反対称 新装版: 右と左の弁証法

  • 新思索社
3.50
  • (1)
  • (0)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 16
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784783511601

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【目次】

    日本の読者に
    訳者まえがき

    序言

    Ⅰ 問題の提起
    Ⅱ 厳密な意味での対称について
    Ⅲ 反対称の進化論
    Ⅳ 宇宙に遍在する反対称
    Ⅴ 右と左
    Ⅵ 逆エントロピーの働き

    補遺
     社会と芸術における反対称の役割について

    原注および訳注
    訳者あとがき

    *****

  • 【目次】

    日本の読者に
    訳者まえがき

    序言

    ? 問題の提起
    ? 厳密な意味での対称について
    ? 反対称の進化論
    ? 宇宙に遍在する反対称
    ? 右と左
    ? 逆エントロピーの働き

    補遺
     社会と芸術における反対称の役割について

    原注および訳注
    訳者あとがき

    *****

  •  Cailloisの、反対称についての著作。彼はこの作品で、反対称という、「物理学の法則から生物を開放し、複雑にし、多様にした基本的原理である」が、Carnotが大きく貢献をした物理学の有名な熱力学第2法則(エントロピー増大の法則)と、Darwinの進化論との間の矛盾点を解くカギとなる概念であるということを話す。具体的には、それは生物の進化の過程で行われたものであり、人間にも大きな影響を与えたものである。そしてそれは、物理学の考察の中にも現れるものだと言う。

     科学が細分化し、それぞれの関係性を把握するのが難しくなる中この本が目指すのは、それぞれの科学との間に新たな関係性を見つけることだと言う。その中でも宇宙の統一的法則を目指す際にある「対称」と言うものを考察し、新たな仮説を提示しようとする。

     そのためにはまず、対称・非対称・反対称について、彼は語る。非対称は、「対称のできる前の状態」を指す。反対称とは「対称が破壊された後の状態」を指す。しかし、Kantが言及しているように、反対称にはいくつか種類があり、その中には今回、反対称と呼ぶにはふさわしくないものがある(それらは、後に区別される)。
    対称とは、「つり合い」を意味するギリシア語から生じているが、一般的には幾何学的な意味でつかわれることが多い。その中にも、平行移動や線対称、鏡像関係など様々なものがあるが、カイヨワは特別、鏡像関係のみを対称の例に加えることを提示する。それは結末につながるが、これが宇宙での平衡につながるからだ。その一方で、

    「平衡であると同時に首かせであり、安定の要因ではあるが同時に間接硬直の原因でもある」(P.36)

    すなわち矛盾しているものだという。どういうことか。「明確で秩序だった対称が常に存在しているのでは」ない。「.対称もまたあいまいな性質と機能をもち、ほとんど不安定で動揺している」と彼は言う。そこで、<<無対称と無限の対称との同一視>>を彼はまず提案する。
    対称の種類の分析を続ける。まず、生物の進化に沿って、生物の考察をCailloisは始める。結晶構造内の原子の集合がなす秩序というのは、平行移動がなす対称であり、不完全な対称と同時に最初の反対称である。なぜなら不均衡を生みだすような特権的軸を中にもたらす一方で、任意の点に対称が存在するからだ。つまり、外部からの要因により、新たな反対称の場が誕生している。

    「反対称が、無対称ではなく、既存の対称の破壊あるいは放棄であるときには、新しい特性をつねに生み出す」(P.40)

    上で述べた結晶内から、上下の征服が行われる、つまり、上下方向での対称を放棄することで、反対称は進歩する。例えば、ウィルスの形状、ウニのから、クラゲのかさがそうである。垂直に貫く軸は特定の方向性を持つために、安定性を失う。上の考察を様々な生物で調べてみると、以下の結論が正しいように思える。「生物の中で最も複雑で最も多くの対称を持つもの、正多面体の結晶の等方性の対称に最も近い対称を持つものが、下等動物である」。一方で高等動物は、対称がほとんどなく、しかも彼らがもつ対称は反射の対称である。したがって、「生物は進化するにしたがって、対称性を減らしている」と考えることができる。
     しかし、人間はこの対称の限界を超える手段を講じた。それは、「一つの空間を二つの半球に分割して思考を勧める習慣が」人間の中に「生まれることになった」という事だと彼は言う。それは、右手の優位である。いたる所の民族で見ることのできるもので、脳の反対称性からきているように思える(c.f.シオマネキ)。では、右手の優位性と左半球の優位、どちらが原因で結果なのか?
    これを解くために、別の対象に話を移してみる。この左右の間に起こる対立の極を、重力が上下に発生させている極、と比較することが可能だからである。最初の問いは、左右のうちの一方に対する特権は偶然なのか、ということだ。人間以外にも右に特権を与える動物(ex.ヤドカリ、ウミザリガニのはさみ)はいるが、それらを観察することで答えを得ることができる。つまり、「創意、力、技巧を要する仕事」は右にさせる傾向があり、右を選ばなかった場合、左右無差別にするのだ。
     他にも、天然の酒石酸と人工の酒石酸であるブドウ酸を考える。Pasteurがこれに注目したのだが、彼はその考察の結果、分子の反対称とは「死んだ物質の化学と生きている物質の科学のあいだに、引く事のできる唯一の境界になり得るもの」(P.64)と書いている。さらには、<<世界の体系は完全に反対称的なものである>>とも。Machも同じような結論を得た。しかし、研究が進むにつれ、「反対称は、現象を可能にするもの」(P.68)ではないか、という説の方が強くなった。
     かろうじてつりあっていたものが、平衡が崩れ、新しい型の有機物の出現の契機となる、というのに似た現象は、物理でも見出される。例えば、反物質やパリティの対称性である。以上の考察をまとめると、

    「反対称は、行動の自由を奪う重力に支配されながら、絶えずこの力をあざむいて、少しずつ困難な道を切り開いていく革新」であるだけでなく、「極限の粒子の繊細な織物のなかに、すでに存在していた」(P.73)

    では、反対称はなぜ姿を隠すのか。組織の出現には平衡を前提としている。平衡は安定した構造であるから、反対称を抑えようとする。したがって、反対称は起こったとしても、稀に、偶然に現れ、不確かである。このとき生じる反対称は、対称を破壊するもので例外的である。この例外的反対称が、最初の考察で得た、進化に関わるものである。そして最終的には左右の対称しか残らなくなる。さらに人間においては、反対称によって最終的に得られた脳の両半球の優劣の格付けから生じた、二元論という考え方が現れる。Weilは、左右は「任意にゆだねられている」(P.79)と書いているが、上下前後ではなく、左右によって二元論が大きく影響を受けたのである。「内面的な特性に全面的に依存しているように見え」る(P.84)が、実際は素粒子のレベルで確認されるような流動的な反対称であり、不均衡は恒常的に存在する。以上から、Cailloisは反対称の仕事を、「鏡像の対称の形を借りて、対象そのものと見まちがえるような反対称の芽をつくり出すこと」(P.87)としている。
     人間の中では、対称と反対称とが二元論の形で、人間を強制するが、現代では反対称の方向に大きく傾いているように思える。したがって、人間は対称に逃げ込む傾向にあるのだ。Binswangerもこう述べる。「分裂病患者とうつ病患者が<<対称にかじりつくことは、驚くべきほどである>>」(P.90)、と。まとめると、「対称は、最初の征服で」あるが、「すぐに安定の基本要素となり、その結果進化のブレーキとな」る。また、「反対称は革新的な活力の要素」だが、「それはとりもなおさず危険であり、冒険」である。(P.91)

    最後に、逆エントロピー、と呼ぶべきこの流れの働きを命題に三つの要約にすると、
    Ⅰ 均質で等方性のすべての媒質は、対称をまったく持たないと定義することもできるし、同様に、特権的な軸や中心や面が存在しない、無限の潜在的な対称を持っていると定義することもできる。この二つの定義の意味しているものは同じで、両者に違いはない。正確にいって、無対称とはこのような状態を指す。
    Ⅱ すべての無対称的な状態は自然に安定の方向に向かう。安定は平衡を生み、平衡は一つあるいはもっと多くの有効な対称を発生させる。
    Ⅲ 確立された完全な対称のなかに、部分的で、偶発性のものでない破壊が突如として生ずることがある。この破壊はすでに形成されている平衡を複雑にする。このような破壊が厳密な意味での反対称である。反対称は、結果として、反対称が生じた構造あるいは組織を豊かにする。すなわち、これらに新しい特性を与え、より高度の組織の水準に移行させる。
    そしてこれは、エントロピーに厳密に反する原理ではなく、エントロピーによる発散のロスを一つにまとめるものである。


    <補遺:社会と芸術における反対称の役割について>
    人間の作品には、①自らの能力を発揮して行う仕事(ex.芸術+学問の業績) ②社会の制度(ある種の重力を持つ)があり、前者は自由度が高く後者は低い。まず社会の制度について。それは、集団にとって自然のようなもので、義務・禁止の感情によって秩序を構成する。つまり、これらの集合の全体を、平衡と交換の原則が支配している。では、全ての集団のおきてとは何か。それは、①一連の生物と事物の保存と管理に心を配ること ②自分たちと対になる集団に自由に使わせることであり、その結果、各集団は他集団のために働く(※対称の例でもあり、また社会の連続性が<<開いたり閉じたりを交互にくり返す一連の反対称>>であることの例でもある)。つまり、対称は社会が落ち着くときの姿である。社会の流れをまとめると、以下のようになる。
    「太古の混沌=無対称→対称→対称がかんぬきの役割→新しい秩序(聖を犯す;※反対称と区別が困難)」

    以上から、
    「対称と反対称とが、人間の宇宙のなかでさえも、自然の法則としていかに自分を強制し続けている」。芸術においては、「美の感情の一部は、たいていの場合、規則性と意外性の強固な結びつきから生じており」、それを、「反対称により、機械的単調性を除くべきで」、だから、「そこでも、対称と反対称の弁証法は、避けることのできない成功の手段として再び姿を現す」。反対称は、節度の正しく保たれた対称によって守られている場合にのみ、その価値を発揮することができる。(P.104)

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

(Roger Caillois)
1913年、フランスのマルヌ県ランスに生まれる。エコール・ノルマルを卒業後アンドレ・ブルトンと出会い、シュルレアリスム運動に参加するが数年にして訣別。38年バタイユ、レリスらと「社会学研究会」を結成。39–44年文化使節としてアルゼンチンへ渡り『レットル・フランセーズ』を創刊。48年ユネスコにはいり、52年から《対角線の諸科学》つまり哲学的人文科学的学際にささげた国際雑誌『ディオゲネス』を刊行し編集長をつとめた。71年よりアカデミー・フランセーズ会員。78年に死去。思索の大胆さが古典的な形式に支えられたその多くの著作は、詩から鉱物学、美学から動物学、神学から民俗学と多岐にわたる。邦訳に、『戦争論』、『幻想のさなかに』(以上、法政大学出版局刊)『遊びと人間』、『蛸』、『文学の思い上り』、『石が書く』など多数。

「2018年 『アルペイオスの流れ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ロジェ・カイヨワの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×