占いをまとう少女たち 雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ (青弓社ライブラリー)
- 青弓社 (2019年2月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784787234476
作品紹介・あらすじ
1980年代に少女たちの間で流行した「占い/おまじない」は、現代まで多くの女性から支持されてきた。占いはなぜ女性を引き付けたのか、それは女性にとってどのような役割を果たしてきたのか。
少女向け占い専門雑誌「マイバースデイ」(実業之日本社)を軸に女性誌やファッション誌にも目配りして、1980年代、90年代、2000年代の少女と占いの関係性を描き出す。そして、宗教ブームやオウム真理教の影響、女性の社会進出なども絡めて、社会的・文化的な背景を解き明かす。
少女たちの理想像や人間関係を時代ごとに指し示し、宗教の市場化・商品化の役目も担った〈占い〉の社会的な機能を明らかにして、スピリチュアリティと女性たちの現状にも迫る宗教社会学の成果。「マイバースデイ」を当時読んだ読者も必読。
感想・レビュー・書評
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目の付け所はよく、題材も興味深いのだがなんだか微妙に文章が読みにくく頭に入ってこない…でも占いとおまじないは現代の女性たちにとっての新しい宗教という視点は目からウロコだった。
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1980年代に少女たちの間に広まった「占い」と「おまじない」ブームを牽引した雑誌『マイバースデイ』を読み解き、80年代から2000年代の女性と占いの関係性の変遷を追う。
『魔女狩りの地を訪ねて』を読んで、魔女と占い、おまじないって切り離せないよねと思ったので、こちらを読んでみました。
『マイバースデイ』は1979年に創刊された占い専門雑誌。私は区別ついてなかったけど、『マイバースデイ』が実業之日本社、『Lemon』が学習研究社の刊行。2006年に休刊。
『マイバースデイ』だったか『Lemon』だったか星座別に毎日の占いが載っていて、透明な下敷き(あったよね!)にページを切り抜いていれている子がいたり、自分の星座ではないページを友達がくれたりしました。まあ、毎日の占いなんてそんなに熱心に見続けられるものでもないんですが。
この本のなかで紹介されているものだと「金星が輝く晩にワインを供えて呪文を唱え、洗面器と鏡を用意してそのなかを覗き込む」のように「おまじない」の手順が結構複雑で(金星が輝く晩っていつ?)、そんな面倒なことやってられるかという感じで私ははまらなかったなあ。
それでも、やはりこの本に出てくる「ティーカップにジャムを入れて月の女神に呼びかける」とか「小さな鈴をハンカチに入れて持って歩く」といったおまじないになぜだか見覚えがあるので、このページを友達にもらったか、ポピュラーなおまじないだったんでしょうか。
(比較的簡単なおまじないだから、やる気があったのかもしれない。)
「白魔女」という理想像に向けて、「魔女っこ」として読者が努力する、そのために「おまじない」があったというのはなかなかおもしろい見立て。
また、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件により「宗教ブーム」に対する忌避感が生まれ、「おまじない」が魅力を失っていき、2000年になってスピリチュアル・ブームが起こり、成人女性が主な担い手であること、最近では妊娠、出産に結びついていること、などおもしろい指摘も多い。
(『マイバースデイ』の読者だった少女たちが大人になってスピリチュアルブームの担い手になった訳じゃないような気もしますよね。また別の世代な気がする。)
しかし、社会学的な文体もあって、分析は丁寧なのに、結論や考察がややいきなりで読みにくいというか、うまく飲み込めないところも多かったです。
ポプリとかフェルトの人形の手作りとか、80年代少女文化については、懐かしいというより、なんだったんだあれはという気持ちが強く、社会学者が考察して何か答えが出るのかどうかわかりませんが、ほかにもいろいろ本が出ているようなので読んでみたいです。
以下、引用。
現代の「占い/おまじない」でも、若者ら、特に少女や女性にとっての何らかの災厄や災害に等しい、生きていくうえでの不安に対処するためのものだったとは考えられないだろうか。それは、「占い/おまじない」が特に学校空間のなかで育まれたことと密接に関係していると考えられる。
森下みさ子が、「マイバースデイ」が取り上げる「占い/おまじない」が自分の未来を見通したり、恋愛のゆくえを占ったりするためのものというよりは、「わたし」を語るためのよりどころとして少女たちに受け入れられてきたと論じているのは、その一例である。
ここでは、「魔法のかけかた」と題して、数々の恋を成就するための「占い/おまじない」を紹介しているが、それは「魔女」の儀式を模した、かなり複雑な手順を要する内容になっている。例えば「素敵なBFに出会える魔法」では、金星が輝く晩にワインを供えて呪文を唱え、さらに洗面器と鏡を用意してそのなかを覗き込むといった手順を、天体の神話的な意味などをふまえながら紹介している。
「マイバースデイ」は周囲を幸せにすることで周囲から愛される「白魔女」を理想として掲げ、その理想像に向けて読者が「魔女っこ」として努力することの重要性を読者に示してきたといえる。そして「占い/おまじない」とは、こうした世界観を内面化し、具体的な努力をすること、学校という空間を自身の成長のための場にする役割をもつものだったと考えられる。
ボードリヤール『消費社会の神話と構造』
大塚英志『『りぼん』のふろくと乙女ちっくの時代』
僕はただおまじないをやるだけで、お願いがかなったり、幸せになれるもんじゃないと思っている。おまじないの本当の力をひきだしてくれるのは、うわべのしぐさや言葉、お守りではなく、それを使って本当に自分を変えたいと願う、真剣さや努力だと思っている。だから「魔女入門」はおまじないの記事より前書きのほうが長いんだ。
「バラの精ローザのオープンランチ」には、友達や好きな相手とピクニックに出かけたときに振る舞うための、オープンサンドやオレンジソーダの作り方を載せている。それによると、材料を奇数に切りそろえること、サンドイッチにのせるチーズはハート型に切ることで、妖精が喜んで力を貸してくれ、友達や好きな相手と仲よくできるという。
鏡は、男性から悪とされていた「魔女」のイメージが、日本ではアニメに見られるように少女の姿に転化したことを指摘している。そのうえで、「まっすぐな一途さがあって悪い大人を圧倒する」構図が人気を得ていると述べる。さらに鏡は、現代の魔女の定義は何かと問う安野に対して、「自立しているってこと」「男にこびない、卑怯なことはしたくない」といった価値観ではないかと述べているのである。
魔女になる必要はありません。女は最初から魔女なのだ──魔女になるのではなく、魔女だということに気がつくだけでいい。
さらに鏡は、「これは今の社会に迎合することではなく、多様な生き方を実践しながら自由を手に入れること」が重要として、それを〝魔力〟と呼んでいるのである。