宝塚・やおい、愛の読み替え―女性とポピュラーカルチャーの社会学

著者 :
  • 新曜社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788514164

作品紹介・あらすじ

◆宝塚の夢想・やおいの妄想
 今年は宝塚歌劇の創立百周年、華やかなセレモニーが繰り広げられました。一方、「やおい」(ボーイズラブ、男同士の恋愛を描く漫画・小説群)も40年近い歴史があります。なぜ女性たちは、宝塚・「やおい」に熱狂するのでしょうか? 宝塚ファンは、タカラジェンヌの演じる物語から何を読み取り、やおいの「腐女子」たちは、なぜ男同士の友情を恋愛に読み替えるのでしょうか? 日本独自の女性向けポピュラーカルチャーを初めて比較考察して、この謎を解いていくと、女性たちの親密性に対する強い憧れと一体感を見出すことができます。彼女たちの「愛の読み替え」という行為によって、女同士の絆への夢が脈々と受け継がれているのです。著者は大阪大学研究員、気鋭の文化社会学者

感想・レビュー・書評

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  • 真面目な研究書でした。

    宝塚とやおいを題材にした「親密性」の研究。
    特に女性同士の友情は社会の中でどんな位置づけにあるのか
    親密な人間関係の中で恋愛が最上位に位置づけられていることの意味や
    それを女性がどう感じているのかという部分が興味深い。

    男の子が少年ジャンプで「友情・努力・勝利」を学んでいる頃
    女の子は少女漫画で「恋愛」を学ぶ。
    子供の頃から女性は「恋愛が一番」という価値観を方向付けられていたんだなあ。

    やおいは男性同士の恋愛を描いているが、それは女性が得意とする恋愛というコードを利用した究極の友愛なのではという分析が独創的だった。

  • 今年イチ読んで良かった本。目から鱗がハラハラと。

    高校の時、受験対策の小論で、テーマは忘れたのだけど「BL的漫画の発展は女性の性的欲望を満たす側面がある説」を書いたことがあり、ウン十年ぶりにその疑問に向き合った感じがした。

    そういうことに、昔から躓いたり、それゆえ興味があったんだと思う。

    大学のとき、すごく大切な男友達が、恐らく私のことを好いている、という状況になったことがある。私は、大切なこの人間関係が、ずっと続いてほしいと思っていたから、恋愛なんて脆いものにこの関係を変化させたくなかった。結局うまく逃げて付き合うことはなかったのだけど、(そもそも「逃げる」という表現も変)私はその時、「多くの人は、私と違って恋愛の方が関係が上だと思ってるんだ」と知った。すごい違和感だけど、自分が変なんだと思うしかなかった。

    「誰よりも幸せになってほしい大切な人」がいる。それは元カレの1人なんだけど、彼のことが大好きだった。今も好きだと言っていい。でも一緒にいても、彼が望むもの(それが何か彼は決して口にしなかった。それは恐らく私を喜ばすことのできないものだったから。)をあげられないと思って、8年付き合って別れた。周りからは「あんな良い人いないよ?」とも言われたし、「2人で妥協点を探っていけばいいじゃない。」とも言われた。そんなの私が一番分かってるし、考えもなく別れるわけがない。その頃の人生の1/4くらいを一緒にいた相手の考えてることが分からないわけない。でもどう頑張っても、彼の幸せが私といることだという公式を成立させることができなかった。それは多分、私の恋愛への考えや優先度が、多くの人のものと隔たりのあるものだったからだと思う。

    そういう躓きやらしくじりやらの出どころを、うまく説明してくれるかのような本だった。

  • 宝塚、やおい。男同士の絆を描くポピュラーカルチャーに、なぜ女性は惹かれるのかという問いは、多くの人が抱いたことがある問いだろう。そして、宝塚ややおいのファンであったとしても、それを言語化するのは難しいのではないだろうか。

    本書では、セジウィックの「ホモソーシャル」概念に、ルーマンの「愛のコード」の議論を組み合わせて、宝塚とやおいが女性たちにどのようにして想像力をかきたたせ、のめり込ませているのかを丹念に紐解いている。

    とくにやおいに関しては、ファンはホモソーシャルをホモセクシュアルに読み替えて、ホモセクシュアルの方に「萌えて」いるのだという立場が主流だと思うが、本書はそうではなく、ホモソーシャルの方だとする。ホモセクシュアルは、ホモソーシャルに萌えるためのあくまでも手段だとするのが画期的だと思った。

    第1章のホモソーシャルをめぐる議論は、刺激的でとてもおもしろかった。宝塚ややおいといったポピュラーカルチャーだけでなく、社会全般の男性支配を読み解いていくうえでも、いろんな示唆があり、そこから今度は読み手の想像力が刺激されるような議論が展開されている。

    丁寧で緻密な論理展開に感服した。

  • 私たちには、夢見る事が必要である。

    p96
    タカラジェンヌの四層構造。
    作品内の役名、舞台上の芸名、
    舞台裏の愛称、非公開の本名。

    p243
    やおいを好む女性たちは異性愛から阻害されているわけでも、拒絶しているわけでも、異性愛を欲しているわけでもない。彼女たちはただ異性愛を排除したところで成り立つ女同士のホモソーシャルな絆がもたらす快楽を求めているのである。

    p254
    宝塚的な相関図消費は、タカラジェンヌが舞台上で表現する異性間の恋愛や男同士の友情といった親密性を、舞台裏のタカラジェンヌ同士のホモソーシャルの絆の表れとして捉える。他方やおい的な相関図消費は原作で描かれる男同士のホモソーシャルの絆を恋愛的な関係として解釈するものである。どちらの相関図消費もある物語で表される人間関係を別の関係性に読み替えている。

    p258
    なぜ宝塚ファンとやおい愛好者がホモシャリティーを補足するために相関図消費と言う複雑な方法を採用しているのだろうか。それは友愛の行動を学ぶための友情物語が女性に対して提供することが少ないために、女性は男性に比べて友愛のコードに習熟していないと考えられる。女性は同性との関係ではなく異性関係を最上位の関係とみなすよう教え込まれる。女性は同性とのホモソーシャリティ強固な関係性として認識し難く友愛のコードが適用される強い親密性に対して実感を持ちにくい傾向があるのではないだろうか。

    p261
    友愛のコードには排他性規範が備わっておらず、排他性規範のある恋愛関係よりも親密性が弱く見えてしまう。

    p268
    なぜ女同士の関係には友愛のコードを適応しづらいのだろうか。共有された目標のために協力し合うと言う点において公共性を帯びるチーム男子は、単なる友情とは異なり移ろいやすい情動に左右されない安定した特別な絆とみなされやすい。公的領域は男同士のホモソーシャル関係に支配されている。

    p43
    コネ就職は「成長(効率性)」「公平」「平等」の観点からすれば望ましくない。インパーソナルな公的領域で、パーソナルな関係を働かせれば有利になる。出身校を同じくする学閥などの派閥が力を持つのはその一例。19世紀後半の第一波フェミニズムは参政権運動など公的領域での不平等を中心的な争点にした。セジウィックの『男同士の絆』によれば男性支配社会は男性が社会的権力を有する他の男性と関係を持つ(親族の婚姻)ことによって成立する。ただ近代は親族関係を持たずとも関係をもてるようになった。

    p55
    男性が社会的権力に近づくのに必要な公的領域の男同士のパーソナルな絆は、友愛の行動によって非性的と認められるからこそ、非性的でインパーソナルな公的領域に存在することができる。ホモセクシャルは男性支配のメカニズムを揺るがすために存在を許されない。

    p60
    男性が社会的資源を支配する社会では男女とも自分の欲求充足のためには他の男性から資源を得る必要がある。女性にとって異性愛は社会的資源を獲得する唯一の近道になっている。

    p64
    親密性を規定するコードとしては恋愛のコードが中心にある。
    恋愛のコードは結婚を基礎づける。
    恋愛のコードは性的とみなされる親密性に、友愛のコードは非性的とみなされる親密性に適用される。
    友愛のコードは基本的には公的領域における男同士の親密性を補足するためのものである。
    友愛のコードが適用される関係は、恋愛のコードが適用される関係よりも劣位化される。
    友愛のコードが適用される関係は、性的な公的領域においてのみ最上位にある関係として認識/表現されることが可能になる。



  • この本のキーワードは「ホモソーシャリティ」「ホモセクシュアリティ」だ。その差は肉体関係があるかないかだが、本当にそれだけで区別できるのだろうか?

  • 【選書者コメント】宝塚は一度行って楽しかったけども、その独自性をつかみ損ねた感があったので。
    [請求記号]3610:4196

  • 女性が宝塚ややおいといった、同性による異性愛の提供にはまるのは何故かということを社会的な価値観や友愛・恋愛のコードを用いて展開、解説。心理的な言及は少ないものの、社会制度による影響など、考えるうえで避けられないことはバッチリ網羅!!序章は非常にアカデミックで読みにくいけれど、本論からはへぇー!とか、うんうん!とか思いながら読み進められて楽しい!

  • 【新着図書ピックアップ!】「宝塚」「やおい・BL」それぞれの研究は数あれど、両者をディープに分析した上で考察した研究はあまり見かけない。まるで焼肉弁当とヒレカツ弁当を一緒に食べた後のようなボリューミーな読後感。それぞれのチャプターがそれだけで1本の論文になりうるほどの分析の厚みに著者の執念を感じた。

    言われてみれば両者の共通点は多い。1)ファンの大多数が女性、2)どちらも国内に数十万規模のファンが存在する、3)異なるジェンダー的役割を担う同性の人物間での恋愛、つまり「同性による異性愛」を表現する特徴がある、などである。

    「宝塚」「やおい・BL」どちらもファンの間に暗黙の掟やタブーがあり、門外漢がうかつな分析を加えることは許されない。それゆえに両者にここまで鮮やかに切り込んだ研究は貴重なのではないだろうか。文化社会学に関心のある人は一読の価値あり。

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著者プロフィール

マンガ家。マーガレット新人賞を受賞してデビュー。以後、児童向けの学習マンガを中心に活躍。主な著書に『オードリー・ヘップバーン』(集英社)、『世界の歴史 フランス革命と産業革命』(学研)、『定年一年生の教科書』シリーズ(KADOKAWA)などがある。

「2018年 『かわるに、かあらん 高知県地方創生プロジェクトにかけた男たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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