社会調査史のリテラシー

著者 :
  • 新曜社
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788512191

作品紹介・あらすじ

調査にもとづいて数値を示すことは、説得力ある発言には欠かせないものですが、つい百年前には「調査」そのものが目新しいことでした。本書は、黎明期の貧民窟探訪、東京繁昌記、考現学などから、第一回国勢調査(一九二〇年)をへて、戦後の民主化との関係でブームとなった世論調査まで、社会調査の歴史を「方法」という観点からたどったものです。たとえば国勢調査の調査員をめぐる抱腹絶倒のエピソードから、当時のひとびとの調査に対する感受性を掘り起こしたり、観察、統計、図表化、地図、スケッチ、写真、索引など調査に必須の道具・手法のもつ意味にも目を向けて、読ませます。一貫して、具体的なモノとコトをめぐる考古学的志向にもとづいて、社会調査の歴史を考えることが「社会学」そのものであることを説得的に明らかにした、著者会心の書といえましょう。

感想・レビュー・書評

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  • 『社会調査史のリテラシー -方法を読む社会学的想像力-』
    図書館で借りざるを得なかった本書。今和次郎の考現学を思わせる装丁、600頁超の分厚さ、そして税込6,000円超。サブタイトルにある社会学的想像力という社会学者ミルズの言葉に浪漫を感じ、見つけた本書。社会学的想像力とは一般的に「ミクロな問題とマクロな社会構造との連関を、洞察できる能力」のこと、つまりは世界の大局との関係を意識しながら、目の前の小さな問題に取り組むこと。情報氾濫の2010年代にキュレーションと共に必要とされる能力の一つではないだろうかと個人的に感じている。
    ここ3年ほどエスノグラフィがマーケティングのフィールドで注目を浴びている。量的調査と共に質的調査への重要性が増している。しかし、ブームの様相を呈しているのではないかということと本質を理解している人はどのくらいいるのだろう、という疑問もある。そして、エスノグラフィは社会調査の方法のひとつであり、これからより深い消費者インサイトを探求していく日本のメーカーにとって、アカデミックの世界に転がっている他の調査の方法は、検討に値する。

    内容としては、社会調査のかつて他者の役に立った方法を実例に、どうやって情報を収集したか、どうやって情報にアプローチしたかなどを事細かに丁寧に解説している。調査の方法論ではなく、方法論の手前にある領域を深く考察しており、恣意的に調査手法を理論化・組織化していないため、ファクトがたくさん転がっている。理論書ではなく、考現学にみられるようなイラストも多数あり、単純にページをめくって読んでいても楽しい。

    実例に取り上げられているのが、「東京市社会局調査」「国勢調査」など、過去日本の実像を描いてきた調査資料である。日本の都市の情報がいかに収集され、編集され、利用されてきたか、その源流を知ることができる。そして、手あかにまみれた先駆者の社会調査の方法を学べるのである。日常的に人間観察を行っている人間好きや街中でのふとした出来事に注目してしまう注意散漫な方は、新たな視点・視座を得るのにもってこいの本である。社会学者らしく一つ一つの言葉を丁寧に紡いでおり、内容も本当に濃い。600Pもあって気後れするが、章ごとに内容が独立しており、30Pの論文×20個×300円=6000円と思えば、値段もお手頃である。


    東京市社会局:1919年から1939年に厚生局に改組されるまでのあいだ、都市社会問題に関するさまざまな調査を行っていた組織。

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著者プロフィール

佐藤 健二(さとう・けんじ):1957年、群馬県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程中途退学。東京大学名誉教授。博士(社会学)。専攻は、歴史社会学、社会意識論、社会調査史、メディア文化など。著書に、『読書空間の近代』(弘文堂)、『風景の生産・風景の解法』(講談社選書メチエ)、『流言蜚語』(有信堂高文社)、『歴史社会学の作法』(岩波書店)、『社会調査史のリテラシー』など。

「2024年 『論文の書きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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