盗伐 林業現場からの警鐘

  • 新泉社 (2024年4月2日発売)
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感想 : 7
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787723192

作品紹介・あらすじ

私たちは、盗伐や違法伐採は熱帯地域など発展途上国で起きているのであって、日本国内には違法な木材は出回っていない、と思い込んでいるのではなかろうか。
だが日本でも盗伐・違法伐採が頻発している。とくに宮崎県では、大規模で組織的な盗伐が行われてきた。警察は動かず、ほとんどの被害者は泣き寝入り状態である。ごく一部の逮捕者も、わずかな罰金ですまされている。
国産材だけではない。輸入する木材にも違法性の高いものが多く紛れ込んでいる。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、メイン会場となった新国立競技場の建設に使われたコンクリートパネルが、違法伐採された木でつくられた可能性が高いと世界中から批判を浴びた事件もあった。
違法伐採は、先進国を含む世界中で近年続発し、規模も膨らんでいる。それは単なる森林窃盗ではなく、脱炭素や生物多様性をむしばむ環境破壊であり、激化する気候変動による災害発生を招く重要な要素となっている。そして林業そのものも持続性を失い、フェアな取引が行われないことで産業構造の劣化を引き起こしているのだ。盗伐および違法木材は、世界中の森林、林業界を悩ましている問題なのである。
こうした事態に対してヨーロッパでは、EUが森林破壊防止規則を施行し、合法・非合法を問わず、森林の持続可能性に関する要求事項を満たさない農林畜産物のEU市場への輸入やEUから他国への輸出を禁止した。つまりEUと取引する日本企業にとっても他人事の話ではなくなっている。
そこで現在日本列島で起きている盗伐の実態を示すだけでなく、世界にも目を向けて、盗伐や違法伐採が発生する理論やその構造を追い、また歴史的な背景や現代社会・経済の問題を突きつけた。盗伐は『絶望の林業』をミクロに追求する象徴的な大問題である。

感想・レビュー・書評

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  • 兄が相続して山を持っているので身近に感じたせいかもしれませんが、怒りながら読みました。宮崎県の盗伐の例を挙げられていて、こんなことがまかり通っていいのか、とずっとプンプンしながら読みました。盗伐した業者の言い訳、木が盗まれているのに警察が動いてくれないジレンマ、消極的な行政…。こんなの許されていいのか、ということばかり。もしも、この本の事例のように、兄の山が重機で踏みつぶされ、父が孫のために植えた木が勝手に伐られていたら、と想像すると、全く納得がいかない被害ばかりでした。

    盗伐や外国で違法に伐採された木が日本で普通に流通されています。私自身が望まずにしてそのような木で作られた家に住んでいるかもしれませんし、そのような木で作られた建築物を「自然を感じられて凄い」と思っているのかもしれません。
    ヨーロッパのような厳しい法律で流通の面から違法伐採から木や自然を守って欲しい、と願わずにはおられません。

    その一方で、山はみんなのものではありません。山は山主の物。そこに植えられた木の持ち主が別の場合もあります。山主の中には誰も相続しないから仕方なく山を相続し、間伐する費用がない人も少なくないでしょう。相続自体がされておらず、持ち主がわからない山も多いようです(そのような山は盗伐のターゲットになりやすい)。
    なので「SDGs 15.陸の豊かさも守ろう」って、日本全体で実現しようとすると一筋縄ではいかないのだろうな、と思います。

    読み終わってから、ぐるぐると考えが巡っています。
    私には何ができるだろう。
    ライフワークじゃないけれども、山・森についてこれからも知識を増やしたい。
    まずはこの本に出会えてよかった。

  • 書評 「盗伐 林業現場からの警鐘」(田中 淳夫著) 日本各地で異様な事態が横行|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト(2024/05/11 有料会員記事)
    https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024051000912

    <訪問>「盗伐」を書いた 田中淳夫(たなか・あつお)さん:北海道新聞デジタル
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1022620/

    盗伐 林業現場からの警鐘|新泉社
    https://www.shinsensha.com/books/6178/
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    (yamanedoさん)本の やまね洞から

  • 盗伐なんて現代にあるのか、というのが社会の受け止めのようで、僕もなんとなくそんな認識を持っていた。
    しかし本書には、そういう甘い認識に冷や水をかけるように、さまざまな盗伐例が紹介されている。
    宮崎の例が多いけど、別に宮崎が盗伐王国なわけではなく、被害者が声をあげて動き出したから、のようだ。
    合板やバイオマス燃料用に、木ならなんでもいい、とばかりに荒っぽく盗伐するのが現代のやり方らしく、そして隣地の木を「誤って」伐ってしまった、という誤伐という言い訳狙いの盗伐もあるらしい。
    何より、業界や行政がこの問題に関して後ろ向きというのが切ない。
    著者も、この本を書くのに気が向かなかったというが、気持ちはわかる。
    一方で、林業関係者はこのようなものを突きつけられてどうするんだろう…どうもしないんだろうな…

  •  日本各地で発生している盗伐の実態を取材した本。厳しい規制があった盗伐の歴史から、最近なぜ盗伐が特に南九州地方で増えているのか、社会的・構造的な問題を解き明かしている。

     近年になって、森林の持ち主が気がつかぬうちに勝手に山を荒らし木々を手当たり次第に盗伐して売りさばく犯罪が日本全国で発生しているという。農家や果樹園から高級フルーツが盗まれ都会で売られている被害はよく聞くが、木が盗まれたというニュースは聞いたことがない。明治神宮外苑の森林伐採計画が東京都知事選挙にからめて話題になるくらいだ。本書を読んで、宮崎県を中心とする現代日本の盗伐のひどい実態を知って驚いた。

     組織的にこっそりとまたは堂々と盗伐をし、発覚すると「誤伐だった、すみません」と開き直る業者が存在しているらしく腹立たしい。盗伐をしたあとは当然、植林されないまま山が荒廃していくので、森林が知らぬ間に破壊されていくのだが、そのような悪徳業者をかばう自民党議員もいるというから闇が深い。その裏に見え隠れする、表面的な再生エネルギーブームや補助金漬けにした林業行政にまで著者はメスを入れていく。
     そして盗伐をする悪徳業者やブローカー以上にひどいのが、取り締まる立場の警察だ。刑事事件化したくないためその場で示談を進めたり、業者と裏でつながっているのか市民の陳情を何度も無視する。最近、鹿児島県警も別件で組織ぐるみの隠蔽をしている疑惑をもたれているが、本書に登場する宮崎県警もかなり腐った組織であることがわかる。著者は、あまりのひどさに、警察による被害者側の二次被害だけでなく、書いている著者自身も三次被害を被ったと書いているが、読んでいる方も気分が悪くなり四次被害を被ったような形だ。
     願わくは本書がきっかけになって、盗伐の実態とその悪影響、そしてこれらをもたらす原因の一つとなっている、遅れに遅れている日本の林業行政の闇に脚光があたってほしい。

  • 東京大学農学生命科学図書館の所蔵情報 https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003696776

  • 違法伐採は、先進国を含む世界中で近年続発し、規模も膨らんでいる。それは単なる森林窃盗ではなく、脱炭素や生物多様性をむしばむ環境破壊であり、激化する気候変動による災害発生を招く重要な要素となっている。そして林業そのものも持続性を失い、フェアな取引が行われないことで産業構造の劣化を引き起こしているのだ。盗伐および違法木材は、世界中の森林、林業界を悩ましている問題なのである。
    当たり前のようにそこにある森にそんな問題が潜んでいるとは。知らないことを知るということの大切さを学んだ本です。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『虚構の森』『絶望の林業』『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』 (イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)など多数。ほかに監訳書『フィンランド 虚像の森』(新泉社)がある。

「2023年 『山林王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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