人間仮免中

著者 :
  • イースト・プレス
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781607412

作品紹介・あらすじ

壮絶な過去と統合失調症を抱えた著者が、36歳にして出会った25歳年上のボビー。苛烈で型破りで、そして誰より強靱なふたりの愛を描いた感動のコミックエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 卯月妙子さんの名はミミズ関連のはなしで噂には聞いていた。(みなまで言いませんが)
    でもこんな壮絶、という言葉では言い表せないほどの半生を送られていたとは...!
    統合失調症は最近漫画やエッセイで本人や親しい人たちの声が聞こえるようになったとおもうが、この漫画は患者本人によって妄想や症状を包み隠さず描かれている、という点で貴重では。妄想は凄まじく、「一見奇怪な行動をとっても無理ないな」と思った。電車に乗っているとき、人を殺したくなったので持っていた鉛筆?で腕をぶっ刺しつづけたり、入院先の病院で「病院の人に殺される」妄想に陥り、恐怖に打ち震えたり。歩道橋の上から顔から地面にダイブしたり。徹底的に「当事者」側から描かれているので追体験できたようなそんな錯覚に陥る。でも読み心地は「愛っていいなあ」なのだ。卯月さんから惚れて始まった25歳年上の「ボビー」との恋愛や親類や前の旦那との息子のシゲルとの交流。彼女自身の何て言うのか、「色々あっても生きてるって素晴らしい」というポジティブな面がそう思わせられるのか。分厚い漫画だけど一気に読めます。

  • 客観的にみて大変そうな人生だけど、いろいろな人から愛されているってこは、魅力的な人なんだろうなと思った。 絵は一見小学生の落書きのようなんだけど、マンガとしての表現はおさえており、絵柄や雰囲気のおかげで、重くならずに読みやすい。人間仮免中というタイトルが言いえて妙。私も「人間」合わないなあと思う時はある。

  • 統合失調症という病気の恐ろしさが伝わる。発症原因がわかっておらず誰にでも起こりうる病気。薬でコントロールすること難しさ、また、主治医や家族、友達など、自らの周りの協力が必要となる。

  • いやーどうやったらここまで人生が波乱万丈になるのか。めちゃくちゃな日々をポップにデフォルメしながらも、ディティールを失わない表現と記憶力が作者にあって本当によかった。
    特に統合失調症を患いながらの病状の描写などは非常に貴重で助かる。

  •  最近各所で絶賛されている、話題のコミック・エッセイである。『読売新聞』の書評欄では小泉今日子が絶賛の書評を書いていた。

     形式としてはコミック・エッセイだが、気軽に楽しめるようなものではない。ヘビーすぎる内容はむしろ「究極の私マンガ」という趣。
     同じ版元から生まれたベストセラー『失踪日記』(吾妻ひでお)の類書といえるが、『失踪日記』にはあったエンタテインメント性は、本書には乏しい(著者はかなりがんばって読者を楽しませようしているのだが)。

     本書の巻末にある著者略歴を、そのまま引用。これほど強烈な著者略歴も珍しい。
     
    《1971年、岩手県生まれ。20歳で結婚。しかし程なく夫の会社が倒産し、借金返済のためにホステス、ストリップ嬢、AV女優として働く。排泄物や嘔吐物、ミミズを食べるなどの過激なAVに出演。カルト的人気を得る。その後夫は自殺。幼少の頃から悩まされていた統合失調症が悪化し、自傷行為、殺人欲求等の症状のため入退院を繰り返しながらも、女優として舞台などで活動を続ける。さらに自伝的漫画「実録企画モノ」「新家族計画」(いずれも太田出版)を出版し、漫画家としても活躍。2004年、新宿のストリップ劇場の舞台上で喉を切り自殺を図ったことでも話題に。》

     本作は、このように凄絶な過去をもつ当時30代の著者と、25歳年上の男気あふれる初老男性「ボビー」(これはアダ名で、日本人)のラブストーリーである。

     といっても、「最初の自殺未遂は、中学3年生でした。/それから、何度か自殺を図り、精神病院への入退院は7回、そのうち2回は措置入院です」(「あとがき」)という著者と、過去に3度結婚に失敗しているアクの強いボビーとの恋が、フツーの恋になるはずもない。

     一般のラブストーリーにあるような甘さや夢見心地は、ここには一切ない。ラブストーリーのみずみずしい果実部分を全部捨ててしまって、芯だけを味わうような物語。甘さの代わりに痛さ・苦さがあり、ざらざらとした舌触りがある。それでも、ラブストーリーとしか言いようがない。

     著者が歩道橋から飛び降り(自殺という意識が希薄なところがコワイ。病気からくる全能感により、著者は「バンジーか! 運試し!! でも全然死ぬ気がしねえ」とつぶやきつつ飛び降りるのだ)、顔面を粉砕骨折するなどして病院に運ばれてからの顛末が描かれる後半は、読み進めるのがけっこうキツイ。
     とくに、著者の妄想・幻覚の詳細な描写は、心を病んだ経験のある人なら読まないほうがいいかも、と思えるほど。

     それでもガマンして読み進めると、終盤には名作『自虐の詩』(業田良家)を彷彿とさせる怒涛の泣き展開が待っている。
     「幸や不幸はもういい/どちらにも等しく価値がある/人生には明らかに/価値がある」……と、これは『自虐の詩』の名高いラストフレーズだが、本作のラストでも私の脳裏にはこのフレーズが浮かんだ。

     粉砕骨折で「妖怪油すまし」(と、著者自身が作中で表現)のような顔になって退院してきた著者を、その夜、ボビーは優しく抱く。そのシーンの片隅にポツリと置かれたモノローグが、泣ける。

    《ボビーがセックスしてくれたおかげで、おいらは自分の顔に絶望しないで済みました。おいらこの経験だけで今後何があっても生きていけると思いました。》

     どんな病気を抱えていようと、どんな顔になろうと、どんな過去があろうと、生きていることそれ自体にかけがえのない価値がある――そう思わせる、かぎりない「生の肯定」のマンガなのである。
     帯に大書された「生きてるだけで最高だ!」は、この作品の核を的確にとらえたいいコピーだと思う。『人間仮免中』というタイトルも秀逸だ。

     『漫画家残酷物語』(永島慎二)に「血を流して描いてるんだ」というセリフがあったが、本作はまさしく、作者が血を流し、身を削って描いたマンガだ。

     プロのマンガ家が描いたとはとても思えない絵で描かれている(飛び降りで片目を失明し、精神状態も悪いため、過去の作品より画力が大幅に後退しているらしい)のだが、技術的な巧拙を超越して、読者の心を鷲づかみにするパワーがみなぎっている。

  • 夫の借金と自殺、自身の病気と自殺未遂、AV女優他様々な職業…。波乱に満ちた人生を送ってきた著者が36歳にして出会い恋をした、25歳年上のボビー。男気あふれるボビーと、ケンカしながらも楽しい生活を送っていた。そんなある日、大事件が起こる。年の差、過去、統合失調症、顔面崩壊、失明……
    すべてを乗り越え愛し合うふたりの日々をユーモラスに描いた、感動のコミックエッセイ!
    デビュー作『実録企画モノ』で大反響を巻き起こした“漫画界の最終兵器”卯月妙子の、10年ぶり、待望の最新刊!
    前半部分の統合失調症の卯月妙子さんとかんしゃく持ちだが男気溢れるボビーとの卯月さんの病状悪化により女優業がドクターストップかかったり、ボビーさんが友人の借金の保証人だったことから卯月さんの協力で節約貧乏生活したり、紆余曲折ありながらもラブラブ生活をおくるピュアなラブストーリーと後半部分の自殺未遂の後遺症に悩みながらも肉親の広い愛やボビーの献身的な愛を支えに闘病生活を過ごす部分が、ところどころ入院中の卯月さんの妄想や顔面整形手術や闘病生活などの壮絶な描写はあるけど、ピュア過ぎるボビーさんや肉親の愛情や卯月妙子さんのしぶとい生き方に大笑いしながら、生きる元気をもらえるコミックエッセイでした。
    ボビーが卯月さんを励ますために言った「大事なのは、1にこの世にあること、2に快くこの世にあること、生き様なんて5番目だ。」に、大きな力をもらいました。

  • 人生仮免でも必死に生きると居場所ができる

    大きな前兆があるわけでもなく、だんだんハイになってその勢いで自殺未遂すると言う流れが心に残った。

    そういえばわたし自身が包丁を手に取って手首切ろうとしてみた時も、なんとなくだった。

    思ったことはすぐ言うし、はっきり生きる主人公が眩しく見えた。

    この漫画を描くまで苦労したと言う話が巻末にあったが。それだけ内容の濃い話になっていて読み応えがあった。

    完璧じゃなくていいから、小さな違和感や小さな輝きを逃さず生きていこうと思った。

  • すさまじかった…ボビーの愛が本当に広大、深い、大きい。
    寿命を縮めて描いたのではというまさぽさんの言葉に頷く。

    人の情がわかるようになったとか、幻聴や妄想の実体験とか、淡々と描かれるけど赤裸々だし、描かれていないものも含めてすさまじい。この人のこの体験でしか描けないもの。
    読めてよかったな…

  • コミックやったんやね。しかし、壮絶すぎて…。

    吾妻ひでおの「失踪日記」が、この手のマンガでは傑作だと思っていたが、壮絶さにおいてはこちらの方が圧倒的に上。
    (失踪日記が作品として負けてるわけではない)

    統合失調症ってほんま大変。ここまで壮絶な人生になってしまうんやなぁ、そしてそれでも自分の境遇にめげず、負けず、自分で背負いきれない状況や自体にあたれば、人に寄りかかり、自分でもできるだけのことは対処して、日々を全力で生きていく。楽しめる時は楽しむ。

    生きててくれてありがとう

    この言葉がストンと腑に落ちる。世の中にはこうやって生きていく人もいるんだ、俺も色々頑張ろう。と意外にも勇気と元気をたくさんもらえる1冊だった。

  • 壮絶。
    ハードなAV女優上がりで、統合失調症。背中には一面彫り物がある。歩道橋から飛び込み自殺、顔面複雑骨折。目が1ブロックずれる。

    彼氏は25歳年上のボビー。著者本人から大好きになって交際を申し込んだ。

    統合失調症という病気から起こる幻聴や幻視を本人の立場から描いている。7回の精神科入院歴あり。

    自殺衝動、殺人衝動、周囲が自分を殺す相談をしている声が聞こえる。

    こんな状態の人がよくマンガなんて描ける・・。
    小泉今日子が、生きて描いてくれてありがとう、と書いていたが、本当に同感だ。

    私なら耐えられないような状況・状態なのに、読後感はあたたかで、ボビーや家族の愛に包まれている著者が、すてきだなあ、と思ってしまうのだ。

    こんな人もいるんだあ。また新しい世界を見てしまった気がする。

    人間って、すごい。

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