- 本 ・本 (440ページ)
- / ISBN・EAN: 9784784207701
感想・レビュー・書評
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現・京都大学大学院文学研究科教授の永井和(日本現代史)が、学位論文を学位論文を下敷きに、最初に出版した著作である。
率直に言って、私には本書のような異様な実証研究を正当に評価する能力は全く持ち合わせていない。しかし、それでもこの著作の凄さの片鱗を感じることはできる。
本書の内容は、タイトルから容易に想像できるようなごくありふれたものではない。つまり、一次史料をつきあわせながら政治過程を追うという手法では描かれていないのである。
本書は大きく2部からなっている
第一部 軍人と内閣
序 章 視角と定義
第一章 軍人首相内閣論
第二章 軍人閣僚と戦前内閣
第三章 現役将校の官界進出
第四章 政軍関係理論に関する一考察
第二部 内閣官制と帷幄上奏
第一章 初期内閣と帷幄上奏令
第二章 内閣官制の制定と帷幄上奏
付 録 方法についての自註
前半と後半で視角が全くことなるので、全体としての統一感は損なわれているが、しかし各章での議論の詳細さは目を見張るものがある。
まず第一部では、戦前の44の内閣(東久邇宮まで)の中で、首相をはじめとする文官閣僚(非軍部閣僚=陸軍大臣・海軍大臣以外の大臣)の中に現役・非現役の軍人がどの程度含まれていたのかということを全内閣の閣僚を対象に調査されている。
第一章では、法理上は存在しないはずの現役のまま首相となった<第一種軍人内閣>と非現役の<第二種軍人内閣>との概念を提示し、首相が現役軍人であることの意味を検討している。
第二章ではさらに対象を広げ、首相を含めた文官閣僚の中で、現役・非現役軍人の有無あるいは包含関係を4パターンに分類し、類型化を行っている。そして、第三章は、1923年度から1943年度までの期間において、陸軍省・海軍省以外の省庁の官吏にどの程度の現役将校が進出していたのかという作業まで行っている。
このような作業を通じて、戦前の内閣の重要なファクターであり、近代日本政治史に多大な影響を及ぼした軍部というフィルターを通して、通説的な内閣史の理解に一石を投じることができると筆者は主張する。
常に流動的な政治過程に基づいて歴史を区分することは、時に非常に難しく、研究者・研究手法によって区分が大きく異なる場合もあろうが、本書で展開されているような史実を数値化して(史料をデータと捉える)、そこに政治史における意味合いを見いだす方法をとった時、(一般的な区分かなるかどうかは別としても)一定の説得力を持つことになるのである。
また、第二部においては、1889年の内閣官制制定前後における、軍部大臣による帷幄上奏の問題をとりあげている。
軍令(統帥事項)を司る参謀総長や海軍大臣(一時期において海軍の軍令を担当していた)ではなく、内閣の一員として軍政を司る陸軍大臣・海軍大臣が他の内閣の閣僚とは別個に天皇に直接上奏することが、「いつから」「なぜ」「どのように」行われることになったのかということを、大江志乃夫などの先行研究を引き合いに出しながら、恐ろしく緻密な議論を重ねている。
「ダイナミックで躍動感溢れる歴史描写とは対局をなし、ある意味偏執的な実証主義研究である」と言ってしまうとまるで貶しているかのように受け取られるかもしれないが、逆に言えば、「主観的で時代が経れば価値が著しく減じるような研究では決して無い」と言えるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示