倭国乱とは何か―「クニ」への胎動 (石野博信討論集)

  • 新泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787715043

作品紹介・あらすじ

弥生時代から邪馬台国へ。争乱の時代を12人が語る。

感想・レビュー・書評

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  • 私の関心分野は弥生時代後期である。その時代をテーマに、25年間に渡って、代表的な考古学者が次々とやってきて討論をしている、とってもぜいたくな討論集でした。

    特に巻頭討論は1980年「激動の弥生社会」と表して、佐原真、春成秀爾が登場。とても興味深かった。この25年間に、どんなことが明らかになって、どんなことがまだ課題なままなのか、この討論から浮かび上がる。
    ・佐原「銅鐸を埋めた理由を銅鐸祭祀が終わったので、本来の取り出し祭をして埋め戻しがなくなりそのままにした」春成「銅鐸は役割を終えて初めて埋められる。穀霊を鎮める。」石部「水稲農耕祭祀に重要な器物であることは間違いない」
    ・この頃は銅鐸近畿説が崩れかけている。銅鐸祭祀の終末時期は、弥生後期末、庄内式の直前段階に銅鐸破壊資料がある。
    ・縄文水稲農耕がまだ定まっていない。このあと、菜畑遺跡から水田跡が見つかり、縄文水稲農耕が定まる。
    ・古墳時代の始まりはいつなのか。まだ定まっていないし、この後も定まっていないと思う。
    ・佐原「動物殺傷用の石鏃は、幾千年二g未満。弥生前期までそうだった。早く遠くに飛ばす必要があったから。人を殺傷するためには、それを犠牲にしてでも深く突き刺さる、三角形でない武器が大量に必要になる。弥生中期に始まり、大和・河内に発達して岡山・香川に及ぶ。」この考え方は基本的にまだ有効だろう。

    「高地性集落と倭国の大乱」(1985)都出比呂志、石野博信の2人の対談。単に高地性集落とは何かということではなく、倭国の大乱と絡めて話をしていて、私の趣味の範囲なのだが、高地性集落を一つの性格に簡単にまとめていて、観音寺山遺跡のような戦乱のネットワークの中に入り込まない集落の可能性についてあまり言及していないので、ちょっと眉唾しながら読んだ。もっと詳しい分析が必要だし、正直いうと、矛盾しているが、もっとわかりやすい分析をして欲しかった。
    また、私は「洪水を避けて恒常的に山に逃げ込んだ山村の民」という説には与しないけれども、中期の高地性集落は近い意味があった気がしている。なぜいっとき2200年前くらいに高地性集落が流行って100年あとぐらいにまた廃れたのか、洪水ではなくて津波ではなかったのか。2200年ごろに大震災と大津波が日本近海を襲い、その教訓が広く日本列島に広がった可能性はないか?誰も言っていないけど、ここにメモしておく。

    「倭国の大乱から邪馬台国へ」は一挙に2014年になって、石野博信が藤田三郎と橋本輝彦に具体的な唐古・鍵遺跡と纒向遺跡の遺物出土状況やデータを聞きながら、纒向遺跡邪馬台国論を検証するという内容になっていた。
    銅鐸祭祀が終わるのが2C末~3C始めで、古墳築造直前という結果は興味深い。
    上東式土器が淀川流域まで来ていて、奈良盆地に入っていないのは初めて聞いた(吉備の中心は上東と思っていた)。石野はしかし、だからこそ邪馬台国が大和にあったならば吉備と仲良くしなければならないという。それも新しい認識。
    全体的に、邪馬台国検証はかなりなおざりで、遺物検証に終始する対談だった。

    最後の対談「弥生人の四季」(1987)は、佐原、金関、寺沢までいるオールスターの対談ですが、弥生時代の風景点描というもので、トレビアな知識がいっぱい詰まったものになっていました。それにしても、佐原の語りはホントに楽しい。佐原討論集という本はないのかしら。
    2015年11月11日読了

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著者プロフィール

1933年、宮城県生まれ。
関西学院大学文学部史学科卒業、関西大学大学院修了。
兵庫県教育委員会、奈良県立橿原考古学研究所副所長を経て同研究所顧問、奈良県桜井市纒向学研究センター顧問、兵庫県立考古博物館名誉館長。
主な著作  『古墳文化出現期の研究』学生社、『邪馬台国の考古学』吉川弘文館、『アジア民族建築見てある記』小学館、『古墳時代を考える』雄山閣、『三角縁神獣鏡・邪馬台国・倭国』(共著)『邪馬台国の候補地 纒向遺跡』『邪馬台国とは何か』『古墳とは何か』『倭国乱とは何か』新泉社、『弥生興亡 女王・卑弥呼の登場』文英堂、『研究最前線 邪馬台国:いま、何が、どこまで言えるのか』(共著)朝日選書ほか多数。

「2019年 『邪馬台国時代の王国群と纒向王宮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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