触発するゴフマン―やりとりの秩序の社会学

制作 : 中河伸俊  渡辺克典 
  • 新曜社
3.25
  • (1)
  • (0)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 95
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788514317

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • コロナ禍が問う働き方 対面・リモート 最適解探れ
    甲南大学教授 阿部真大
    2020/5/9付
    日本経済新聞 朝刊
    新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「テレワーク」や「リモートワーク」という言葉が俄(にわ)かに注目を集めるようになった。「テレ」は「遠隔の」という意味の接頭語、「リモート」は「遠く離れた」という意味の英語であるから、共に、在宅勤務など、会社のオフィスから離れた場所で行う仕事のことを指す。


    在宅勤務など新しい働き方の実効性を測る大規模な「社会実験」が進んでいる
    イラスト・よしおか じゅんいち
    感染拡大の防止に必要なのは人と人との接触を避けることなので、オフィスや通勤電車で人が集まる機会はなるべく少なくした方がよい。4月7日に発令された緊急事態宣言のなかで、政府が対象地域の企業に対して可能な限りテレワークを実施するよう要請したことは記憶に新しい。

    ●「在宅」の実効性




    しかし、テレワークやリモートワーク自体は、ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)の急激な進展に伴い「新しい働き方」のひとつとして、2010年代を通じて注目され続けてきたものである。旧来の働き方を大きく変えるテレワークについて、企業や自治体の様々な事例を交えながら紹介した『あなたのいるところが仕事場になる』(森本登志男著、大和書房・2017年)や、そうした働き方の現状と未来をフィールドワークから得られたデータをベースに学術的に論じた『モバイルメディア時代の働き方』(松下慶太著、勁草書房・19年)を読むと、オフィスを離れた「新しい働き方」に対する当時の社会的な注目度の高さを窺(うかが)い知ることができるだろう。
    この度(たび)のコロナ危機は、期せずして、こうした働き方の実効性を測る大規模な「社会実験」のようなものになったと考えられる。つまり、これまで(主に「トガった」働き方を志向する人々によって)語られてきたこうした働き方が、「普通」の職場にも適用可能なものなのかということが、今、試されているのである。
    しばしば、「新しい働き方」が、日本企業の「古い働き方」を変えられるのではないか(例えばテレワークの導入によって、日本企業特有の「ムダな会議」の多さが変えられるのではないか)という議論を目にする。しかし、こうした議論では「古い働き方」の持つメリットが見落とされがちである。そのことが、この間、徐々に明らかになってきたように思う。
    私自身、勤務先の大学の要請でテレワークをはじめて気づいたことは、リアルな対面コミュニケーションのもつ情報量の豊かさと効率性である。今までリモートでも同じだと思っていた会議を実際にリモートでした時のコミュニケーションの困難さは、現在、多くの人が経験していることだろう。



    それは、社会学者が対面的相互行為のメカニズムとして、長年追究してきたテーマでもある。アーヴィング・ゴフマンは、人々の相互行為を舞台における「パフォーマンス」にみたて、空間の使い方、身振りの仕方、相手との距離の取り方なども含めた、人々の複雑な「印象操作」や「自己呈示(ていじ)」のあり方について明らかにした。ゴフマンの理論に興味のある方は『触発するゴフマン』(中河伸俊・渡辺克典編、新曜社、15年)をお読みいただきたい。

    ●組み合わせ焦点

    ゴフマンの議論で示されるような相互行為をオンライン・コミュニケーションで実現するのは、現状では極めて困難である。だからこそ、人々はテレワークにおけるコミュニケーションに、新しい種類の「疲れ」を感じはじめているのだろう。
    今回のコロナ危機は、リアルな対面コミュニケーションの意義を人々に再認識させる機会、つまり、「古い働き方」の良い部分を人々が見直す機会ともなっているのである。
    働き方が新しいか古いかだけではなく、対面かリモートかというふたつの働き方のどういった組み合わせが最も合理的なのか。コロナ危機を経た日本においては、働き方をめぐる議論のより一層の深化を期待したい。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

中河伸俊(なかがわ・のぶとし):1951年東京都生まれ。大阪府立大学および関西大学名誉教授。著書に『社会問題の社会学』『黒い蛇はどこへ』など。

「2023年 『日常生活における自己呈示』 で使われていた紹介文から引用しています。」

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×