現代思想 2013年8月臨時号 総特集=フォン・ノイマン ゲーム理論・量子力学・コンピュータ科学

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791712656

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  • フォン・ノイマンは1903年にハンガリーのブダペストで生まれた。

    6歳で古典ギリシア語で父親と会話し、10歳でギリシア語、ラテン語、英語、ドイツ語、フランス語を習得。
    17歳でブダペスト大学大学院に入学し「ある最少多項式の零点の位置について」という論文を書く。

    同年にスイスのチューリヒ連邦工科大学と、ドイツのベルリン大学に入学。
    ちなみにチューリヒ連邦工科大学はアインシュタインが2年かけて入学した大学だが、ノイマンはストレートで合格した。

    その後、24歳で史上最年少のベルリン大学私講師、29歳でやはり最年少でアメリカのプリンストン高等研究所教授に就任する。
    当時はアインシュタイン、ゲーデル、オッペンハイマーなどの科学者が在籍する中、「人間のフリをした悪魔」と呼ばれたという。

    ノイマンは数学、ゲーム理論、量子力学、コンピュータ、原水爆で重要な業績を残すとともに、IBMやGE社のコンサルタントも務めた。
    特に第二次世界大戦、およびその後の米ソ冷戦では軍事に深く関わり、原子力委員会、ランド研究所、CIA(中央情報局)をはじめ10を超える軍事機関に関わっていた。

    53歳で亡くなるが、死に際のベッドには陸空海軍の司令官などが駆け付けた。
    それは高橋昌一郎氏によれば「天才の最後の一言を聞き逃さないため」、中尾麻伊香氏によれば「錯乱したノイマンが軍事機密を漏らさないよう監視するため」だったという。


    本書はフォン・ノイマンの多岐にわたる業績をそれぞれ専門家が解説している本だ。


    例えば、中山幹夫氏による「フォン・ノイマンとモルゲンシュテインのゲーム理論」では2人の共著『ゲーム理論と経済行動』(1944年)について解説されている。本書は協力ゲーム理論について書かれたもので、これがジョン・ナッシュの非協力ゲーム理論へと繋がり、現在のようにゲーム理論が経済学から生物学まで広く応用されることになる。


    岩間一雄「フォンノイマン型計算機 自分で自分を書き換えるプログラム」および杉本舞「ノイマン型コンピュータとフォン・ノイマン」では、現在のコンピュータのほとんどに使われている「ノイマン型コンピュータ」について解説されている。
    なお「ノイマン型」といいながらも、アイデア自体はエッカート、モークリーらによることも記載されている。


    小澤正直「フォン・ノイマンと量子力学の数学的基礎」ではハイゼンベルグの不確定性原理とシュレーディンガー方程式を統一した『量子力学の数学的基礎』について解説されている。


    以上のように、寄稿の多くは彼の業績を讃えるものだが、一方で批判的な寄稿もある。


    竹田茂夫氏「フォン・ノイマンはヒロシマを直視したか?」では、徹底的なノイマン批判がなされる。
    ノイマンは原水爆について、それにより失われる万にのぼる命よりも、自らの科学的な興味を重視していたと思われる。
    原爆を生んだマンハッタン計画の主導者オッペンハイマーですら「自分は死神である」と述べたというが、ノイマンが広島への原爆投下の後に行ったことは、その衝撃波の計算であった。
    ノイマンが発展させたゲーム理論は「自分と相手についての理論」であるにも関わらず、原爆を投下される側への配慮を見せないノイマンを竹田氏は「独房」の中にいたとしている。

    ところで高橋昌一郎氏によれば、ノイマンは日本への原爆投下で「歴史的価値があるから」という理由で京都への投下を主張したが陸軍の反対に合った。
    その一方、空軍が主張した皇居への投下についてはノイマンは反対したという。
    興味深いが、本書ではそれ以上の詳細は不明だ。

    中尾麻伊香「ノイマン博士の異常な愛情またはマッド・サイエンティストの夢と現実」でも「倫理観の欠如した科学者」としてノイマン批判がされ、原爆を上空で爆発させることで殺傷能力が向上することを解明したのがノイマンであることなどを指摘している。
    またキューブリックの映画『博士の異常な愛情、または私はいかにして心配するのをやめて水爆を愛するようになったか』で登場する「ストレンジラヴ博士」(「異常な愛情」博士)のモデルの一人がノイマンであることに注目し「人類皆殺し装置」について考察、またマンハッタン計画への参加等を戯曲『ファウスト』の主人公ファウストと悪魔メフィストとの契約になぞらえている。


    このように核兵器の開発に関わった科学者の中でもひときわ残酷に思われ、被害者への無関心が際立つノイマンだが、単に「マッド・サイエンティスト」では片づけられない事情もある。

    幼年期にハンガリー革命により、ソヴィエト共和国の迫害を受けたノイマンは、強烈な反共産主義者だった。
    そこから生まれたソ連への敵対心が、ノイマンを悪魔へと導いたと思われる。

    また、ノイマンがアメリカにやってきたのは、ナチスドイツの台頭が原因だった。
    ナチスドイツのユダヤ人迫害や、ソ連共産主義の恐怖政治により、アインシュタインをはじめ、多くの才能がヨーロッパを逃れ、アメリカへ渡ってきたことが、第二次世界大戦以降のアメリカの地位を築いたとすれば、ヨーロッパが失ったものは大きい。

  • 人によって評価がまちまちなのが面白い

  • 我が中山幹夫大先生が出てきますw

    フォン・ノイマンの一般向けの講義録&ゲーデルとの文通、様々な知識人が語るノイマンの業績といった構造になってます。
    ノイマンはゲーデルが大好きだったんですねw
    ノイマンの手紙ばかり残っているのはゲーデルの方がが几帳面だったからでしょうか。

    今野氏にやたらゲーム理論が否定されてる(実用性がない、工学的でない、と)けど、やってることは根本的には変わらないですよね。
    1900万変数、1000万制約条件の最大化整数解とか狂気の沙汰だと思うけどw

    登場人物や内容がある程度解り、自分も大学で一応学んで来たんだなーと実感しましたw
    まぁ、わからないところはわからないですけどね^^;

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