道具と人類史

著者 :
  • 新泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787712103

作品紹介・あらすじ

石器にはじまる道具と技術の進歩が、今日の高度な科学技術を生みだし、産業社会の繁栄をもたらしたが、道具を作るこころと使うこころがいつも正しくかみ合うような人類の英知こそが、確かな二十一世紀への展望をもつことにつながるものと信じて疑わない。

感想・レビュー・書評

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  • 2012年に亡くなった考古学の重鎮、戸沢充則氏の遺稿を集めたエッセイ集。新泉社の「遺跡を学ぶ」シリーズは氏の発案だったとは知らなかった。たびたび私も感想を書いているが、素人が読んで面白い遺跡報告書はこのシリーズを嚆矢とするだろう。

    勅使河原彰氏が巻末に小評伝を書いている。そこに「戸沢充則は、学問を背負う研究者が社会の中で自己責任を果たすために、積極的に社会にコミットすることを実践的な行動で示してきました。文化財保護運動は当然のこととして、1960年代の紀元節復活問題、1970年代の元号法制化問題、1980年代の核兵器廃絶の運動、1960年代から今日まで続く歴史教科書問題などで、つねに主体的に関わるとともに、その時々に適切な発言をし、社会にコミットしてきた数少ない考古学者の一人です。(126p)」と書いている。戸沢充則氏は佐原真、近藤義郎と同様に「未来の人類史」のために考古学をやっている学者だった。

    原発事故に対しても「文明の進歩の
    おごった結果の事故ですよ。ところが、「文明の進歩は、人類にとって本当は危険かもしれない」という問題を1番追求してきたのが考古学者なんです。それなのに、具体的なことは何ひとつ提言できなかった。考古学とは何だったのか‥‥。市民のために歴史を描く学問として構築し直さないと」(132P)と言っている。

    戸沢充則氏の専門は石器時代と縄文時代である。私の好きな弥生時代研究では思いつかない視点もあった。22pには、数万年前の石器つくりの再現を丁寧に描写している。それは現代に生きる匠と同じかそれ以上の技術と智恵を必要とするだろう。石器時代の人類が現代の我々よりも劣っているという認識を改めるに十分な「実証」である。また、こんな指摘もあった。

    不思議なことに地球上のある一地域に起こった新しい石器技術は、まったく離れた別の地域でもほとんど時をおかずに開発された。それは石器技術に対する人類史的な共通のこだわりによるものだろう。だとすれば人類500万年の歴史が未来にむけて永遠であるためには、現代においても技術は全地球人の共有の財産でなければならない。(25p)

    人類をどのように定義するのか。未だ確かな答えのない重要なテーマがある。人類は道具を使い、それによって鍛えられてきた生物なのかもしれない。道具の使い方(例えば原発)は、いつの時代でも人類の永遠の課題である。
    2013年6月27日読了

  • 古代=野蛮、そんな誤った認識をしてた。道具が人類にもたらした産業革命、土器に見られる古代人類の豊かさを教えてくれる一冊。著者の誠実な取り組みから、考古学の面白さ、大切さを知ることができた。

  • 歴史

  • 【書誌情報】
    四六判 上製 136頁
    価格 1600円+税
    ISBN 978-4-7877-1210-3
    https://www.shinsensha.com/detail_html/02rekisi/1210-2.html

    【目次】
    目次 [003-005]

    I 道具のルーツ007
     人類が作った最初の道具――オノ 008
     素材は道具のいのち――ナイフ 014
     石片に隠された技術 020
     一万年前の飛び道具――投槍 026
     火の利用と土器の誕生 032
     漁労を発展させた骨角器――釣り針 037
     学ぶところのある縄文人の食文化 043
     縄文人の精神生活――土偶 049
     銅鐸の謎をめぐって 054
     大きく変わる縄文人像 060
     技術の進歩と人類の未来 065

    II 縄文土器の世界 071
     土器はなにを語るか 072
     縄文土器への憧憬――有孔鍔付土器 087
     縄文人の心理の深層――抽象文装飾土器 092
     縄文人のエネルギー ――水煙土器 097
     小さな器に豊かな祈り――吊手土器 100
     縄文土器の美――顔面付吊手土器 105
     縄文の八ヶ岳の世界――神像筒形土器 109

    人間、戸沢充則とその考古学(勅使河原 彰) [114-132]
      青春の軌跡/日本の旧石器時代研究の定点/遺跡は教室/人びとと手をつなぐ遺跡保存/学問するこころと社会的責任/遺跡と遺物に学ぶ
    著者略歴 [133]
    初出一覧 [134]

  • 資料番号:011478401
    請求記号:210.2ト

  • 先日亡くなった戸沢先生の著書。ちょうど学長の時に専攻生だった私にとってはかなり懐かしかったぁ。鷹山の発掘には参加しなかったけど、、、
    「彼らはきっと二十一世紀の人間として必要な『人類史的歴史観』を身につけた若者に育つだろう」―すっかり考古学から離れて、そんな自信はなくて期待を裏切ってる感があった。
    戸沢先生の大きさをしみじみ感じて最後にはなんだか泣けた

  • 文明の進歩は人類の衰退につながる?
    今まで考えたこともなかった逆転の発想でした。物を作る人と使う人のココロが一致しなければ道具はその様相を変えるのです。
    (匿名希望 教育学部 国語)

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著者プロフィール

昭和7(1932)年、長野県岡谷市に生まれる。昭和31(1956)年明治大学文学部卒業、同大学教授・学長などを歴任して同大学名誉教授。
藤森栄一のもとで考古学を志す。
長野県矢出川遺跡、埼玉県砂川遺跡など多くの遺跡を調査。
平成24(2012)年4月逝去。
主な著書に『縄文時代史研究序説』(名著出版)『考古学のこころ』(新泉社)など多数がある。

「2022年 『かもしかみち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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