5分後に起こる恐怖 世にも奇妙なストーリー 百壁町の呪い

  • 西東社
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791626250

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  • 町の随所に漢数字が彫られた石板がある百壁町。鳥居の横棒や、あるはずなのに無い集合住宅……。この町は普通の町より何かが足りない町だった。そして、他の町よりも良くない事が起こりやすい、奇妙な土地でもあった。
    ***
    児童向けのホラー短編集。百壁町という小さな町を舞台にして数々の恐怖体験が巻き起こる。児童向けのホラーにしては結構グロテスクで容赦なく怖い。上級生から中学生向けの様子。百壁町の秘密を探る高校の新聞部が大筋のストーリーラインだろうか。その新聞部が集めた話がこの全26話の不気味で奇妙な話という事だと思う。話はどれもすぐに読めてしまうので気軽でいい。とはいえ、前述したとおり、割とグロテスクで容赦なく恐怖描写を入れてくるので読みながら「ひえっ」となることも多々あった。お気に入りの話は「幽霊屋敷」「隙間女」「不思議な本」。「幽霊屋敷」は仲の良い男子グループが、暇を持て余しぶらぶらしていると、誰からともなく病死した女の幽霊が出る、幽霊屋敷に行ってみたはどうかという提案が持ち上がる。語り手の男の子は幽霊屋敷に行くのは怖いので反対だったが、周りはノリノリで自転車を駆る。仕方なくついていく語り手であったが始終嫌な予感がして仕方がない。屋敷にたどり着くと、荒れ果てた様子に、しり込みする。しかし、怖がっていると思われたくない彼らは虚勢を張りつつ、屋敷の中に侵入する……。 この話を読み終わって一番最初に思ったのは、幽霊頭いいな!という事。確かに、一回パニックにさせておいて、虚をつくというのは、獲物を得るための有効な手段だろう。一瞬冷静になった語り手のおかげで彼らは難を逃れたわけだが、そうじゃなかったら、多分怪異に取り込まれていたに違いない。語り手たちを誘い込む役を担った人物は、餌なのだろうか。それにしても、巧みだなー。小学生ぐらいならコロっと騙される。助かった彼らは、単に運が良かっただけなのだ。 「隙間女」は、ある怪談にまつわる怖い話。隙間女は一人で寂しそうに過ごしている人間に特有の印を付け、一週間後に殺してしまう。一種の呪いのようなものだ……。呪いを解きたければ、別の人に印を移すしかない。仲の良い友人が語る、嘘とも誠ともつかない怖い話。半分信じて、半分疑っている語り手は、その日自分の腕に白目をむいた人間の目のような奇妙な痣があることに気が付く。その日から、隙間から誰かが見ているような感覚に襲われ、恐怖からその隙間を埋めていった……。呪いをうけ、その呪いを誰かに移さなければ自分が死んでしまうという連鎖系の呪いの王道を行くストーリー展開。なるほど、こういう感じなのか。と思い読んでいったが、最後の展開に吃驚。えっ!?という感じだった。隙間女に殺されないために、そんな所に逃げ込むっていうのは無理がある。結果的に凄惨な目にあってしまった語り手だが、本当の怪異はどっちなのだろう?いや、どっちなのだろうといういい方は不適切かもしれない。どちらも怪異の持つ側面の一部なのかもしれない。この怪異の悪質な所は怪談話に少しのウソを混ぜているところだろう。そりゃ騙されるだろう。私も騙された。こうやって隙間女は確実に仲間を増やしていっているのかと思うと背筋がゾッとした。 「不思議な本」はこの本で一番のお気に入りの話。読書好きの語り手が、いつも通っている町立図書館で、仲の良い司書さんから一冊の本を薦められる。いつもと様子が違う司書さんが渡してきたのは、普段なら絶対に読まないような怪談本だった。自分好みは知っているはずの司書さんが渡してきたジャンル違いの本に困惑していると、いつの間にか司書さんはいなくなってしまう。不審に思いながら、折角薦めてくれたのだからと、別の本たちと一緒に借りて返ってしまう。自宅につくと、いやで仕方がなかったその怪談本を読みたくて仕方がないという衝動に駆られた。その衝動の赴くまま、一枚、また一枚とページをめくっていくと、心臓をわしづかみにされたような恐怖に襲われてしまう。こういうのいいなぁ。他の本でも何度か読んだ事があるが、語り手が読んでいる本が、読者が今読んでいる本そのもので、語り手の今に追いついてくる怪異というのは非常に面白い。忍び寄ってくることが着実にわかるのだが、それでも、何故か書かれている話に魅了されてしまい読むのをやめることができない。本に今のもなお記録され続ける恐怖体験の数々を読み切った先に何が起こるのかが分かっているにも関わらずだ。残念ながら、この話では最後どうなってしまったのかまでは書かれていない。語り手が魅了されたまま突き進むのか、何かのきっかけで呪縛から解放されるのか……。それは、読者の想像の赴くままにという事だろう。 さて、本編を主導する新聞部の話だが、こちらはもうちょっと掘り下げてほしかった気もする。町で何故こんなことが起こるのかというのはさりげなく触れられていたが、一度も使われることのなかった小学校の旧校舎の秘密や一度も開園することなく廃園になった遊園地の真実なども知りたかったなぁ。この辺りを掘り下げると主導の話ももっと盛り上がった気がするのでそこは少し残念だった。謎を余韻として残すにはちょっと残しすぎなような気もするなぁというのが個人的な感想。

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著者プロフィール

黒 史郎 (くろ・しろう)

小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。「実話蒐録集」シリーズ、「異界怪談」シリーズ『暗渠』『底無』『暗狩』『生闇』『闇憑』、『黒塗怪談 笑う裂傷女』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』『実話怪談 黒異譚』『川崎怪談』ほか。共著に「FKB饗宴」「怪談五色」「百物語」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『未成仏百物語』『黄泉つなぎ百物語』『ひどい民話を語る会』など。

「2023年 『横浜怪談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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