舎弟たちの世界史 (韓国文学セレクション)

  • 新泉社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787720238

作品紹介・あらすじ

「聞いてくれたまえ。これは、全斗煥将軍が国を統べていた時代の話だ」

ノワール映画の我らが主人公[独裁者]と、その兄に怯える〈舎弟たち〉——。
時代の狂気のなかで破壊されたタクシー運転手ナ・ボンマンの人生を、軽妙洒脱、ユーモラスな文体で、悲喜劇的に描ききった話題作。

1980年に全斗煥が大統領に就任すると、大々的なアカ狩りが開始され、でっち上げによる逮捕も数多く発生した。
そんな時代のなか、身に覚えのない国家保安法がらみの事件に巻き込まれたタクシー運転手ナ・ボンマンは、政治犯に仕立て上げられてしまい、小さな夢も人生もめちゃくちゃになっていく。
軍事政権下における「国家と個人」「罪と罰」という重たいテーマを扱いつつも、スピード感ある絶妙な語り口、人生に対する鋭い洞察、魅力的なキャラクター設定で、不条理な時代に翻弄される平凡な一市民の人生を描いた悲喜劇的な秀作。

韓国でロングセラー。
渾身の本格長篇、待望の邦訳!

〈イ・ギホの小説は、大いに笑わせてくれるが、そのぶん心を痛めさせられる。喜劇さえもがすでに悲劇の一部なのだ。読みやすく一気に読み進められるが、読後にはなかなか本を閉じることができない、深い傷を負った人間の哀しいジョークのような小説だ。〉——申亨澈(「解説」より)

感想・レビュー・書評

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  • 1980年、チョン・ドゥファン大統領率いる韓国では、親アメリカ政策のもと、多くの罪なき市民が共産主義者として逮捕されていた。役人たちにとっては逮捕者の人数こそが出世の道だった。

    その犠牲者の一人、ナ・ボンマンが本作の主人公。彼は孤児で満足な教育を受けられなかったが、苦労してタクシー運転手として就職し、恋人や友人もできた。ささやかな幸せにたどり着いたはずだった。が、不幸な偶然と彼の知識の無さで、彼は逮捕され、拷問にかけられる。

    3部からなる長編小説だが、ナ・ボンマンが周囲の人々に次々と巻き込まれるドタバタ劇のような第1部から、第2部は一転。ナ・ボンマンへの虐待と当時の韓国社会描写がほとんどを占め、まるで別作品のようになる。作者もその点はあとがきで触れているが、第1部の喜劇ミステリー要素がなくなってしまったのは残念だ。ちなみに最後の第3部で第1部の冒頭の伏線を回収。

    不条理な韓国軍事政権時代に憤りを感じるが、作者はそんな読者を落ち着かせるように「まあ、聞いてくれたまえ」とユーモアを交えて説得する。生き残ったナ・ボンマンの老年の姿に安堵し、当時の不幸な時代を冷静に振り返り、韓国の将来を考えようという狙いなのか。

  • イ・ギホ『舎弟たちの世界史』感想 http://mushoku.wp.xdomain.jp/cha-nam-deul-eui-se-gye-sa/
    兄貴=アメリカ、舎弟=韓国
    茶房のレジオンニて、弁護人で事務所に来てた女性か☕
    タクシー運転手に出てくる緑色のタクシーもポニータクシーだろうか
    台庄洞の鶴橋(ハクタリ)
    安企部の様子、「企画」「創作」発表の様子が恐ろしくもユーモラス
    FMラジオと拷問、反復学習 『22年目の記憶』他韓国映画を観ているおかげでイメージがしやすい
    黄色いロータリークラブ創立総会記念タオル やたら具体的、『生姜』のモナミのポールペンみたいな…
    ~聞いてくれたまえがだんだんその節の内容に沿ったものになっていく
    本当にボンマンの父なのか、実在したのか創作なのか曖昧なナ・ソングク

  • 明らかにしんどい結末が待っているんだな、と分かる冒頭の書き出しと残りのページ数に読み進めるペースが遅くなったが、後半まで行くとちょっと思ってたのと違うぞ?(確かにしんどい描写は多かったが)となって読破できた。
    なんで舎弟たちの「世界史」なんだろう。このノワール映画のような歴史は韓国に限った現象ではないからという解釈であってるのかな。

  • 韓国の映画や本に触れていれば、相当な頻度で多かれ少なかれ言及が出てくる光州事件や全斗煥時代を知りたくて、「少年が来る」を読んでみて、引き続きこれも読んでみた。観点が多少異なるものの、こっちの方が良かった。

    当時(現在もらしい)国軍の最終指揮権は在韓米軍にあって、当然光州への軍発動だってアメリカ、最終的にはカーター大統領にあったが、実質黙認された。つまりアメリカも間接的に加担していたということを知った。どう考えても筋の通らない冤罪をどうやって、自分の手柄としての最終成果物(逮捕、投獄、粛清)にまでもってくまでの、ファクトチェックなんて言葉は微塵もないその過程もリアルだった。むしろファクトを偽造し、ねじまげ、こじ付ける。人間の脳はこんなことするためのものではないはずなのに、所有者の意思によってこのような働き方をしてしまうのが悲しかった。

    「KCIA 南山の部長たち」も早くみなければ。

  • ポップな文体なのに、内容のリアルさが重過ぎてずしんずしん来る。冤罪でっち上げ時期、日本にもあったけど韓国もあったんだと改めて。本当に政治の軽率さに腹が立つ。

  • 国家によって一人の人間の人生が理不尽に破壊されていくさまを軽妙なタッチで情けなく描いているのだけど、それは悲劇の矮小化ではなくて脱神話化なのだと思った。

  • 韓国ノワール映画は観たあとダメージを受けますが、活字でも同じでした。主人公は孤児院育ち、実父は当時のソ連に亡命し実子の存在を知らない、さらに文盲。真面目にタクシードライバーを続けてきたのに、そういった背景を悪用され、社会的政治的に制裁される個人に生き方が書き換えられしまう過程がじわりじわり進み、辛くもありますが、滑稽な描写になってしまうところもあり、複雑な余韻が残りました。

  • すさまじい傑作だ。歴史の正史には書き記されるはずもないが、歴史に翻弄されてしまったひとりの男。普遍的で正当な怒りが炸裂する情念の一瞬。エルロイを思わせるその瞬間にすべては… 傑作だ。

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著者プロフィール

イ・ギホ(李起昊)
1972年、江原道原州市生まれ。秋渓芸術大学文芸創作科を卒業後、明知大学大学院文芸創作科を修了。1999年に『現代文学』でデビューした。
短編集に『チェ・スンドク聖霊充満記』、『おろおろしてるうちにこうなると思ってた』、『キム博士はだれなのか』、『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』(斎藤真理子訳、亜紀書房)、長編小説に『謝るのは得意です』、『舎弟たちの世界史』(小西直子訳、新泉社)、『モギャン面放火事件顛末記――ヨブ記四十三章』、その他の邦訳に『原州通信』(清水知佐子訳、クオン)がある。李孝石文学賞、金承鈺文学賞、韓国日報文学賞、黄順元文学賞、東仁文学賞などを受賞。

「2020年 『韓国の小説家たちⅠ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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