- Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
- / ISBN・EAN: 9784783728337
作品紹介・あらすじ
バロウズの新たな魅力を爆発させた'80年代3部作から新登場。本邦初公開。アメリカ西部のガンファイター、キム・カーソンズによる時空を超えた権力の悪との闘いと殺しの美学。「銃による決闘は禅の道のような魂と魂の闘いである」と語るバロウズのライフワークともいえるウエスタン小説。
感想・レビュー・書評
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バロウズの小説…、む、これは果たして小説なのか。
「裸のランチ」「内なるネコ」に続いて、自身3作めのバロウズ読。
彼の作品の中では、比較的読みやすい作品、だという。
だがしかし、そこはバロウズ、ふつうの小説とは大いに異なる。
キム・カーソンズという若者が、ガンマンとして、(&なにかのエージェジェントとして)諸国遍歴してゆく。 というのが、おおまかなストーリーか。
ドラッグ耽溺の場面は意外と少ないが、少年との性交渉の場面が多い。
最大の特色は、武器や銃器への偏愛。バロウズ自身ガンマニアだったらしく、特に銃器の描写は微に入り細に入る。
読者の私はたまたま多少の銃器知識があるので、それなりに読めた気がする。
が、そうでない読者には、銃器の描写が頻出する部分はさっぱりわけがわからないかもしれない。
ところで、銃器に関してだが、小説の時代背景は、19世紀末らしいのだが、S&Wの38口径ハンドガン(M27)が製造されるのはずっと後、20世紀後半のように思う。(思潮社版の表紙の画像は、S&WのM29(44口径)。そのへんは、時空を自在に超越して描いているので、それでイイのかもしれない。
遍歴は、ニューヨーク、そしてセントルイスなどの北米地方都市。さらには、ロンドン、パリへ。
タンジールへの言及もある。
ガニメデや金星という記述もある。が、ガニメデも金星も、急激な場面転換のうえ、情景描写がアラブ世界の風情で、そのへんも自由自在。
そういえば、先日観たゴダールの「イメージの本」を思い出した。多彩な、細切れのイメージが、変幻自在に並べられてゆくことが似ている感じもしたのだ。
ムカデ、ムカデに身体を乗っ取られた人たち、猛毒を持つ爬虫類、爬虫類の少年、精液の青臭い匂い、毒蛇の猛毒を希釈してこさえたドラッグ、卵嚢、悪臭、
未知の(異星の)動植物の毒による凄惨な死に様の数々。
ところで、デッド・ロードって何?
P345 に以下の一節。
「デッドロードっていうのは、もう使われていない道って意味でも、雑草が茂っている道って意味でもないんですよ。デッドロード、つまり死んでいる道って意味です。」
さらには、
P348 に「デッド・ロードって何でしょう?」という一節も。
「…タンジールのララチ四丁目通り、またロンドンのアランドル・テラス二十四番地へ行く道?
二度と使わない多くのデッド・ロードがあります…」
タンジール(モロッコ)と言えば、下記の一節も。
「かつてマラケシュで日没時にテラスでウェアリングといっしょに座っていた…」
思えば、読者の私も、バロウズやボウルズの影響下、モロッコに一人旅。
マラケシュで、夕暮れのジャマエルフナ広場を見下ろすテラスカフェにも行った。
そして最大の目的地はタンジェだったのだが、残念ながら行けなかった。時ならぬ大雨と洪水による鉄道不通で、タンジェへの移動を断念したのだ。
改めて、心残り。
いつか、モロッコを再訪し、タンジェの地を踏みたい。
さて、バロウズお気に入りのイメージの幾つか。
ウエスタンランド(西方の地)、暗殺者教団、生体に注射する言語習得、武器銃器などを商うアラブ風のバザール。そして、忍者。
おさらいみたいにして、パラパラと頁を繰り、上のイメージやモチーフを部分読みした。
思えば、本作や、バロウズ作は、こういう読み方、楽しみ方がふさわしいのかもしれない。
誌や散文を味わうように。
書棚の「裸のランチ」も、久々に、そうやってパラパラと拾い読みしてみようか、 などと思うのであった。詳細をみるコメント0件をすべて表示