- 本 ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784790708452
感想・レビュー・書評
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日本とベトナムの関係についての様々な論考を集めたもの。世界思想社のこのシリーズにはよくあるのだが、あまり統一感がない。ここで扱われているベトナムは主に、第二次世界戦争後のベトナム。扱われている話題はナショナリズム意識の問題から、日本との国交樹立の経緯、ベトナム難民への対応、カンボジア和平で日本が果たした役割、アジア通貨危機への対応、日本のベトナム研究史、ベトナムの日本研究史など。
面白かったものをいくつか。まず、ベトナムにおける漢文教育を日本と韓国の事例と比較したもの。ベトナムは13世紀頃、ベトナム語を書き記すために中国の漢字を改変して字喃(チュノム)を作り出した。この流れは時期は違えど日本や韓国と同じ。ベトナムはその後、フランスの植民地化で字喃からローマ字表記のクオック・グーに変わった。したがってベトナムの教育では基本的に漢字は登場せず、古典文献を読解するために学ばれる。日本語は日常的にも漢字が使われるため、現代日本語の学習の一環としての漢字教育と、古典文献を読解するための漢文教育に分かれている。韓国はハングルに統一しようとする動きが大きく、基本的には漢字を現代韓国語の学習から覗こうとしている。しかし日常的には漢字ハングル交じり文が使われているため、ハングルにおけるその読みを併記するような措置が取られている(p.52-56)。
それから第二次世界大戦後からのベトナムの対日認識についての論考はよくまとまっている。まず日本はアメリカの子分として見られている。その後、1979年の中越戦争を始めとして中国との関係が悪化すると、日中米の三国がベトナムに対する反革命勢力と見られるようになる。1986年のドイモイ以降は、こうした政治敵側面よりも経済的側面から見られるようになり、日本はアジアにおいて戦後、経済発展を奇跡的に遂げた国として、モデルとして参照されるようになる(p.82-107)。
最後に、カンボジア和平に向かって日本が外務省を中心に果たした役割について。これは複雑な外交の過程をたどっており、少し分かりにくい。外交の機微を扱っている論考で他のものとちょっと色合いが異なっている。アメリカや中国のせめぎあいの中、日本の外務省が何とか独自の外交成果を残そうとした軌跡が書かれている。ベトナムのカンボジア侵攻をきっかけに停止された経済援助を引き合いに出しつつ、カンボジア側ではクメール・ルージュに働きかけを行っている。その成果は評価が難しいが、この問題は結局は中国のインドシナ政策の変更によって解決される。中国は1991年、天安門事件によって悪くなった国際的立場を改善するのに手段として、クメール・ルージュをいわば「捨石」にしている。日本のカンボジア外交は、この政策変更をより容易にしたことへの貢献はあろうが、中国の政策変更に影響を与えた形跡は見られない(p.143)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
19-21世紀までの、日本とベトナムの関係を政治や経済など、分野別に俯瞰していく本です。日本のベトナム研究は世界的に見ても優れているとの事でしたので、ベトナムの日本研究も、日本人の方から質量ともに向上させるよう努めていきたいです。 昨今ベトナムの日本研究は着実に力が入ってきているので、ここ数年で頑張る事が出来れば日越関係は大きく深化すると思います。
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