現代思想 2015年8月号 特集=「戦後70年」

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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791713035

感想・レビュー・書評

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  • 「戦後70年」というタイトルがついてはいるものの、とてもそれほど幅広い領域と射程をカバーする特集にはなっていない。中心となっているのは、アジア太平洋戦争下における植民地・占領地の開発から、アメリカのヘゲモニー下における冷戦期「技術協力」へという日本の開発・技術・科学の変遷と連続性について論じたアーロン・モーア、ヒロミ・ミズノ、塚原東吾、水原光、辛島理人らの一連の論文である。ODA技術協力を担ってきたコンサル会社「日本工営」が植民地開発からの強い人的・技術的・心的連続性を保持してきたこと、これら技術者たちと、アジア研究、政治家らとの「産官学複合体」の成り立ちなど、なかなか興味深かった。だったらちゃんとこのテーマに即して一本特集を組めばよかったのに。
    むしろ「戦後70年」という意味で最も重要な論考と思われたのは、新城郁夫「日本再編ツールとしての沖縄返還」であった。極右政権が「集団的自衛権」を理由に辺野古基地建設を強行し、これに対して左派もが「沖縄の苦悩を思いやる」身ぶりで「現実的な」「歯止めとなる」対案をこぞって出し始めるような中で、根本としての「沖縄返還」から、こうした認識論の問題をくっきりと照らし出してみせる。
    米軍占領を維持したままで沖縄を日本の統治下に組み入れるためには、日本国憲法の「例外」法制を作りだすことが必要であり、この例外は本土に逆流する。つまり「占領」が法政治的に日本国憲法体制の内部に導入される。こうして新城は、たとえ日本人のエゴイズムを批判する「良心的な」立場からであっても、「沖縄と日本」を二極化して捉える見方を批判して、こう述べる。
    『「沖縄返還」によって、「沖縄」は「戦後」初めて日米安保条約の適応範囲へと組み入れられたのであり、同時に、日本は初めて「沖縄」という法的政治的例外状態を全面的に国内に取り込み、この「取り込み」における主権への極端な制限と日本国憲法の空洞化を経て、米軍基地自由使用という支配のもと、アメリカの保護領あるいは準占領という国家形態を強化した』。…『この大きな転換を経て、日本占領が環太平洋規模のアメリカの安全保障システムの構築過程において再編され、占領再編を通じて日本というアメリカの衛星国は世界戦争に参戦していくことになる』。
    すでに露わになっている日本国家の主権という擬制をパロディとして演じつつ構築するような今の政治を深く穿つ思考。これ一本で買った価値あった。
    そして小熊英二と対談する原武史の相変わらずのオタクっぷりが見事(笑)。しかしこの2人が同い年だって?

  • 藤原辰史さんの軍需物資としての沢庵の話が面白かった。関連してミズノ、辛島さんも帝国研究を拡大・充実させる論文で刺激的。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2019年 『憲法を学問する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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