男が痴漢になる理由

著者 :
  • イースト・プレス
3.79
  • (8)
  • (12)
  • (13)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 152
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781615714

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 日本でもっともありふれた性暴力の形態である「痴漢」。おそらくだからこそ、世の中には、その問題性を頑なに認めようとしない物言いがあふれている。痴漢よりも「痴漢冤罪」こそが大きな問題であるとか、女の側にも問題があるといった言説は典型的だ。多数の痴漢加害者と接してきた依存症クリニックの精神保健福祉士による本書は、痴漢にまとわりつく神話の雲を吹き飛ばす知見に満ちている。
    痴漢に限らず、性犯罪は、「男性がもつ自然な性欲」を妻か風俗で発散できない男が抑えきれずに起こしてしまうものとされてきた。そういうジェンダー非対称的な解釈枠組みを刑法システムが創り上げ強固に維持してきているわけだが、著者によれば、痴漢はアルコールやギャンブル依存などと同じ依存症。適切な介入がなければ自力で脱出するのは困難という。なかでも衝撃的なのは、「痴漢は生きがい」という加害者たちの発言だ。会社などでのストレスと、痴漢という発散の手段がいったん結びついてしまった者たちは、「自然な、抑えきれない性欲」に衝き動かされているどころか、捕まらないよう、準備や逃走に入念に気をつけながら、徐々に加害行為をエスカレートさせていく。
    ジェンダー非対称な性犯罪理解のひとつの帰結が、たとえ捕まっても悪質でなければ刑事罰よりも示談、という司法判断だが、せっかく捕まっても罰金や示談で済ませることは、「まだ大丈夫」という認識をあたえてしまうことになる。刑事罰も再犯防止にはつながりにくい。逮捕を医療介入につなぐチャンスにすることが大事だという。
    基本的に医療アプローチを主張する本書だが、とはいえ、完全に個人の病理として理解するのは過ちだ。ストレス発散の手段として女性に対する性暴力を多くの男たちが選んでいるという現実は、社会における女性の人権軽視の蔓延と切り離すことができないからである。他の男性が痴漢をやっているのを見て自分もやるようになった、日本に来てから痴漢をおぼえたという加害者がいるのは、日本社会の性暴力への寛容さを反映するものといえるだろう。
    痴漢がアルコールやギャンブル依存症と違うのは、そこに必ず被害者が存在し、たとえ加害者にとっては問題行動からの脱出という「解決」が訪れても、被害のトラウマはそこで終わらないということだ。性差別が蔓延するなかで育ち、女性を対等な人間と思っていないからこそ、ストレス発散の対象として性暴力を選んできた加害者は、いくら反省の言葉を述べても、その実、被害者の存在がほとんど意識にないことが多いという。この点の気づきを加害者に絶えずうながすことが治療の重要なポイントのひとつだという指摘には深くうなずける。その意味で、加害者の行為に対する妻、母親、父親それぞれの異なる反応という話も示唆に富む。
    安易な治療アプローチをとることなく、社会構造としての性差別と個人の行動がどのようにリンクするのか、さらに探求が必要だろう。

  • 痴漢は性依存症。この観点から、一貫して加害者(場合によっては加害者家族も含む)の治療の必要性を説いている。

    共感性の低さ、認知の歪み、ストレスコーピングの選択肢の少なさ、などが痴漢の特徴・キーワードとしてあげられている。

    治療計画や取り組みなどが興味深く、これは広く知らしめたほうがいいのでは?と思った。

  • レビュー省略

  • 痴漢という犯罪を世の中から如何になくすか?という観点に立ち、
    痴漢の実態・真実を詳細に説明している内容。
    依存症であるということは改めて理解できるものの、
    やはりあくまでも自分本位の身勝手な論理に裏打ちされている事実。
    やはり許されるものではないということが改めて理解できた。
    ただ、この依存症を直すために取り組んでいる著者・その加害者家族の存在。
    こうした人達のこうした取り組みが不要になるようにするには、
    やはり、個々人の意識が大事。これは人に教えてもらうものじゃないと思う。

  •  徹底して被害者の側に立った上で、痴漢行為を依存症として治療の必要と治療法を解説する。痴漢をしてみたくなる気持ちが理解できなくはないため読んでいて苦しくなる。満員電車に乗る環境になくて本当によかった。前から『それでも僕はやってない』の、普段はやっているけど、その時だけは本当にやっていなかった痴漢冤罪事件の話を作ってみたいと思っていたのだけど半端じゃなく大変そうだ。

     著者がその立場になく、分析したり解説したりするのが仕事とは言え、ここまで書くならあなたはどうなのだ?というのが気になった。痴漢は性欲とも実は密接ではないという論もあるのだが、それでもなお性欲を持っていること自体に後ろめたさを感じさせられる。

     先日映画にもしていただいた『チェリーボーイズ』がまさに認知の歪みをベースに作られた物語であるので申し訳ない気持ちになった。

  • 【2017年度「教職員から本学学生に推薦する図書」による紹介】
    貞許 礼子 先生の推薦図書です。

    <推薦理由>
    (「犯罪」は犯人に責任がある、というのははもちろんですが)「社会に根強く残る性差別」と「加害者本人だけでは解決できない依存」という問題に気づくことができます。この社会から性犯罪を少しでも減らすために。

    図書館の所蔵状況はこちらから確認できます!
    http://mcatalog.lib.muroran-it.ac.jp/webopac/TW00358767

  • うーん、意外と深い。認知の歪みとか、うつ病とかとも共通する点も。

  • とにかく痴漢に特化した本。おもしろかった。

    痴漢が単に性欲から来るものだけではないという認識が一般にもっと広まれば、また別の撲滅のためのアプローチができるのでは?と感じた。
    しかし、女性に一切責任はないと言い切るのはどうだろう。フェミニズムが流行し、本質とズレているような理論さえも持て囃される昨今において耳障りは良いかもしれないが、誘発させないリスクを限りなく抑えるという意識も少なくとも必要ではあると思う。

    2017.11.08

  • 今の業務とはほぼ無関係ですが、私の中長期的な関心分野である司法と福祉ないし再犯防止といったあたりの関係で、先日クレプトマニアについてのお話を聞きに行ったときに講師の先生から著者割引で購入。
    自分が刑事事件を扱う中で受けてきた印象とかなり重なる加害者像がわかりやすく書かれていて、実態の理解にはとても役立つ本だとおもいました。
    逮捕や示談金(や短い実刑)だけじゃ認知のゆがみは治らない、、、ということからは、「治療をやってみないとだめだよね!!」という認識が、加害者本人にも警察や司法関係者にも広まることが必要なのかなと認識を深めました。
    トリガーの把握とそれに対する対処方法を中心とした、リスクマネジメントプラン。それで再犯防止になるかはわからないけれどちょっとずつでも試していくことの意義はあるということですよね。

  • 最後の「STOP!痴漢」可能なのか。の章がとりわけ重要。「痴漢は依存症です」「痴漢は治療できます」というメッセージこそ効果的なのだ。

    認知のゆがみとコーピングの選択肢の少なさか。
    男である自分を省みる格好の機会となった。

全21件中 1 - 10件を表示

男が痴漢になる理由のその他の作品

男が痴漢になる理由 Kindle版 男が痴漢になる理由 斉藤章佳

斉藤章佳の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
又吉 直樹
恩田 陸
伊賀 泰代
三浦 しをん
佐々木 圭一
有効な右矢印 無効な右矢印

男が痴漢になる理由を本棚に登録しているひと

ツイートする