この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。
- イースト・プレス (2017年12月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784781616087
作品紹介・あらすじ
普通に働いて、普通に生きたかった。その「普通」が、いかに手に入れるのが困難なものかを知った。ブラック企業で働き、心を病んで自殺未遂。失職、精神障害、親との軋轢、貧困、希死念慮。女一人、絶望と希望の記録。
感想・レビュー・書評
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主人公は、うつ病から、精神障碍者として認定を受け、生活保護へ。
当事者にならないとわからない、マイノリティーとしての心境が、ヒリヒリしながら、同時に淡々とつづられている。
読んでいる側はぐいぐい惹きこまれる。
また、精神障害のケア団体の拝金主義的な活動や、生活保護への暴力的なネットでの中傷など。
弱者へ対する攻撃的な世間への恐ろしさが感じられた。
仕事をするとは、社会と関係を持つこと。
関係をもてなくなり、どんどん社会から離れていく。
認めてもらうために歪な状況に迷い込んでいく筆者。
最終的な自殺未遂の数々。
途中ではたと、筆者自身で気づく。
自殺未遂をしていたのは、誰かにかまってもらいたかったから。
ではないか。
自分を客観的に見れることができたことが、筆者の人生に対してとても重要な効果を及ぼしていると思う。
この本の記載も一人称、自分目線で書いていながら、どこか自分自身を客観的にみれているような俯瞰の視点を感じられた。
人間は一人では生きていけない、誰かに認めてもらい生きていける。本当の孤独の中、人は生きる意味を見失うのだと感じた。
筆者が言っているように生活保護は重要な制度だが、運用がもっと良くできる余地があるんだろうなと思う。
福祉、介護関係には膨大な時間がかかりコストパフォーマンスのモノサシで測ってしまうと、本当の価値が測れない面が多々ある。その中で資本主義社会でどのように成り立たせていくのか、今後の課題だ。 -
2年前に出た本だが、Kindleで無料で読める著者の自伝マンガ(本書にも収録)「女編集者残酷物語」を読んだら面白かった(※)ので、手を伸ばしてみた。
※私は著者同様、月給12万の編プロで働いていたことがあるので、大いに身につまされた。
マンガになっているのは「女編集者残酷物語」のみ。あとはすべて文章である。
自殺未遂をして編集者を辞め、精神科に通いながら生活保護を受けることになった著者が、やがて働き始めて生保から抜け出すまでが綴られている。
「貧困女子もの」「メンヘラもの」は、いまやルポやコミックエッセイの分野で1ジャンルにまでなっている。
本書もその一つであるわけだが、類書がこれでもかとばかりにドギツイ話を満載しているのに比べ、あまりドギツさがない。いわば、「等身大の貧困・メンヘラ」という趣。
それでいて、描写力・観察力に非凡なものがあり、読ませる。
とくに、生活保護を受給してからの心の揺れについての、冷静かつ繊細な自己分析が素晴らしい。生保受給者の心理を当事者がここまで活写した本は、ほかにあまりないのでは?
また、ケースワーカーの対応の劣悪さや、著者がデイケアに通っていたクリニックの「闇」(どんな闇かは読んでのお楽しみ)の描写も面白い。
いや、ほんとうは「面白い」などと言っては不謹慎な深刻な話なのだ。が、著者が声高な告発調ではなく軽妙なユーモアをまぶして綴っているため、随所で笑ってしまう。
つい最近出た著者の新著『わたしはなにも悪くない』(本書の続編的な内容なのかな?)も読むことにする。 -
読んでてドンヨリするけど、この人はとりあえず今はなんとかなってよかった。なんとかなったから語るに足る人生の物語として本にもなった。しかし、なんとかならなかった、語るに足らない人生の物語が語られることはあまりない。本にもならない。奇跡が起きないまま終わった、終わりつつある人生の物語が奇跡の後ろに死屍累々と横たわっているのに。その証拠に日本の自殺者は毎年2万人を超えている。そんな人達の人生は語るに足る価値がないのだろうか。
語られる人生の物語には、多くの人が価値を認める。でも語られない物語を目にすることは難しい。可視化されない。認めることができない。だから、その物語の価値は自分で認めるしかない。しかし果たして、苦境の真っただ中にいる人はその価値を自分で認めることができるだろうか。孤立した中で卑屈にもならず、生きる希望を持てるだろうか。
開き直れたらいいのか?というと生活保護バッシングを見ればそれが難しいことは明らかだ。生活保護を受けると生きる負い目、罪悪感を背負ってしまう。その負い目の発生源は自分の中にも外にもある。卑屈になったり罪悪感を背負ってしまうのを本人だけの問題にしていいのか?少なくとも半分は社会の側のまなざしの問題じゃないのか?内面の問題で言うと、マジメさが足かせになる部分は大きい。著者は万引きの罪を告白し、何年も経ってその罪を償おうとしている。テキトウな人だったらしないことだろう。
貧困はお金を払った対価が得られないだけじゃない。お金を払うことによって他人から大切にされるという経験を得ることが難しくなる。床屋や美容院、接骨院やマッサージ、病院。これらのサービスは単に髪を切ってもらうとか病気を治してもらうだけではない。お金を払うことによって、他人から大切にしてもらう、心配してもらうというサービスを含んでいる。自尊心や自己肯定感に関わってくる問題だと思う。
貧困は人間関係の貧困であることもよくわかる。お金がないと誰かと何処かへ行って遊んだり食事することができない。服や化粧品が買えないと小奇麗にすることもできない。床屋や美容院に行くことができない。そして人と会うのがおっくうになり、人と関わることで元気を出すことができなくなる。人と会わなくなると身なりに気を使わなくなる。更に人と会うのがおっくうになる。。。そうした悪循環の中で社会的に孤立してしまう。抜け出せなくなる。うつ病のように精神的に弱っている状態なら尚更だ。そんな感じのことを湯浅誠さんが言っていたのを思い出した。
役所や病院、福祉施設が当事者を精神的に支えることは難しい。事務的な対応に終始したり、あるいは教育的、指導的な上から下に向かう力が働いてしまう。そんな人間関係の中からは、希望を持って生きる力は沸いてこない。だからこそ、当事者同士が精神的に支え合う自助グループのような共同体が必要なのだと思う。なのに、自助グループで嫌な思いをしたことが書かれていて、著者の責任は全くないけど残念に思った。 -
2冊目の小林エリコさんの本。
うつ病から、生活保護を経て社会に復帰するまでの話。
社会の一員として働けないことがどれだけ辛いのか痛いほど伝わる本だった。
そして、社会から隔絶された生活保護受給者に漬け込む人がいることに悲しくなった。
誰でも、病気だったりやむを得ない事情で働けなくなることはありえる。生活保護は、本来人間が最低限度の生活を送るための保障なはずなのに、そのセイフティーネットが機能していないことは大きな問題だと思った。健康に働くためには、いざとゆうときのためのセイフティネットが心の安全になるのに、これではどんどん「弱者」にならないようにと、社会に我慢を強いられると、いつか爆発してしまうと思う。
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終始、語感が強い。というかセンセーショナルに文章を書く方なんだなと感じました。独白のように書かれているので、ずっと愚痴を聞いている気がします。
読み終わって個人的に思ったのが、この方自身がその場の流れに身を任せるところがあるんじゃないかと。「だからダメなんだよ」とまでは言いませんが、この先もちょっと心配です。
まぁ、なんだかんだ言っても「いろいろあったけど、よかったね」という感じの読後感でした。 -
久しぶりに、夢中になって一気に読んでしまった。著者でもあり、主人公でもある小林エリコさんの、生きてきたありのままが書かれている。本音で書かれた内容だから、ぐいぐい引き込まれる。そして、応援して読んでいた。もし、自分が同じ立場ならどうしていたどろうと考えた。自分の娘との関係も照らし合わせたりもした。人は素晴らしいなぁと感動もした。
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この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。小林エリコ先生の著書。精神障害や貧困に苦しむ人、家族や周囲に精神障害や貧困に苦しむ人を持つ人にとっては元気がもらえる一冊のはずです。何気ない日常生活を平穏に過ごせることは何よりも幸せなことなのかもしれません。
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闘病記文庫