尼人

  • イースト・プレス
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781620664

作品紹介・あらすじ

おかん!おかんよ!現代美術は詐欺とちゃうねん!説明したるから読んでや!

ダウンタウンをはじめ優れたお笑い芸人を次々と輩出する尼崎市。作者は、そんな尼崎のワケあり風俗街である「かんなみ新地」近くで生まれ育った。3人兄弟の長男。家は当然のようにドのつく貧乏。少年時代には2度鑑別所に入り、更生プログラムで行った美術館でピカソに出会い感動。トラックの運転手をやりながら、東京藝術大学に入り大学院まで出て、作品も高い評価を得るようになった。しかし、母親はいまだ息子のことを正真正銘、詐欺師だと思っている。本書は、そんな母親に向けて、また分断と貧富の差が広がる世界に向けて書いた貧民蜂起のためのスラム芸術論である。


・目次
奴隷の椅子
現人神
プレゼント

なくなる
謝罪人生
クズ寄りのカス

アマガサキ・コード
大人
お芸初め
天才っぽい
ブレブレなるままに
どカス関東来襲
暗い話
ゲロとともに来たる
へん
アニキ
何も深刻じゃない


・著者メッセージ
批評家の黒嵜想さんが僕の仕事を「スラムからの福祉」と評してくれたことがある。貧困層の流儀や価値観、生き方を見て、それよりも上の社会階層の人たちが「元気になったり」するならば、それは正に「スラムからの福祉」だと。福祉は上から下へとに行われるだけではない、と。そしておかんは「スナック太平洋」で、毎日それを行っていた。そんな地獄と天国を結ぶような所業にはダイナミズムがあり、それはめちゃくちゃ「芸術」だ。この本はそんな芸術の、血筋や人種などといった縛りを超えた、僕ら尼人という文化的アイデンティティーを示す本でもある。そして、それを作品として残そうとするのが「芸術家」の仕事なのだ。(最終章「何も深刻じゃない」より)

感想・レビュー・書評

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  • 今読んでる途中なんやけど、抱腹絶倒したり神妙な面持ちになったり、何かとおもろい本。

    「芸人」ではなく「藝術」を選び、人生のあらゆる障壁を乗り越えたろうという心意気が徐々に形成されていく過程がおもろい。尼もいろいろだが、自分の生まれ育ったまちを絶妙に俯瞰的に描いている。

    私の生まれた西宮は尼と芦屋の緩衝地帯のような場所なんかなと、つい考えてしまう。阪神タイガースの「アレ」の話ばかり続く2023年秋。

    阪神優勝の翌日、読了。
    最終章が「そんなに深刻じゃない」と。
    阪神淡路大震災の時のことが書かれている。
    著者のインタビューを読んだ時に、下の下と中の下の違いについて話しているところを読んだ。
    下の下にはそれ相当の支援が用意されているが、中の下は絶望するまで自助努力を強いられる。そんなことを思ったのは、私が中の下で私学の芸大を出て、人生の殆どを奨学金の返還に翻弄され続けているからだ。とうのむかしにアホなことをやる力が尽きてしまった。だからこそ、この本をオモロく感じるのだろう。

  • 阪神尼崎近くある出屋敷駅出身の芸術家が書くエッセイ。

    自分も兵庫なので、阪尼のあたりはある程度知っている。北から南にかけて阪急、JR、阪神と沿線が間隔を空けて並ぶが、とりわけ阪神沿線は異質。人との距離感が近く、バンカラで治安の悪そうな雰囲気は今でこそ多少大人しくなってきたが、それでも十分残っている。

    著者は、芸術に縁のないこの出屋敷で育ったが、とあるきっかけで芸術家をこころざした。スナックを営む母には、「芸術家って要は詐欺やん」と言われる。

    これについて、「確かにそうかも、紙に絵を描いただけのものをうん十万、うん百万でうるんだから」と納得気な著者のニュートラルな感じが面白い。

    阪尼での子供時代の生活が主な内容なのだが、
    いろいろとぶっ飛んでて面白い。それにアホだけど嫌じゃない奴らが多く登場してくる。

    芸術の名門、東京藝大に入学する著者だが、
    寝る間を惜しんで自分に厳しく、めっちゃ努力した。とかじゃなく、

    予備校いきながら、やれる範囲でバイトしながらそこそこ絵を勉強して、23歳で入りました。っていう感じも、プレッシャーを感じず読めるので気が楽だった。






  • 尼崎出身の現代アーティストによる半生記。著者の半生もおもしろかったし、尼崎という土地をエンタメ感覚で知ることができた。

    文章に余白というか行間のようなものがなく、みっちりしている。それも尼崎らしさなのか。それとも著者らしさなのか。尼崎におけるダウンタウン評価の話が印象的だった。うっすらとしか知らないChim↑Pomや会田誠氏周辺の話が読めたのもよかった。

    しかし一番インパクトがあるのは家族の話だろう。特におかん絡みの話にかなりのインパクトがある。現代アーティストを詐欺師呼ばわりするのはいいセンスしてるし、わかる気もする。サンタが死んでその跡目争いでドンパチしてるとか、おかんの嘘は尼崎テイストがあってクリエイティブですごい。尼崎という土地のスナックでしか養われない話術なのではないか。その後に出て来たマンコしりとりのエピソードで30秒くらい笑いが止まらなかった。

    昭和に生まれて90年代サブカルの空気を少しばかり吸った人間としては、どんどん漂白されていく現代社会に少々疑問を持っている。しかし同時に日本ではスラム化が進むのではないか?という側面もある。それは表層の漂白と内面のスラム化なのかもしれない。そういう時代の側面の表現者として、著者の表現に興味を持った。機会があれば著者の展示も見てみたい。

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著者プロフィール

上智大学総合人間科学部教授

「2022年 『現代の臨床心理学2 臨床心理アセスメント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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