不安の病

著者 :
  • 星和書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791107162

感想・レビュー・書評

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  • 大なり小なり、誰しもが抱える「不安」というものがあります。「不安」は、「不安」だからこそいろいろ工夫してよい結果を出すこともあるものではありますが、その「不安」が高じて社会生活に支障が出てくると、それは役に立たない「不安」であり、「不安の病」として治療した方がよいものになります。本書は、パニック障害、社会恐怖(対人恐怖、社会不安障害)、強迫性障害、疼痛性障害と心気症の4つに「不安の病」を大別し、それらを解説するととともに認知行動療法と森田療法の見地から治療法の説明をするものです。不安障害全般には、認知行動療法と森田療法といった「精神療法」と、選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI・かいつまんで言うとセロトニンを増やすための薬)などによる「薬物療法」が用いられます。

    序盤で抑えておきたいのは、「認知の歪み」というものが不安の病を起こしたり解決しにくくする源にあるということです。「認知の歪み」とはどういうものかというと、本書では「安全なことを危険なことと自動的に考えてしまうこと」とありました。そして、不安を避けていると「認知の歪み」が強化されるそうです。

    不安障害の多くに通じるのは、不安のために避けていること(回避行動)や恐れている状況にはいっていくことに対していつも安全策を取っていること(安全行動)が、かえって不安を強くしてしまうことなので、逆に踏み込んでいくことが大切だということでした。避けているものに突入していくことが不安の消去になり、安全策をやめて恐れている状況に突入することが不安の消去になるのだ、と。

    たとえばスピーチが苦手な人がずっとスピーチを避けていると、苦手なまま改善されないどころか、不安が助長されて、もっと出来なくなるどころか、不安障害にまで悪化していくことは容易に考えられることのようです。これへの対処として暴露療法と呼ばれる手法があって、さきに述べた「回避行動」や「安全行動」の逆を促す療法があるのですが、少しずつ短いスピーチをしてもらうだとか、少人数の前でのスピーチからしてもらうだとか、漸進的にスピーチができる状態へもっていくんです。施される方にとっては荒療治に違いありませんが、うまく克服するにはこういう方法に身を投じてみるのがよいということなんです。

    また、感覚の鋭敏化によって不安障害が強くなるという記述があって、それは僕自身、身をもって理解できるところだったんです。たとえば、動悸が起きるのではないかと動悸に感覚を集中することを森田療法ではヒポコンドリー性基調と呼ぶそうで、そしてそのことにより感覚が鋭敏化し不安などの身体の反応が生じさらに不安になるという悪循環になっていく。これを、精神交互作用といいます。僕は、夜にボウリングへいったりパチンコへいったりしますが、どれも頭を鈍麻させるというか真っ白にするようなところがあって、それを好んで出かけるという傾向が強いのですが(まあその行動の理由は他にも多面的にありますが)、本書からその理由が得られてちょっとすっきりしました。

    次に強迫性障害。この症状の人は自分の強い信念に従って強迫観念が生じて強迫行動をします。ですが、信念の基本的な部分は、必ずしも社会的に間違っていることではなく、これを修正することは困難だと著者は言っています。じゃあ、どうやって強迫性障害の症状をよくしていけばいいのかというと、強迫性の不安があたまに立ち上ってきても、無視して勝手に浮かばせておくのがいいそうです。コントロールできるものではないので、あるがままにさせておくのだ、と。すると、不安にはなったが行動しないでいても結局悪いことは起きなかった、という経験が、強迫観念につながる不安の軽減につながっていくそうです。そのうち、衝動は弱くなり、頻度も減る、と。うまくいったケースではそうなのだそうです。

    最後に疼痛性障害と心気症。これ、僕がいま疼痛性障害(しかしながらストレスや解決できない葛藤がはっきりしているので、ちょっと別のケースですが)に陥っています。不整脈からはじまって、頻脈、胸の痛み、低血圧、めまい、という症状がそうなんです。これには、行動量と行動範囲の拡大が望ましいそうです。どうしてかといえば、行動量が減少し行動範囲が縮小すると、注意は症状に向かってしまい、症状は維持されてしまいます。行動量が増えると、注意も症状以外に向かうため、改善していくのだと。これこそ、さきほどの精神交互作用からきている病なのでした。

    というところです。僕のこのレビュー文には割愛していますが、社会恐怖についての解説も本書ではしっかりありますので、興味のある方、知りたい方は手に取ってみてください。社会恐怖でも、暴露療法が使われています。

    不安にたいしてうまく対処出来たら社会はもっと息が詰まらないものになると思いますが、いろいろな人が共生している社会ですから、いきなり不安の種を植え付けられたり、不安が不安を呼んだり、未熟な精神性の人が他者を傷つけてそのために不安がもたらされる、などの例がありますよね。傷ついても回復できる、そのための知識を誰かがもっていれば、専門家へ相談するきっかけになったり、軽いものであればそれ以前になんとかセルフカウンセリングでリカバリーできたりするかもしれない。

    心理療法の知識はもっと一般的になったらいいなあと思いながら、このへんで終わります。

  • 不安との闘い。久しぶりに精神神経関係の書籍を読むことになった。治療の理論、特に認知行動療法が有効であろうことは判るのだが、いざ当事者になるとなかなかに難しいと感じる。本書で引用されている森田療法の「絶対臥褥」「煩悩即解脱」という用語は時代を感じさせるが、重く頼りがいのある言葉に思える。

  • 不安やパニックの症状は動機や過呼吸など運動により生じる症状に似ている。普通の変化にもかかわらず、注意を向ければ向けるほど不安・パニックとなる。しかし、不安なことを避けていると不安は強まる。従って、誰かと一緒とか、短時間等、段階的に恐怖突入してみて(段階的暴露)、パニック発作が起きないか、安全であることを練習・体得することが治療となる(森田療法の煩悶即解脱)。

  • 正しいことでもこだわると過剰な反応、行動が出現する。
    過剰な気配りは疲れるだけでなく自己嫌悪にも陥る。
    不安なことを避けていると不安が強まる。
    本人が気付かないうちに不安の反応が体に生じることがある。
    正しいことでもこだわると過剰な反応、行動が出現する。認知の歪みとは安全あんことぉ危険なことと自動的に考えてしまうこと。
    社会恐怖の治療では社会状況に突入して自己への集中をやめて、周囲を館s夏しあとでくよくよ考えることをやめることで、自己否定的な思い込み(認知のゆがみ)を修正する。

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著者プロフィール

医師、医学博士。千葉大学大学院医学研究院総括副医学研究院長・副医学部長(兼任)。1984年3月千葉大学医学部卒業。85年10月国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部研究院。88年10月~89年9月NIH米国立老化研究所神経科学研究部客員研究員。91年4月国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部室長。97年1月浜松医科大学精神神経医学講座助教授。2000年6月千葉大学医学部精神医学講座教授。01年4月千葉大学大学院医学研究院精神医学教授(組織改変による)。05年4月千葉大学社会精神保健教育研究センターセンター長(併任)。21年4月より現在。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医。著書・翻訳・監訳等多数。

「2021年 『ハーバード卒・元メジャーメンタルコーチが明かす メンタルトレーニングの奥義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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