〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性

著者 :
  • 新曜社
3.99
  • (56)
  • (36)
  • (55)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 577
レビュー : 45
  • Amazon.co.jp ・本 (966ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788508194

作品紹介・あらすじ

今回は、太平洋戦争に敗れた日本人が、戦後いかに振舞い思想したかを、占領期から70年代の「ベ平連」までたどったものです。戦争体験・戦死者の記憶の生ま生ましい時代から、日本人が「民主主義」「平和」「民族」「国家」などの概念をめぐってどのように思想し行動してきたか、そのねじれと変動の過程があざやかに描かれます。

 登場するのは、丸山真男、大塚久雄から吉本隆明、竹内好、三島由紀夫、大江健三郎、江藤淳、さらに鶴見俊輔、小田実まで膨大な数にのぼります。現在、憲法改正、自衛隊の海外派兵、歴史教科書などの議論がさかんですが、まず本書を読んでからにしていただきたいものです。読後、ダワー『敗北を抱きしめて』をしのぐ感銘を覚えられこと間違いありません。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  かなりの力作。いままでの政治思想史では左翼(革新)が民主主義、右翼(保守)が愛国=ナショナリズムを担ってきたというのが定説だった。しかし筆者は50年初頭までは民主と愛国は決して分断された物ではなく、統合された一種の「ナショナリズム」が存在していたという。その代表例が今日では批判的に見られる丸山眞男だったという。
     進歩的知識人、戦中派知識人、戦後知識人で代表的な人物の思想を克明に描き出すことで日本の政治思想の軌跡を描き出すことに成功していると思われる。

  •  戦後日本の思想の流れをまとめた本。「民主」と「愛国」。2つがどうくっつき、どうはなれていったのか?どのようにナショナリズムを形成していったのか?丸山、江藤、吉本、小田などの戦後思想人の分析からつぶさにみていく。
     これらの思想対立は各人の戦争の体験の有無(またはどのような状況下で戦争を体験したか)によってかわっていくことが明らかになった。
     戦後思想の言葉はその時代には適したのかもしれない。しかし、現在はどうであろうか?意味が違うものになってくるはずだ。ここからテクストを読み替え、新たなナショナリズムの意味付けをしていく必要がある。
     靖国、憲法9条、在日、新しい教科書...今日、いろいろな問題が渦巻くが、本書からそのヒントを得られるかもしれない。
     この辺の部分は学校の社会科では飛ばされることが多いので、若い人は特に読んでほしいところ。

  • 子供を育てる中で「イヤなことは無かったことにする」文化に突き当たり、それが何に由来するのか探っていたら「戦後」に辿り着いた。
    自分の暗部を直視して消化することを続けなければ、同じ情景を何度でも繰り返すことになる。

  • 以前挫折したが(長すぎる…)もう一度チャンレンジ。それでも結局1ヶ月くらいかかって読んだ。途中で何度も挫けそうになった。

    55年までの「第一の戦後」の誤解…という理解は、かなり面白かった。「第二の戦後」にあたる人が、自分の生きている時代の言葉に拘束されて過去を批判することに無自覚である、という指摘は、痛快でもあるし、身につまされるものでもあるなあ。気をつけたい。

    多種多様な戦争体験をそれぞれ重視しつつ、なおかつひとつのその時代の「心情」に迫ることは、とても難しいことだと思う。とはいえ、各人バラバラな体験を、追体験していくことの困難さを「第二の戦後」世代の批判として向けつつ、「第三の戦後」世代である著者は、「第一の戦後」世代と「第二の世後」世代の追体験を敢行しようとする。要は、著者が吉本や江藤に「戦争体験がないじゃないか」と批判することは、著者に対しても「お前も戦争体験してないし、安保も体験してないじゃないか」と同じ刃を向けられることを意味していないのだろうか。

    ただ、そういう批判があったとしても、「追体験しようとする営み」そのものが大切なのかな、とは思う。人間の認識は不完全、と著者も書いていたけどそれはまったくその通りで、だからこそ、諦めてしまうのではなく、努力を続けることが、他者とのつながりを生む上でも重要になってくるんだと思う。

    そういうことを書いていたような気もするが、なにせ読むのに時間がかかったので、内容をまるで理解していないのだった…。

    それにしても、史料がたくさんですごい。史料が体系化・理論化されているのかどうかはよくわからんが、とにかくなんだかよくわからんがすごい迫力で迫ってくることは間違いない。鋭利な刃物でスパっと切られる、というより、鈍器でボコボコに殴られる、という感じかもしれない。

  • 丸山真男、竹内好、加藤周一、江藤淳…。「戦後」日本の代表的な知識人の言説のありようを辿ることができます。読後、壮大なストーリーを踏破したような充実感を覚えます。

  • 民主と愛国が同居し、そして対置される。

    それを中心に戦後思想を巡る本。重厚だけど読みやすく、読んでよかった。

    言説という概念は大学のゼミで聞いたことあったけど、なんとなくで卒業したあと、これを読んで腑に落ちた。我々は今ある社会の言葉でしか語れない。そして、第三の戦後である今、民主と愛国、ナショナリズムといったなんとなくで語りがちな概念に、新たな言説を生み出せるのか。

    この本が出されて15年近く。まだその概念に新たな言説は生み出されていない。それとも過去になった時点で、生み出されていたと気付くのだろうか。少なくとも、何となくで使いがちな言葉を鵜呑みにする姿勢では、社会の在り方は掴み取ることは出来ない。

    ベ平連の部分は、社会を変えるには、で読んだ、市民運動のあり方の原型だった

  • 大変に重要かつ素朴なことが二つ描かれている。
    ひとつは、戦後思想は総じて各人の戦争体験に基づいているといこと。
    もうひとつはその戦争体験について、本人の属するジェネレーションや戦争との関わり方の相違により、極めて多種多様であること。他者の戦争体験を無視するがごとく自説を振りかざす姿は、それだけ各人にとっての個人的な戦争体験がヘビーであったことの裏返しである。

    本書は民主と愛国を対置するが、民主と民族へと読み替えたほうが分かり良いのでは。
    本書で述べられていることは、敗戦後の民族の前に、天皇も軍部もアメリカも歴史も、時には国家すら相対化された事実ではないだろうか。

    長らく民主と愛国を対置させてきたのは革新勢力と右翼勢力であるが、唯一民主と愛国を調和しえた勢力は広い意味での保守思想だったように感じた。

  •  考えてみれば、この本が世に出てもう、20年近くたっているわけだけれど、この本が検証した内容なしで、憲法や沖縄を語ることはできないと思うが、レビューがもう2年も3年も書かれていないことに驚いた。
     戦後文学、思想について、かなり網羅的に調べて書かれている労作。分厚いけれど、読みはじめると読み進めることは難しくない。近代史や、現代史に関心を持つ若い人に読んでほしい好著。

  • 装丁:難波園子

    【版元】

    ◆2003年度日本社会学会賞 受賞◆
     次つぎと話題作を発表してきた小熊英二氏の〈日本人〉論第3弾の詳細をお知らせいたします。
     今回は、太平洋戦争に敗れた日本人が、戦後いかに振舞い思想したかを、占領期から70年代の「ベ平連」までたどったものです。戦争体験・戦死者の記憶の生ま生ましい時代から、日本人が「民主主義」「平和」「民族」「国家」などの概念をめぐってどのように思想し行動してきたか、そのねじれと変動の過程があざやかに描かれます。
     登場するのは、丸山真男、大塚久雄から吉本隆明、竹内好、三島由紀夫、大江健三郎、江藤淳、さらに鶴見俊輔、小田実まで膨大な数にのぼります。現在、憲法改正、自衛隊の海外派兵、歴史教科書などの議論がさかんですが、まず本書を読んでからにしていただきたいものです。読後、ダワー『敗北を抱きしめて』をしのぐ感銘を覚えられこと間違いありません。
    https://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/4-7885-0819-2.htm


    【目次】
    目次 [003-009]
    凡例 [010]

    序章 011
    二つの「戦後」  「戦後民主主義」の「言葉」  「言説」と「心情」について

    第一部 
    第1章 モラルの焦土――戦争と社会状況 029
    セクショナリズムと無責任/軍需工場の実態/組織生活と統制経済/知識人たち/学徒兵の経験/「戦後」の始まり

    第2章 総力戦と民主主義――丸山眞男・大塚久雄 067
    「愛国」としての「民主主義/総動員の思想/「国民主義」の思想/「超国家主義」と「国民主義」/「近代的人間類型」の創出/「大衆」への嫌悪/屈辱の記憶

    第3章 忠誠と反逆――敗戦直後の天皇論 104
    「戦争責任」の追及/ある少年兵の天皇観/天皇退位論の台頭/共産党の「愛国」/「主体性」と天皇制/「武士道」と「天皇の解放」/天皇退位と憲法/退位論の終息

    第4章 憲法愛国主義――第九条とナショナリズム 153
    ナショナリズムとしての「平和」/歓迎された第9条/順応としての平和主義/共産党の反対論/「国際貢献」の問題

    第5章 左翼の「民族」、保守の「個人」――共産党・保守系知識人 175
    「悔恨」と共産党/共産党の愛国論/戦争と「リベラリスト」/オールド・リベラリストたち/「個人」を掲げる保守/「世代」の相違

    第6章 「民族」と「市民」――「政治と文学」論争 209
    「個人主義」の主張/戦争体験と「エゴイズム」/「近代」の再評価/共産党の「近代主義」批判/小林秀雄と福田恒存「市民」と「難民」

    第二部 
    第7章 貧しさと「単一民族」―― 一九五〇年代のナショナリズム 255
    経済格差とナショナリズム/「アジア」の再評価/反米ナショナリズム/共産党の民族主義/一九五五年の転換/「私」の変容/「愛する祖国」の意味

    第8章 国民的歴史運動――石母田正・井上靖・網野善彦ほか 307
    孤立からの脱出/戦後歴史学の出発/啓蒙から「民族」へ/民族主義の高潮/国民的歴史学運動/運動の終焉

    第9章 戦後教育と「民族」――教育学者・日教組 354
    戦後教育の出発/戦後左派の「新教育」批判/アジアへの視点/共通語普及と民族主義/「愛国心」の連続/停滞の訪れ

    第10章 「血ぬられた民族主義」の記憶――竹内 好 394
    「政治と文学」の関係/抵抗としての「十二月八日」/戦場の悪夢/二つの「近代」/「国民文学」の運命

    第11章 「自主独立」と「非武装中立」――講和問題から55年体制まで 447
    一九五〇年の転換/アメリカの圧力/ナショナリズムとしての非武装中立/アジアへの注目/国連加盟と賠償問題/「五五年体制」の確立

    第12章 六〇年安保闘争――「戦後」の分岐点 499
    桎梏としての「サンフランシスコ体制」/五月十九日の強行採決/戦争の記憶と  「愛国」/新しい社会運動/「市民」の登場/「無私」の運動/闘争の終焉

    第三部 
    第13章 大衆社会とナショナリズム――一九六〇年代と全共闘 551
    高度経済成長と「大衆ナショナリズム」/戦争体験の風化/「平和と民主主義」への批判/新左翼の「民族主義」批判/全共闘運動の台頭/ベトナム反戦と加害

    第14章 「公」の解体――吉本隆明 598
    「戦中派」の心情/超越者と「家族」/「神」への憎悪/戦争責任の追及/「捩じれの構造」と「大衆」/安保闘争と戦死者/国家に抗する「家族」/「戦死」からの離脱

    第15章 「屍臭」への憧憬――江藤 淳 656
    「死」の世代/没落中産階級の少年/「死」と「生活者」/「屍臭」を放つ六〇年安保/アメリカでの「明治」発見/幻想の死者たち

    第16章 死者の越境――鶴見俊輔・小田 実 717
    慰安所員としての戦争体験/「根底」への志向/「あたらしい組織論」の発見/「難死」の思想/不定形の運動/「国家」と「脱走」

    結論 793
    戦争体験と戦後思想/戦後思想の限界点/戦争体験の多様性/「第三の戦後」/「護憲」について/言説の変遷と「名前のないもの」

    注 [830-950]
    あとがき(二〇〇二年八月 小熊英二) [951-958]
    人名索引 [959-966]

  • 江藤淳について詳しく、ページ数も割かれているとの情報を得て手に取る。
    戦後思想史について知りたいとする欲望に応える本では。

全45件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1962年東京生まれ。東京大学農学部卒。出版社勤務を経て、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。現在、慶應義塾大学総合政策学部教授。学術博士。主な著書に『単一民族神話の起源』(サントリー学芸賞)、『<民主>と<愛国>』(大仏次郎論壇賞、毎日出版文化賞、日本社会学会奨励賞)、『1968』(角川財団学芸賞)、『社会を変えるには』(新書大賞)、『生きて帰ってきた男』(小林秀雄賞)、A Genealogy of ‘Japanese’ Self-Imagesなど。

「2019年 『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小熊英二の作品

〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性に関連する談話室の質問

〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性を本棚に登録しているひと

ツイートする