘らが苺のやうであつたころ草いきれしたわたしのからだ」「死に飽きし者らめざむる気配あり花しろじろと降る平泉」「指先にサボテンの花噴き出でぬ自分が嫌でたまらないとき」「長椅子でこのまま眠つてはならぬ夜は出歩く長椅子のため」「洪水のバングラデシュを行く人の胸の高さに蛇泳ぎをり」「あの夏と呼ぶべき夏が皆にあり喉うごかして氷みづ飲む」「むかう向きの姑がさかんに話す人われには見えず夕闇の部屋」「真青なるおもひでは秋の草千里 肥後の筒酒のみて遊びき」「一点鐘ぽつんと鳴りてことごとく蟹はみほとけ泥の干潟の」

  • 図書館をぶらぶらながめていると、小ぶりで、白くきらきら光る本を見かけた。手にとり、なんとなくパラパラめくっていると「丸谷才一さん………」という文字を見つけてあわてて読み返す。
    えっ、丸谷さんがどうしたって?

    副題にもあるように、この本は短歌日記。ふらんす堂のホームページで2012年の1月1日から12月31日まで毎日掲載された。
    ふらんす堂といえば、むかし原石鼎の句集を買ったことがある。造本が凝っていて、栞もついていて、いい気持ちにさせられたっけ。

    1/1から順に短文と歌を読んでゆく。
    本好きとしては、こんな歌に目がとまる。

    本棚の忍耐とぎれ一冊の本ふいに落ち次々に落つ 4/1

    こういう時がいつか来そうでこわい……。
    日記には人の生活をのぞき見する楽しさもあるけど、この年は父と姑の認知症に苦悩していたらしく、こんな歌も。

    「今日はとてもお金がないの」と言ふ姑(はは)の電話、五回目あたりが悲し 5/15
    「深呼吸しましょう」と姑(はは)の手をとれば「どうやって息は吐くの」と言へり 7/14

    つらい。これはもう「つらい」と言うしかない。

    上手い!と思ったのはこの歌。

    またしても昭和の匂ひとだれか言ひ昭和はにほひのみとなりゆく 6/19

    そうだね。もう昭和の実体はない。「匂い」のみがあるのだ。昭和も遠くなりにけり。

    これもよかった。

    乾杯のグラスを挙げる二十四の手のなかにあるひとつ左手 7/15

    情景があざやかに浮んでくる。一人だけ左ききがいるパーティー。しゃれてるなあ、と思う。

    もう一首、こんなのも。

    ふるさとの風呂場で消したなめくぢは泡となりいま手にあふるるよ 6/26

    暮しを歌ってるのに、どことなく幻想的。メルヘンチックな気もするけど、なめくじが手にあふれると考えると気持ち悪く、そうした微妙な感じがまたいい。
    「乾杯の~」が社交的な歌とするなら「ふるさとの~」は個人的な歌かな。

    そうそう、肝心の丸谷さん。10月19日付。

    「丸谷才一さんからいただいた手紙や葉書を、ひとつひとつ読み返した。紫のインクや水色のインクで書かれた旧仮名の文字を読みながら、丸谷さんが亡くなったことをじわじわと実感して悲しくなった」
    という短文と

    丈ひくき鶏頭あたたかさうに立つけふ遠くから自分を見れば

    という歌。失礼ながら歌の方には魅かれなかったのだけど、短文にはぐっときた。小島さんは毎日新聞書評委員。丸谷さんはここの元締めだったから書評委員会で何度も会っていたのだろう。
    「紫のインクや水色のインクで」という言葉から丸谷さんの本の題名『いろんな色のインクで』を連想した。丸谷さんの手紙ってどんなものだったのかな……。一度見てみたい。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1956年、愛知県名古屋市生まれ。1978年、大学在学中に「コスモス」入会。現在、「コスモス」短歌会選者・編集委員。「NHK短歌」選者。産経新聞、中日新聞、熊本日日新聞、南日本新聞歌壇選者。毎日新聞書評委員。青山学院女子短期大学講師など。歌集に『水陽炎』『月光公園』『ヘブライ暦』(第7回河野愛子賞受賞)『希望』(第5回若山牧水賞受賞)『獅子座流星群』『エトピリカ』『憂春』(第40回迢空賞受賞)『純白光 短歌日記2012』(第6回小野市詩歌文学賞、第7回日本一行詩大賞受賞)『泥と青葉』ほか。

「2015年 『和歌で楽しむ源氏物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小島ゆかりの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×