幕末下級武士の絵日記: その暮らしと住まいの風景を読む

著者 :
  • 相模書房
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784782407035

感想・レビュー・書評

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  • 忍藩(埼玉県行田市)の尾崎隼之介(字は石城)十人扶持。元は御馬廻役百石。29歳の時に藩政を論じたために蟄居。33歳独身。養子先の尾崎家を追い出され、妹夫婦の家に同居中。時々絵と文を書き、読み書きの手習いで生計を立てている。文久元年(1861年)より2年までの187日間の記録。

    本屋で半額セールになっていたので衝動買いしたのであるが、掘り出しモンだった。

    下級武士の日記史料ならば、元禄期名古屋藩の「鸚鵡籠中記」があるが、これはこれでなかり面白い。日記は時系列になっていなくて交友関係や住まい、食事、世相などを解説する中に史料的に扱われているにすぎない。それでも面白いのは、隼之介の描いたポンチ絵がふんだんに採録されているからである。


    隼之介の教養はなかなかのものだったようだ。一年で売り払った(更に買い戻した)書物の一覧(408冊もあったらしい)を見ると、四書五経、文選、史記等々の中国主要古典、万葉・古今・平家・徒然などの日本古典などを修めている。買い戻してはないが、切腹の書、天草軍記などの軍記もの、松陰日記等々おそらく当時のベストセラーも読んでいるみたいだ。それらを夜着を着てコタツに入ってさらに衝立で隙間風をよけて読んでいる。

    友人は中級・下級武士、僧侶、果ては近所の女子どもと、常に仲良く付き合っている。家は常に道に向かって開かれていて、友人はいつも庭からふらっとやって来て、縁側でお茶や酒を飲む。玄関や鍵という概念がないかの如くである。お金はないが、付き合いはある。やっても来るが、寄っても行く。肴を持って行くことも多いが、それでも互いに飲む時にはわりと豪勢な宴になる。普段の食事は、朝食はかゆと菜汁が多く、昼食は豆腐、里芋、いわしなど(何れも一品のみ)。夕食はしじみ汁、松魚汁、湯豆腐、鴨の汁、豆飯、茶漬けなど(何れも一品)。これが酒宴になれば、刺身、焼き魚、玉子、鶏肉、茶碗蒸し、松茸、田楽、寿司などと突然多くなる。なんとも楽しそうだ。

    近世の歴史家には、常識的なことが多いかもしれないが、絵がついていてかなり新鮮だった。私の関心領域は弥生時代なので読み飛ばすが、時代小説家やテレビプロデューサーならば、参考にするべきところがかなりあると思う。

    隼之介は尊皇攘夷思想にかぶれてはいたが、結局「英雄」たちの仲間に入る機会はなく、維新後は藩校の教頭、宮城県で役人として出世し、次の任地の石巻で47歳の当時としては一般的な歳で亡くなったらしい。1876年の頃。ちょっと酒を飲みすぎたのかもしれない。

    2016年7月24日読了

  • 江戸時代、忍藩の城下町に住む下級武士の絵日記から、
    その暮らしと季節を感じる生活、住まいを絵と共に紹介する。
    一章 石城の一週間  二章 石城たちが暮らした城下町
    三章 自宅の風景   四章 友人宅の風景
    五章 中下級武士の住まい 六章 寺の風景 七章 料亭の風景
    八章 世相と時代  九章 ふたたび自宅の風景
    忍藩の城下町に住む下級武士、尾崎石城。
    彼の書き記した絵日記「石城日記・全七冊」は、
    33歳の文久元年から翌2年までの178日間の生活を記録しています。
    紹介は日記形式というよりは、各章のテーマに沿った抜粋。
    それぞれの風景には、設え等の当時の生活の一端がわかります。
    五章だけは各種史料からの、当時の中級・下級武士の住まいの
    見取り図と概要があり、絵日記の補足になっています。
    蟄居といっても出仕停止のみのようで、友人宅や寺、料亭と、
    あちこちに出掛けていますし、加えて、訪問してくる人も多い。
    中級・下級武士のみならず、僧、女子供、隠居と、
    身分を問わず幅広い交流をしていることもわかります。
    更に自宅謹慎(閉戸)になってしまったときの見舞客の多さも。
    日常の食事は質素であれども、酒宴や書物には金を惜しまず、
    手伝いや困窮者の救済にも積極的に行動していることは、
    武士として、人としての彼の人柄がよくわかります。
    また、寺院が人々の拠り所であり交流の場所であったことも、
    興味深いものでした。
    幕末の動乱期、和宮降嫁等で騒がしくなってきた時勢でも、
    楽しく和やかな、心豊かな生活を送っていたんだなぁ。
    それにしても、石城もそうだけど、
    男女問わず、僧までも呑兵衛が多かったのね。

  • 昭和の小学生の夏休みに重くのしかかる絵日記。描きたい人が綴ればこんなに面白いのか、と思う。
    友達とめいめい一人用のこたつにはいって様子がかたつむりみたいで可愛い。
    料亭がそんなに高くなく、居酒屋のような気軽なお店だったというのも驚き。

  • ふむ

  • 2021年4月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00237845

  • 江戸時代の普通の武士が、具体的に何を食べて、どんな本を読んで、どんな交流をしているか、それらの価格まで記されているだなんて知りたいことを知れて面白かったです。
    内陸なのに魚介類を結構食べてたり、毎日のような飲酒ぷりや、宴では町人や家族も一緒だったりと意外な日常でした。

  • 図書館より。
    下級武士のイメージがちょっと覆る。
    意外といい生活?してるよね。

  • 幕末の忍(おし)藩(現さいたま県行田市)の100石知行取り(年収約500万円)の中級武士が十人扶持(年収約110万円)に下げられ下級武士となり、蟄居させられて仕事がないので、毎日友人宅や近所の寺に入り浸り、毎日酒を飲んでいる様子が絵日記に書かれている。
    アルバイトの掛け軸、襖絵で収入を得てはいるが、貧窮した生活を送っている。 それでも同じ下級武士や寺の和尚、町人たちとの交わりがほのぼのと描かれている。 
    巻末にある江戸に住む母親からの手紙などはぐっとくるものがあります。

  • 6d4

  • これは絵日記形式、と言うこともあり
    読んでいて非常に面白い本でありました。
    ここに出てくる主人公は訳ありの下級武士。
    実は彼は、政治批判をしたために
    降格をさせられたのです。

    決して裕福ではない生活、
    お金を借りることもままありますが
    それでも落胆することはないです。

    そして結構な割合で出てくるのが
    「酒」。見事にコテーン!となる光景も
    よく見受けられます。
    飲みすぎですよ、石城さん。

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著者プロフィール

昭和19年、神戸市生まれ、熊本県立大学名誉教授。九州大学大学院博士課程(建築学専攻)修了。工学博士。歴史は現在の問題から遡るべきという理念のもとに、古代から現代までの日本住宅と中国住宅、およびその暮らしの風景を研究している。 主著に、『日本の住まい その源流を探る』(相模書房)、『清閑の暮し』(草思社)、『武士の絵日記』(角川ソフイア文庫)などがある。

「2019年 『幕末下級武士の絵日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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