現代思想 2016年11月号 特集=大学のリアル ―人文学と軍産学共同のゆくえ―
- 青土社 (2016年10月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791713325
感想・レビュー・書評
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大学が現在抱えているさまざまな問題について多くの論考を集めた現代思想の特集。現代思想は各号ものすごいボリュームなので、通読しようとすると結構尻込みしてしまうことが多いけど、今号は大学に勤めるものとして読んでよかったなぁと思える内容でした。
中立的に論じたものから、現場の感情的な文章まで、いろいろ入りまじりではあるなぁ、という印象でした。標題からして、防衛省からの資金提供の話が中心なのかなと思っていて、分量的にもそうではあったのですが、印象に残ったのは専門職業大学についての日本の論考でした。
これがいずれも中立的な観点で論じられてるように思われていろいろ考えさせられてしまいました。教養的な教育を軽視して、直接社会に役に立つこと=実学を中心に大学という場で教えることについては、学生の視野や将来の可能性・思考の多様性を失わせるような気がして、心情的に反対でした。ただ、これを読んで、専門職業大学がどういう文脈(複数の)に存在するものなのか少しきづくことができたように思います。また、大学側が現行の専門学校の意義や内容について、きちんと理解できていないのを自分も含めてですが、痛感しました。
これをきっかけにもう少し自分なりにもいろいろ考えてみたいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
軍産学共同に関する基本的な議論を把握することができた。本書前半から後半に行くにつれて、主張の方向性が左から右方面に少しづつ振れてくるのがおもしろかった。編集者の力量だと感じる。現下、参考になったのは「研究費の誘惑と研究者の憂鬱 デュアルユース時代の科学者・技術者の倫理」と題された林真理の論稿だった。研究者を取り巻く実務上の視点で「安全保障技術研究制度」を冷静に淡々と捉える姿勢に好感が持てた。ちなみにこのグラントのオーバーヘッドは30%。これを大学は見て見ぬふりをするわけにはいかない。
政策的背景はおおよそ次のことがあげられる。
・2014年「防衛生産・技術基盤戦略」
・2016年 第5期科学技術基本計画
(軍事大国化政策・新自由主義的経済成長政策:多羅尾)
主な意見は以下のとおり。
・史的事実から軍産学共同研究は避けるべきだ(香山)。
・軍産学共同研究に携わる研究者はマッドサイエンティストと化す(香山)。
・軍産学共同研究が進んでも市民は観客民主主義に陥り、「お任せ」の状態になり、無責任な批判に終始する(池内)。
・研究者がどうしようもない状況に追い詰められたとき、そう簡単に軍事協力から抜けられない(池内)。
・軍事部門の研究者は、自身が軍事機密となる(藤原)。
・大学の自治力・財政力低下と関連付けして軍学共同を主張(多羅尾)。
・安全保障技術の強化が「デュアルユース」を通じて産業に波及し、国際競争力の強化につながる。軍学共同はイノベーション政策(政府)。
・戦時研究の中で戦争目的の研究でも基礎研究ができた過去の事例→研究開発手法が確立していない時代だったから「かけ声型リニアモデル」だった(河村)。
・軍事技術→民生技術(スピンオフ):航空機やGPSなど。この逆はスピンオン(林)。
・最高学府である大学だけは軍事研究から無縁な学術の園でありたいという考え方は、社会全体のことを考えない、無責任な考え方。これでは緩慢なアカデミズムが社会から信用を失う(林)。
今後は、各大学の方針により、これまで以上に、研究者や大学職員が軍事研究になんらかの形でかかわることが増えると想定されることがわかった。個人の信条というより所属組織のポリシーに基づく「仕事」として理解し自らの持ち場につくことが肝要という構えを、ひとまずの整理としておく。 -
タイトルから想像していた論点とは少し異なっていた。
しかし、研究費の削減が引き起こすであろうこういった問題は具体的にイメージできた。
大学と一括りにはできないくらい多様化(ここで取り上げられている様な軍事問題真っ只中のところと全く無関係なところ)しているのだろうことが再認識された。