- Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
- / ISBN・EAN: 9784789722797
作品紹介・あらすじ
それは一本の電話がきっかけだった。著者サイクスが自分と同じ姓をもつ赤の他人のDNAを調べると、父方の遠い先祖でつながっていた。そして、父親から息子に引き継がれる男性DNAをたどったとき、そこには驚くべき事実が待っていた。どうして男性が戦い好きでどうして暴力的で、どうして不安定なのか、すべての疑問はひとつの結末にたどりつく…滅亡のシナリオをもった遺伝子Yへと。遺伝子研究からあきらかになる自然が企てた究極の組み換え実験。あなたの体のなかにかくされた滅亡の遺伝子がいま解明される。
感想・レビュー・書評
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ミトコンドリアDNA遡及を記録した「イヴの七人の娘たち」の著者による、今回は性発現に影響するY染色体を追求した一冊。
ミトコンドリアDNAは母系祖先から受け継がれますが、Y染色体は父系祖先から受け継がれるものです。
両者は相容れないライバルであり、DNAの箱舟である我々は知らぬ間に彼らの諍いに巻き込まれていたのです。
そしてわかってきたY染色体(男性)の悲しい未来…。
勇敢なY染色体の戦略、強かなミトコンドリアDNAの策略、どちらも素晴らしいから停戦してくれないか、と思わずにはいられません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おもしろかったー!!!
『イヴの七人の娘たち』の続編にあたる…はずなんだけど、全く存在に気付いてなかった!
著者は『イヴ~』と同じ、オックスフォード大学の人類遺伝学教授、ブライアン・サイクス氏。
そしてなかなか衝撃的なタイトル。
実際、イヴ(卵子のみが持ち、女系で遺伝するミトコンドリアDNA)の物語は、アダム(Y染色体)の物語と比べたらなんと穏やかで牧歌的ですらあったろうかと思う。
『イヴと七人の娘たち』は、ミトコンドリアDNAを解析・追跡していくブライアン・サイクス氏の、研究生活の物語…という側面が強かったように思う。
けれど『アダムの呪い』については、利己的な遺伝子(リチャード・ドーキンスの。)として<ミトコンドリアDNA(女性)>と<Y染色体(男性)>をクローズアップしている。
「性とは何か?」から始まり、多様な動物の多様なクローニングと性のあり方、「Y染色体の追跡調査」、利己的な遺伝子<Y染色体>と<ミトコンドリアDNA>の熾烈な戦いを解説。
またY染色体の損傷状態から、人類が取り得る方法や男性絶滅の可能性を秘めた未来を描く。
Y染色体が自己の遺伝子の保存のために「男性」を利用し、性選択の暴走が起きていく一連の流れは、女性としては身近な経験から考えてもマクロな視点で考えても自然に受け入れられる考え方で、だからこそ性選択の暴走状態をコントロールするために著者が投げかけた「イヴが向かうところ、アダムもついて行かざるをえないのだから。」(p.366)という一文には、深い責任を感じた。
本書は別に、偏った研究結果を見せようとしているわけではなくて、ブライアン・サイクス氏の研究過程を物語的に楽しめる…という点で、『アダムの呪い』もとてもおもしろいかった!!
おもしろかったし、私は多分、本来自分が持つべき(だけど、教育や経験や流行や空気によって叩きのめされた)勇気を奮い立たせてくれるように思った。
『イヴの七人の娘たち』と『アダムの呪い』、セットで買いなおそう。 -
歴史や遺伝子やらの分野では必須本みたいなもんですでに多くの本に波及、紹介されている。存在は前々から知ってた。内容もだいたい知ってた。もっと早く読むべきだった本。原書は2003年に出てる。
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処分する
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全部理解したとは言えないけれど、とても面白かった。
孤独なY染色体哀れ。
以前は自分という存在は確固とした「私」というひとつのものだと思ってたけど、「利己的な遺伝子」によってそれは揺らぎ、更にミトコンドリアDNAやY遺伝子を知るによって完全に崩壊してしまった。私という存在は有機体の集まりにすぎない、もしかしたら都合のいい宿主でしかないのかも。それもまた賑やかで楽しいけれど。 -
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イブの7人の娘たちではミトコンドリアDNAを使って母系の遺伝指紋を追いアフリカで生まれた人類の足跡を追いかけたサイクスが今度はY染色体を使って父系の遺伝子を追いかける。
偶々同性の製薬会社社長との関係を訪ねられたことからサイクス姓を追いかけた結果その多くが共通祖先を持つことが判明。mtDNAを調べたポリネシアでは母系はほぼアジア(台湾辺り)が発祥だったのに対しラロトンガ島の1/3の男性がヨーロッパ系の遺伝子を受け継いでいた。どうやら大航海時代の名残の様なのだ。
スコットランドの北西スカイ島にはマクドナルド家の本拠、クラン・ドナルドセンターが有り世界中のマクドナルドさんがここを訪れる。ちなみにマクドゥーガル、マカリスター家も同根だそうだ。Mcは子孫と言う意味らしい。追いかけて行くとアーガイルの領主サマーレッドに行き着く。スコットランドでは領主の名前をもらう習慣が有るため2割くらいが共通祖先サマーレッドの子孫だとして世界中にマクドナルドさんは200万人。つまりサマーレッドの子孫が40万人いる。
さらに驚くべきY染色体が見つかった。東は太平洋から西はカスピ海まで広がりそれ以外の地域には見つからない遺伝指紋があった。その数1600万人のチンギスハンの子孫だ。
前作では全てのミトコンドリアDNAが遡ると一人に集約すると言うことがいまいちわからなかったのだがこの本の例で何となく理解できた。男性の性染色体はXY、女性はXXで例えば4組の夫婦がいて祖先がバラバラとするとX染色体は12種類、Y染色体は4種類。子供が男女各4人計8人として男男、男女、女男、女女と確率的にはこうばらける。子供の代では男の子二人のところで父親のX染色体が途切れ、女の子二人のところで父親のY染色体が途切れ性染色体の種類は16から14に減る、さらにこの子供たちが結婚すると今度は10個に減る。こういうのが続いて行くと途切れる系統と拡がる系統に極端に2分化するようだ。女の子が生まれやすい母系を想像するとわかりやすい。結婚するたびに名字が変わるので名前ではわからないが相手の家系のY染色体は次代に次がれず途切れて行き母系のミトコンドリアDNAは繁栄する、一方で男の子が生まれやすい父系の家系のY染色体は途切れたY染色体の分まで繁栄する。
クジャクの羽根や鹿の角に変わって、人間の性選択は権力や富などの外的要因が影響し、暴力と征服によって繁栄することがY染色体によって起こされているならばこれはアダムの呪いだと言うのがこの題名の元になっている。