失踪日記2 アル中病棟

著者 :
  • イースト・プレス
4.13
  • (147)
  • (161)
  • (74)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 1155
レビュー : 166
  • Amazon.co.jp ・マンガ (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781610726

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 実体験をベースにして、アルコール依存症患者の入院病棟を描いた本です。わたしは普段めったに漫画を読まないのですが、本書は昨年(2013年)末に購入して以来、もう何度も読み返しています。

    思えば10代の頃から、「"使えない"やつには存在価値がない」という命題に、いかにして否と答えるか、という中二病的問題をずっと考え続けてきました。大学で政治学を専攻した動機も、つきつめればこの問いへと遡ることができます。生まれも言葉も信仰も異なる人びとが、それでもなかよく暮らしていくには、どうすればよいのか。人びとの中には当然"使えない"人も含まれます。

    世界が弱肉強食の原理だけで成り立っているのだとしたら、彼女ら彼らが「存在価値ないよ」と言われて切り捨てられることは自明の理のように思います。一見寛容にみえる宗教だって、歴史を振り返れば、"使えない"やつを切り捨て続けてきたのです。

    本書には、それこそいろいろな"使えない"人間が、不思議なほどのリアリティをもって現れます。それぞれに個性的・印象的であり、しかしごくごく普通の人たちでもある。ともすればステレオタイプで捉えられがちな"アル中"を、多様に描き分けるところに、著者の誠意を感じます。そして個々の登場人物に、濃淡はあれど、個人的な思い入れを感じます。

    P.42に登場する「何事にもやる気が無い」篠田さん、がいまのわたしにいちばん近い人物であるように思われます。P.127では、良識派(?)の小林さんが散歩の途中で「僕は退院したくないね」とつぶやきます。直後に著者の(どういう人なの?)という感想が述べられていますが、わたしは、小林さんの気持ちがよくわかる、ような気がします。

    第21章、著者の明らかに理不尽だけれど抑えられない周囲へのいらだち。そして後から襲ってくる自責の念。P.110で描かれる、電気ポットによるお説教のエピソード。「おまえはダメなやつだ。ダメなやつだ。ダメなやつだ」。P.256のクマさん、スリップした友人への憤怒とやさしさ・・どれもこれも、ありありとその感情がこころに浮かんでくるようです。

    "使えない"人たち、特に登場人物の中で、とりわけ"使えない"浅野という人物も、絵そのものは可愛らしく描かれています。本書全体が、わたしが固執してきた思想あるいはドグマ、すなわち、生きているだけでなぜ悪い、というメッセージをひっそりとたたえているように思います。

  • 「失踪日記」の続編。

    作者が生きることに大変苦悩しながら、表現者として、芸術家として、本物であることを証明した本。

    本当に大変な経験をしている中、よくぞここまで自分を客観視して、完成度高い漫画にできるなと。

    アルコール中毒は、死に至る病気。
    これは以前、西原理恵子の本でも、実体験として、心の底からの叫びとして書かれていて、印象に残っている。

    アルコール中毒という病気と折り合いをつけながら生きていかなければいけないのは、我々には想像もつかない恐怖であろう。そもそも、アルコール中毒の人は、日常の不安から逃れたいという人が多いと思う、その不安と付き合いながら、アルコールの誘惑からも逃れないといけない。

    この漫画は、そんなシリアスな現実も、笑いに昇華してしまう。登場人物たちは、世間とうまくやっていけないアウトサイダーだが、だからこそ人間らしく、活き活きとしているように見える。(実際は、もっと過酷なんだと思うが。)

    ある意味、吾妻ひでお自体がそちら側にいたからこそ、一定の共感、仲間意識をもっている。また、批評意識が高く、人をクールに観察していること(客観性をもっていること)の両面がうまい具合に交じっているから、ここまで、エンターテイメントに表現できるのだろう。

    つげ義春がギャグ漫画かけたら、こんなだっただろうなという印象。

  •  これを普通に笑いながら読めるんだけど(密度は濃いから読み進むのに時間がかかるの)、けれど、実際にアル中病棟に入院したのが作者であると思うと……なんというか、じわじわくる。
     自分の内面についてじぃと見つめるでもなく、ただ、淡々と作品としてこの本を仕上げた精神力はさすがギャグ漫画家であると思う。ストーリー漫画家であったら、物語にしてしまい「よい話」になってしまったんじゃなかろうか。

     アルコール依存症からの回復は20%程度に留まる。
     つまりそれは、何度も何度も再発するということを示している。出てくる人たちは当たり前のように普通なのにどこかおかしい(おかしいというと失礼なのかもしれないし、漫画的な誇張もあるのだろうけれど)。

     特別な理由があるから、アルコール依存症になったのではなく、アルコールを飲み続けるうちに依存症になってしまった。アルコールが無い生活を感柄レ無くなったというのが近いんだろうか。
     眠れない……というのは本当に恐ろしいことなんだろうな、と感じた。

  • ストレスからアルコール依存になり家出した経緯を描いた『失踪日記』のラストで、
    依存症治療のための入院生活について触れられていたが、
    やっと出た、その詳細版。

     完全主義者は身を亡ぼす〔p.310〕

    当事者全員に当て嵌まるわけではないにしても、この一言で
    調子を崩す→何かに縋る→そのせいで更に具合が悪くなる……という、
    依存の機制についてズバリと的を射ている気がする。
    俯瞰の大ゴマが、
    不安あるいは身の置き所のなさを見事に描出しており、マンガ表現として秀逸。

  • なぜ人間の業はこんなにもおもしろいのか。

  • アルコール依存の専門病院の治療や生活が分かった。登場人物が皆おかしく、話としては面白いが実際に会うと、自分には耐えられないかもしれない。

  •  予約しておいた吾妻ひでおの『失踪日記2 アル中病棟』(イースト・プレス/1365円)が届いたので、さっそく読んだ。
     本日発売。かなり前に予約したのに、今日届いたものは第2刷だった(マニアなら怒るぞ)。予約だけでも相当売れたのだろう。

     言わずと知れた大傑作にして、30万部のベストセラーとなった『失踪日記』の続編。

     2005年に『失踪日記』が出た際、著者プロフィール欄に「入院後半のエピソードは続編にて」とあったので、すぐにでも続編が刊行されそうな印象を受けた。にもかかわらず、延々と待たされることじつに8年(正直、「もう出ないんじゃないか」と思っていた)。満を持しての続編である。

     正編は、①失踪後のホームレス生活、②配管工事の肉体労働をしていた時期、③その後マンガ家として一度復活するも、アル中になって強制入院させられた日々――という3つのパートに分かれていた。
     この続編はタイトルどおり、③の入院生活のつづき(退院まで)が描かれている。

     330ページを超えるボリュームに驚かされる。正編より130ページ以上も多い。それだけのページ数でアル中病棟暮らしの後半2ヶ月間が描かれているから、ディテールはすこぶる濃密。

     ただ、正編と比べてしまうと、面白さは一段落ちるかな。
     正編は短いページ数の中に印象的エピソードがギュッと詰め込まれていたから、密度とスピード感がすごかった(逆に言えば「駆け足感」もあった)。対して、本書はゆったり、じっくりと描かれている。
     けっしてつまらなくはなく、十分面白いのだが、正編がすごすぎた分、割りを食って見劣りがするのだ。

     比較すべきはむしろ、花輪和一の『刑務所の中』だろうか。『刑務所の中』が作者自身の獄中体験を描いたものであるのに対して、本作は作者自身のアル中病棟への入院という体験を描いている、という意味で……。
     優れたマンガ家が特異な実体験をマンガ化すれば、観察眼や描写力、デフォルメの巧みさ、キャラの立て方の技術によって、必然的に面白いマンガになるのだ。アルコール依存症を描いたマンガで、本作を超えるものはおそらく今後出ないだろう。

     アル中の恐ろしさが身にしみるマンガでもある。酒飲みのハシクレとしてはとくに……。
     たとえば、アル中真っ只中に見た幻覚の恐怖を表現する言葉――「恐ろしいと頭で考える自分の声すらも恐ろしいんだよね」は、実体験からしか生まれ得ないリアルな表現で、ゾッとする。

     また、断酒1年目に突如襲ってきた強烈な飲酒欲求に、「ほっぺたの内側の肉噛んで血流して耐えた」なんて一節も、これまた恐ろしい。

     『失踪日記』では悲惨な体験が突き抜けた笑いに昇華されていたが、本作は総じて笑いの要素が抑えぎみだ。
     退院後の「不安だなー 大丈夫なのか? 俺……」という作者のつぶやきで幕が閉じられるのだが、それ以外にも、心に暗雲が立ち込めるような場面が随所にある。いかな吾妻ひでおでも、アル中病棟への入院という体験をそっくり笑いに転化することはできなかったということか。
     ただ、全編に漂う暗さと寂寥感、ペーソスが、捨てがたい味わいになっている。

     また、正編よりも絵のクオリティにこだわった作品でもある。
     たとえば、コマは総じて正編よりも大きく、背景などもていねいに描き込まれている。「あじま」キャラは正編の二頭身から三頭身へと変わり、少しだけリアル寄りになっている。
     正編にはまったくなかった1ページ1コマの大ゴマもくり返し登場し、それらは絵として強い印象を残す。

  • 終始憂鬱感が漂う。お酒で憂鬱を散らしてたのに、そのお酒が飲めなくなってどれほどしんどかったんだろう。読んでいて一緒に憂鬱になってしまった。

  • つながる、て気持ち悪い表現やなっていうのが、なんか妙に分かる。
    アル中になってもたら好きな酒も飲まれへんようになる、て、なんて厳しい闘いなんだろう。

  • 一時は人気を誇った漫画家・吾妻ひでお。私も子供の頃に
    作品を読んだ記憶がある。

    その人気漫画家が仕事を放り出して失踪。自殺未遂、路上生活、
    肉体労働、そしてアルコールに溺れ、家族に入院させられるまでを
    描いたのが前作『失踪日記』だった。

    本書は『失踪日記』の終わりの方で「続きはまた」と書かれていた
    アルコール中毒治療の病棟での日々を綴ったものである。あ、
    勿論、漫画です。

    入院生活を送るなかで体験した治療内容や、他の入院患者を
    観察した描写なのだが、禁断症状やら鬱に晒されながらよくぞ
    これだけ記憶していたなと思う。

    依存症からの脱却って辛いと思うし、その治療の過程でも
    しんどいことがたくさんあったと思うんだ。でも、それを作品
    として昇華出来てしまうのって凄いわ。

    作品として出版される以前の初稿の段階ではもっと暗い話に
    なっていたそうだが、決定稿でも十分に辛い部分は伝わって
    来る。それを、吾妻氏の作風が緩和しているんじゃないかな。

    入院中に外泊許可が出て自宅に帰るシーンもいいのだが、
    やっぱりラストの退院して帰宅するシーンは読んでいる方
    もなんだかほっとする。

    尚、吾妻氏は今でも断酒に取り組んでいる。これは一生、
    努力しなきゃいけないんだろうな。

全166件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

吾妻 ひでお(あずま ひでお)
1950年、北海道生まれ。上京後就職するもほどなく退社。
1969年『月刊まんが王』12月号掲載の『リングサイド・クレイジー』でデビュー。コメディ路線の『ふたりと5人』がヒット。1979年に『不条理日記』日本SF大会で星雲賞(コミック部門)を受賞し、「不条理漫画」というジャンルを確立。
失踪事件を起こした後にアルコール依存症に。そこから復帰して記した『失踪日記』が高く評価され、大ヒット。第34回日本漫画家協会賞大賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門をそれぞれ受賞。

失踪日記2 アル中病棟のその他の作品

吾妻ひでおの作品

失踪日記2 アル中病棟を本棚に登録しているひと

ツイートする