ジェントルマン・ジム

  • 篠崎書林
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本棚登録 : 17
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784784104598

作品紹介・あらすじ

長年やってきた自分の仕事にマンネリを感じ、何か自分にあったいい仕事がないものかと考えるジム。妻ヒルダもいろいろ協力するのですが…。この物語は「風が吹くとき」の主人公、ジムとヒルダの平和時を描いたものです。

感想・レビュー・書評

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  • 「風が吹くとき」のジムとヒルダのちょっと昔。
    風が吹くときで階層が低そうだなと思ったジムは、本当に下のほうだった。

    ジムはトイレ掃除の仕事に飽き飽きしている。
    転職したいと思い続けているけれど、学も決断力もないからずっとそのまま。
    学がないことの意味さえも実はあんまりよくわかっていない。
    それでも新聞や少年向けの冒険物語に影響を受けて、ドラマティックな仕事(カウボーイや怪盗など)を始めようとする。

    ジムの空回りは滑稽だけど、風が吹くときを先に読んだせいか物悲しく感じる。
    これはイギリス版ドンキホーテ。
    知らなければジムの愚かさを笑えるし、知識が多いほどなにを笑わんとしているのかが理解できるはず。
    当時の世界情勢やイギリス社会の知識がほしい。


    字体がちょっと読みづらい。

  • イギリス階級社会⁉︎

  • 核兵器の恐ろしさを淡々と描いた『風が吹くとき』の、前編ともいうべき作品。
    主人公はロンドンに暮らす中年男性のジムで、転職を夢見ながら具体的な案も決心もつかないまま、トイレの清掃員を長年続けている。一方、妻のヒルダは安定を望む一般的な主婦であり、夫の転職願望に対しては消極的ながらも、彼のアイディアを尊重し支えようとする。

    学校では聖書のこととビンタしか教わらなかった、と本人もつぶやいているように、ジムには学がありません。新聞を読むのもたどたどしく、何より読んだ内容がよく理解できない。
    『風が吹くとき』でも全編を通して、役所のパンフレットを信じて疑わない・無知に由来する過度な楽観視などの姿勢が描かれていましたが、それは本作でも全く同じ。
    学(本書では「レベル」/イギリスの教育一般証明試験の合格級?)がないから、それとは縁遠そうに見える職業に憧れる。例えば悪者をやっつける正義のカウボーイとか、弱きを助け強きを挫く謎の怪盗とか。この憧れは無邪気なものなのだけど、いざ実行に移そうとするやいなや、法律や制度、経済、更には隣人たちとの折り合いなど、ありとあらゆる面から完膚なきまでに否定されてしまうわけです。だけど当の本人は、否定された事も否定された意味もよく解っていないっていう。

    「作者はジムのようなイノセントな主人公をしたてあげ、そこから法律や教育制度にがんじがらめになっている現代社会を逆照射している」とのこと(訳者あとがきより)。

    ひたすら怖い。

    今の社会において私も全然「解っていない」側で、本当はもっと解ってなきゃいけないのは解ってるんだけど、何がどこから解らないのかが解らないから身動きが取れなくて、でも世界は容赦なく動いててどんどん変わってて、なんかもう眩暈がする。
    ジムたちと同じように、もしこの先に『風が吹くとき』が待っていたら……と思うと心底ゾッとする。

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著者プロフィール

1934年~2022年。1973年に、『さむがりやのサンタ』でケイト・グリーナウェイ賞を受賞。代表作の『スノーマン』は文字のない絵本。アニメーションにもなり、世界中で長く愛され続けている。ほかの作品に『風が吹くとき』など。

「2022年 『スノーマン クリスマスのお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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