- Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
- / ISBN・EAN: 9784790501053
作品紹介・あらすじ
1900年(明治33)生まれ。五つの年から寄席にでて話芸ひとすじに生き抜いてきた根っからの寄席芸人、六代目・三遊亭円生の語る素噺一代記。
感想・レビュー・書評
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三遊亭圓生の自伝「寄席育ち」。
三遊亭圓生さんというのは、1900-1979の落語家さん。
爆笑を呼ぶ、というタイプではなくて、かっちりした芸、人間の表現なんかに凄みのあったタイプ。
「真景累ヶ淵」「牡丹灯籠」みたいな、全部で10時間とかするような連続怪談噺なんかを演じると、ほんとにすごい。
今現在聴いてもぞくぞくするくらい面白い。
https://www.youtube.com/watch?v=0MntD4wit30
そんな圓生さんの自伝。
まあつまりは芸能人の自伝、エッセイ、という類いに入るのですが、これは面白い。
何しろ落語家です。どれだけ親の保護があろうが、高座にあがればひとりっきりの芸です。
つまり、やっぱり芸がある。その分、普通ではない。
その上、芸能マスコミなんて無かった時代ですから、めちゃくちゃをやっています。
圓生さんは、この自伝を書く頃には、それなりの権威になっていて、けっこう威張るタイプの人だったそうなんです。
それでも、所詮は?寄席芸人というか、真面目そうに見えて破天荒。
圓生さんの弟子が東宝名人会という落語界で、「おま×こ!」と絶叫した「東宝お×んこ事件」というのがあります。
(絶叫したのは川柳川柳。叫ぶには叫ぶまでの経緯があるわけですが、ここでは省略)
圓生さんは怒り心頭で、その弟子を破門寸前まで追い詰めた、とのことなのですが、怒りのあまり
「あいつは東宝で、おま×こ!お×んこ!と叫んだんですよ?許せないですよね?お×んこですよ?」と、
師みずからが国立演芸場で連呼したいう・・・。
自伝です。生まれから語り起こしています。
(まあ確実に、本人が書いたのではなくて、聞き書きなんだと思います)
この時代の(今の時代でも、ある程度そうなんですが)芸人さんというのは、歌舞伎にしても唄にしても、
とにかくまだまだ地位が低かった。
おそらくは、レコード、ラジオ、映画、テレビ、と複製芸術、マスコミ芸能になってくるまでは、ずっとそうだった。
当たり前ですが、金持ちの社会的成功家族からは、落語家なんぞは出ません。
圓生さんも、とにかく生まれから度肝を抜かれるというか。商売人が妾腹に生ませた子供。なンだけど、その後、父が没落。父の正妻が母になってくれた。
そして、産みの母親は別の男性と結婚して、夫婦で母に仕えていたんだそうです。圓生さんは「けっこう大人になってから、あの二人が実の父母なんだ、と知った」。
5歳6歳からいろいろあって、義太夫だが浄瑠璃だかを語る子供芸人として、寄席で育った「寄席育ち」。
それが怪我がもとで、大声を出せなくなって落語家に転向、とい有為転変。
そこまででも単純に面白い上に、淡々と赤裸々に語られる、金の苦労、売れない苦労、嫉妬羨望、エトセトラ…。
色街に通った末に性病で苦しんだことまで。史上初の「天皇の御前で落語口演」まで地位を極めた落語協会会長がそこまで晒さなくても…と思ってしまうくらい(笑)。
圓生さんは、44歳くらいで、いろいろあって満州に仕事で行くんです。
陸軍の慰問落語会を巡業する仕事。同行したのが古今亭志ん生。
すぐに帰れるとおもったら、そこで終戦を迎えてしまいます。
大連だったか、そこらで中年落語家ふたり、えらい思いをします。
なにせ、何十年って日本人・日本軍が、地元中国人に君臨していた植民地みたいなものです。
ところがそこに、ソ連軍が「新・支配者」という感じで進駐してくる。
「戦闘」そのものはそんなになかったようですが、毎日毎日、毎晩毎晩、町のどこででも、レイプや殺人やリンチが当たり前に行われていたそうです。
生きるも死ぬも運不運みたいな状況で、日本人たちが帰国する船はなかなかやってこない。
圓生さんと志ん生さんは、そんななかで1年以上、知り合いの家に居候したり、ホームレスのようにさまよったりしながら何とか生き延びたそうなんです。
その時期に、圓生さんは知り合った日本人女性と結婚しています。ささやかながら祝言あげています。
ところが、40代の圓生さんは、東京に奥さんも子供たちもいるんですね。そして、相手の女性もそうだった。
「明日生きてるか分からない中で、なんか支えが必要だったんですね。もちろん相手もすべて承知でした。
あのときの感じって言うのは、あそこに居なかった人には理解してもらえないと思います」
みたいに淡々と語っていて、それぁ、正直凄みがあります。
その女性も圓生さんも、結果、無事に帰国。帰国後はその女性のことは、家族にも紹介して、料理屋かなんかやらせたそうです。
帰国後は、男女の関係はやめた、と圓生さん曰く。まあ、どうだかわかりませんが(笑)。
この、満州滞在期間はこの本の白眉ですね。圧巻です。臨場感というか、その場の肌触りが。その上、悲惨なんだけど語り口がどこか乾いて面白い。さすが噺家。
事ほどさように実に面白い一冊。なんですが、正直高いですね。値段。ハードカバー3780円はねえ…。
こんなに面白いんだから、新潮さん、文春さん、講談社さん、朝日さんでも中公さんでも、文庫にしてください!…まあ、筑摩ですね。あり得そうなのは。
ちなみに、序盤の内容は”聴く”ことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=Dy9rW5WyRIY詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み応えたっぷり