「日本スゴイ」のディストピア: 戦時下自画自賛の系譜

  • 青弓社
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787220653

作品紹介・あらすじ

「日本スゴイ」の大合唱があふれる現在だが、1931年の満洲事変後にも愛国本・日本主義礼賛本の大洪水が起こっていた。「礼儀正しさ」「勤勉さ」などをキーワードに、戦時下の言説に、自民族の優越性を称揚する「日本スゴイ」イデオロギーのルーツをたどる。

感想・レビュー・書評

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  • いつにまにか日本賛美のテレビ番組や本が溢れているのを、薄気味悪いなと思っていた。
    この本で紹介されているのは、満州事変後の異様な日本賛美の数々。
    ツッコミが非常に面白いのであちこち吹き出したが、本当は笑えないちっとも!

    「端的に表現すれば、これまでは「日本にこんなスゴイものがある」だったアプローチが、「こんなスゴイものがある日本はスゴイ」という語り口へと変化したのである。」

    なんて、まさに今と同じじゃないか。
    従順に従わせるために「礼儀正しい日本人」を作り、低賃金で長時間働かせるために「勤勉な日本人」を作った…わあ背筋が寒い。
    そりゃあ、日本がスゴかったらいいですよねー、「日本人」というだけでスゴいなら何の努力もしないで素晴らしい人になれちゃいますもんねー。
    でも、そうやって楽して気持ち良くなった代償を、再び払う時が来るかも知れない…。

  •  史料としては面白いし、よく集められているなと思うのだが。。。
     近代国家とか国民国家と呼ばれるものには、どの国家であれ、多かれ少なかれこうした「国民動員」の側面があるわけで、「日本すごい」がいったい何なのか、他国とどう違って違和感があるのか、というところへの踏み込みがもっと欲しかった。
     また、今のネトウヨやマスコミによる「日本すごい」を想起させる、というのはたしかにそうなのだが、はたして戦後ずっとそれはなかったのか。戦後経済成長を「日本だけが」成し遂げた、というときに、日本人に去来する感情は「日本すごい」じゃなかったのか。「歴史は繰り返す」といいたいのは分かるが、「歴史は継続する」というのもあるのではないかと思った。

  • 借りたもの。
    東京オリンピック2020が決まって、観光事業、インバウンド需要などで沸き立ち始めたあたりから、TVで盛んに取り上げられるようになった「日本スゴイ」系のバラエティー番組。その風潮に白け、警鐘を鳴らす著者。
    特にその風潮が太平洋戦争へと突き進む日本に酷似していると指摘する。戦時下での自画自賛の事例を網羅した一冊。
    戦時中の戦意高揚キャンペーンがあったことは承知していても、その内容については教科書掲載のスローガン(キャッチフレーズ)どまりだったので、内容を知れて興味深かった。
    その内容は、“別に「日本スゴイ」と特筆すべきことではないのに、過剰な宣伝、誇大広告である”ということ。

    …ただ、その列挙に留まり、現在の例との比較検証や、マスメディアが何故それらをこぞって展開したのか言及しないところに、あまり著者の思考が読み取れない。
    「似ている」という警鐘どまりで、日本人は何故それらを是としたのか、考察が深まらない。
    あるいは、「戦争に突き進む前兆の様で反対!」とでも言いたいのか……?これは私が著者に対して邪推しているのか?

    著者はこの風潮の起点を満州事変(太平洋戦争前)としているようだが、個人的には日清・日露戦争が大きかったのではないか?
    大塚英志『ミュシャから少女まんがへ』( https://booklog.jp/item/1/4040823141 )において、明治の風潮を‘日本をただちに世界に繋げたい明治の「セカイ系」とも言える『日本主義』らしく、壮大で無邪気なナショナリズム(p.242)’と指摘している、その流れを汲んでいるのではないかと…
    その過度な自信・自己顕示欲を何故日本は持ったのか?
    欧米諸国へのコンプレックスは何なのか?

    そして読んでいて苦笑してしまうのは、これが「戦時下故の特殊事例ではない」という事。
    “勤勉であれ”“礼儀正しくあれ”“体力向上”“痴漢注意”金を稼ぐことへの嫌悪と奉仕の美徳……
    寧ろ、それを引きずり高度経済成長をけん引し、「当たり前」となった事。「社会主義が最も成功したのは、日本」と皮肉られた原動力もここにあるのだろう……
    前提知識として軍隊の規律管理がピンキリの人材をある一定の水準まで底上げすることを目的としているなら、それを国家規模で行い、成就させた。
    その中には今の価値観とは相いれない(人権侵害とも言える)男尊女卑やいじめ、痴漢問題の構造も含まれている。
    結局、軍隊仕込みの規律管理が、戦後日本の「当たり前」を支えていた、というニュアンスを感じる。

    それらは戦後70年(世代交代)を経て、ようやく改善されるのだろうか?

  • 体系的ではないが戦時下の「日本凄い」がたくさん調べてあって凄い。研究者が日本人が生物学的に優れているなどと書いているのは、寒々とする。

  • これには笑った。
    まさに現在の「日本スゴイ」自画自賛状態と同じすぎる。
    人って、追い詰められると、こうなるんだね。

  • 文庫が出ていて面白そうだったので単行本バージョンを図書館で借りました。

    『トンデモ本の世界』的な感覚で楽しむ趣向の本と思いきや、「日本の凄さ」を書いた本を抜粋した部分は引用元の理論が支離滅裂なため文章を読み解く苦痛が伴いますし、
    生来の怠け者でノーペイノーワークがモットーな自分にとって、戦時下の「日本人は勤勉であるべし」という高揚した文章は精神的に追い詰められました。
    文章の本気度が濃いし上から断定口調なんだもの。

    まだ、この頃の思想(特に滅私奉公的な部分)が現在では全く否定されているのならば軽い気持ちで読めるのかもしれませんが、未だにここから地続きな世の中に生きてることを身を以て感じているので、筆者が繰り返し「現代にもある」といったことを述べるのにも、とにかく暗い気分になりました。

    思春期に「ダメで恥ずかしい日本人」ムーブメントを浴びせられた世代からすると、「こんなに滅茶苦茶な理屈で日本スゴイって思い込まないとプライドを保てない日本人ってダメだねー恥ずかしいねー」という弾を何度も打たれているような気分です。
    先進国の外国人に「日本(人)のココがスゴイ」を喋らせるテレビ番組を見たときの羞恥心のような。

    何でこう両極端に行っちゃうんだろう、程々に誇りを持って程々に自省もするような安定した時代は来ないのだろうか。

  • 近頃の日本礼賛の風潮を戦前の言説と比較するという着眼点はよいのだが、現代の風潮への引きつけが弱く、結局ただの後知恵全体主義批判になってしまっているのが残念。文体も青い。

  • 「日本スゴイ」のディストピア:戦時下自画自賛の系譜。早川タダノリ先生の著書。確かに最近、日本はすごい、日本人はすごいと自画自賛するテレビ番組が多い気がします。自画自賛の怖いところは、自画自賛しているうちに客観的な目を失い、自分や自分たちが特別な能力を持つ特別な存在であると本当に勘違いして誇大妄想に陥ってしまうこと。過度な自画自賛は身を滅ぼす。これは国でも人間でも同じであると思います。

  • 最近、マスコミが盛んに「日本はスゴイ国」だと垂れ流しているのが気になっていたが、この本を読んで納得。70年前も日本スゴイという事が言われていた。その時は、戦争準備のためだったのだが、今は何のために?不気味だ。

  • いま流行の「日本スゴイ」系テレビ番組のルーツを探り、満州事変から太平洋戦争にいたる期間にブームとなった愛国本を50冊以上紹介している。たとえば「日本人は西洋人に比べ毛が薄い=より進化している」説やら「日本人は粘り強い米を食べているから世界一腰が強い」と強弁するやらの疑似科学で「日本スゴイ」の裏付けとするものもあれば、「天皇も臣民も歴史を遡ればともに天照大神に到達する」「我が日本人はみな神の子孫」だからスゴイとする神がかりなものまで、品揃えはさまざま。いわば一種の「トンデモ本」コレクションではあるのだが、読み進めるうちに正直そんなにバリエーションはないなぁと感じてしまう。結局、日本礼賛本は、いまもむかしもつまんないんだなぁ。そしてそれらつまらない本のなかに、子供たちに国粋主義をたたきこんだ文部省編の『国体の本義』『臣民の道』といった冊子も納められているところに、著者の意地悪な目線というか、本書の姿勢があらわれていて好ましい。

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著者プロフィール

1974年生まれ。フィルム製版工などを経て、現在は編集者として勤務。著書に『「日本スゴイ」のディストピア』『「愛国」の技法』(ともに青弓社)、『神国日本のトンデモ決戦生活』(筑摩書房)、『原発ユートピア日本』(合同出版)など。

「2018年 『まぼろしの「日本的家族」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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