〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性

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  • 新曜社
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  • Amazon.co.jp ・本 (966ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788508194

作品紹介・あらすじ

今回は、太平洋戦争に敗れた日本人が、戦後いかに振舞い思想したかを、占領期から70年代の「ベ平連」までたどったものです。戦争体験・戦死者の記憶の生ま生ましい時代から、日本人が「民主主義」「平和」「民族」「国家」などの概念をめぐってどのように思想し行動してきたか、そのねじれと変動の過程があざやかに描かれます。

 登場するのは、丸山真男、大塚久雄から吉本隆明、竹内好、三島由紀夫、大江健三郎、江藤淳、さらに鶴見俊輔、小田実まで膨大な数にのぼります。現在、憲法改正、自衛隊の海外派兵、歴史教科書などの議論がさかんですが、まず本書を読んでからにしていただきたいものです。読後、ダワー『敗北を抱きしめて』をしのぐ感銘を覚えられこと間違いありません。

感想・レビュー・書評

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  •  かなりの力作。いままでの政治思想史では左翼(革新)が民主主義、右翼(保守)が愛国=ナショナリズムを担ってきたというのが定説だった。しかし筆者は50年初頭までは民主と愛国は決して分断された物ではなく、統合された一種の「ナショナリズム」が存在していたという。その代表例が今日では批判的に見られる丸山眞男だったという。
     進歩的知識人、戦中派知識人、戦後知識人で代表的な人物の思想を克明に描き出すことで日本の政治思想の軌跡を描き出すことに成功していると思われる。

  •  戦後日本の思想の流れをまとめた本。「民主」と「愛国」。2つがどうくっつき、どうはなれていったのか?どのようにナショナリズムを形成していったのか?丸山、江藤、吉本、小田などの戦後思想人の分析からつぶさにみていく。
     これらの思想対立は各人の戦争の体験の有無(またはどのような状況下で戦争を体験したか)によってかわっていくことが明らかになった。
     戦後思想の言葉はその時代には適したのかもしれない。しかし、現在はどうであろうか?意味が違うものになってくるはずだ。ここからテクストを読み替え、新たなナショナリズムの意味付けをしていく必要がある。
     靖国、憲法9条、在日、新しい教科書...今日、いろいろな問題が渦巻くが、本書からそのヒントを得られるかもしれない。
     この辺の部分は学校の社会科では飛ばされることが多いので、若い人は特に読んでほしいところ。

  • 子供を育てる中で「イヤなことは無かったことにする」文化に突き当たり、それが何に由来するのか探っていたら「戦後」に辿り着いた。
    自分の暗部を直視して消化することを続けなければ、同じ情景を何度でも繰り返すことになる。

  • 以前挫折したが(長すぎる…)もう一度チャンレンジ。それでも結局1ヶ月くらいかかって読んだ。途中で何度も挫けそうになった。

    55年までの「第一の戦後」の誤解…という理解は、かなり面白かった。「第二の戦後」にあたる人が、自分の生きている時代の言葉に拘束されて過去を批判することに無自覚である、という指摘は、痛快でもあるし、身につまされるものでもあるなあ。気をつけたい。

    多種多様な戦争体験をそれぞれ重視しつつ、なおかつひとつのその時代の「心情」に迫ることは、とても難しいことだと思う。とはいえ、各人バラバラな体験を、追体験していくことの困難さを「第二の戦後」世代の批判として向けつつ、「第三の戦後」世代である著者は、「第一の戦後」世代と「第二の世後」世代の追体験を敢行しようとする。要は、著者が吉本や江藤に「戦争体験がないじゃないか」と批判することは、著者に対しても「お前も戦争体験してないし、安保も体験してないじゃないか」と同じ刃を向けられることを意味していないのだろうか。

    ただ、そういう批判があったとしても、「追体験しようとする営み」そのものが大切なのかな、とは思う。人間の認識は不完全、と著者も書いていたけどそれはまったくその通りで、だからこそ、諦めてしまうのではなく、努力を続けることが、他者とのつながりを生む上でも重要になってくるんだと思う。

    そういうことを書いていたような気もするが、なにせ読むのに時間がかかったので、内容をまるで理解していないのだった…。

    それにしても、史料がたくさんですごい。史料が体系化・理論化されているのかどうかはよくわからんが、とにかくなんだかよくわからんがすごい迫力で迫ってくることは間違いない。鋭利な刃物でスパっと切られる、というより、鈍器でボコボコに殴られる、という感じかもしれない。

  • 丸山真男、竹内好、加藤周一、江藤淳…。「戦後」日本の代表的な知識人の言説のありようを辿ることができます。読後、壮大なストーリーを踏破したような充実感を覚えます。

  • 本書の内容は、あとがきからそのまま引けば「戦後日本のナショナリズムと「公」にかかわる言説が、敗戦直後から1970年代初頭までにいかに変遷してきたかを検証したものである。結果として本書は、丸山眞男、大塚久雄、竹内好、吉本隆明、江藤淳、鶴見俊輔など主だった戦後知識人の思想を検証したばかりでなく、憲法や講和問題、戦後歴史学、戦後教育、安保闘争、全共闘運動といった領域までをも視野に含めるものとなった」(p.951)。
    引用頁が示すとおり、900頁を超える大著。戦後の約四半世紀の、知識人やふつうの人々のあり方も含めて、リーダビリティを保持しながら丁寧に描かれていて、ゆっくりと楽しく読んだ。
    描かれる人物たちに対する作者の評価は様々で、そのなかでも好意的に描かれたもの(安保闘争、鶴見俊輔、小田実、竹内好など)には共感を持ち、関連する本を読みたいと思った。不正確な言葉になるのだけれど、私なりに共感をもったのは、彼らは戦争体験を単純化せず、加害と被害の折り合わさったものを、なるだけ保持しながら思考しているところだったように思う。
    あとがきに、作者の父のシベリア抑留について書かれているが(これは後に岩波新書で『生きて帰ってきた男』としてまとめられ、こちらも読み応えのある本だった)、もう亡くなってしまった私の祖父も、満州〜パラオと戦地に赴いていた。戦地での話をよく聞いていたのだけれど、かれの戦争反対の言葉とともに、当時を生き生きと語る姿が記憶に残っていた。本書を読み、その折り合いのことをより考えるようになった。

  • 2022年03月05日(土)返却

  • 研究者でも学生でもない自分が著者の大著を読み続けるのは、著者が近代日本社会を研究し続ける姿を著書によって追体験でき、また時系列で出版されるので何か大河小説を読んでいると感じられるからだ。

    この本もその後の『戦争が遺したもの』『1968』にも繋がる鶴見俊輔・小田実へのシンパシー(その前の章に置かれている吉本隆明、江藤淳との対照的な事か)や、『生きて帰ってきた男』として完成される、父謙二さんのこれまでの生き方についてに紙幅が割かれている事に著書同士の大きな連動性を感じる。

    大病の後、『生きて帰ってきた男』もそうだが、『社会を変えるには』や『日本社会のしくみ』等、より今にコミットした著書が増えているので、体調に留意しつつ刺激させる研究を続けて行って頂きたい。

    後、編集能力の高さが岩波の編集者時代に繋がったのかな?

    現在遡って『〈日本人〉の境界』を読書中。

    楽天にて購入。

  • 戦後日本がいかに変遷してきたかを多角的に描いた大作

  • 戦後75年ということで、手に取った
    戦後の思想家たちの群像劇ともいえるだろう。戦争に参加したといっても、内地で食事にも困らない日々を過ごした人もいる。慰安婦の世話や上官の自殺、東京裁判に出頭したものもいる。空襲にあったといっても、本当に空襲を受けた人もいればのと、それを見ていた人でも実感が全く異なる。ただ、戦争参加した人々は戦争中のことを伝えていなかった。それが戦後の人々へ共有されなかったことが歪みを生み、いまにも続いていることが実感できる。
    また構成としては最後の章で鶴見俊輔という知の巨人と小田実という行動派の小説家をとりあげているが、著者が最後にこの二人を紹介することには、明確な意思を感じる。それはこれからの歴史に対しての希望を持ちたいとも考えていたのだろう
    さらに、最後のあとがきを読み終えたとき、この著書にまるで血が通うかのような感覚を覚えた

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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