免疫の意味論

著者 :
  • 青土社
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本棚登録 : 470
レビュー : 49
  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791752430

作品紹介・あらすじ

「非自己」から「自己」を区別して、個体のアイデンティティを決定する免疫。臓器移植、アレルギー、エイズなどの社会的問題との関わりのなかで、「自己」の成立、崩壊のあとをたどり、個体の生命を問う。

感想・レビュー・書評

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  • 1993年発行でその後新しい事実も発見されているだろうが、非常に興味深い内容であった。全12章、伝染病の感染から身を守るしくみである免疫系が「自己」と「非自己」を区別する仕組みを中心に書かれている。第一章は人工キメラ動物の脳が免疫系から攻撃される話、つまり精神的自己(脳)が身体的自己(免疫系)によって排除されることを論じている。臓器移植のハードルについても詳しい。要するにヌタウナギあたりから自己の細胞と非自己の細胞を区別するしくみがあり、細胞の表面にMHCと呼ばれる標識の分子があって、これで免疫系が自己と非自己を分けており、移植はMHC(ヒトの場合はHLAという)が適合しても免疫系を生涯にわたって弱らせないと成功しないそうである。第二章は非自己を認識するT細胞などの話、T細胞は「胸腺」で教育され、自己と反応するものは厳しく排除され97%は「胸腺」からでてこないそうである。T細胞はマクロファージなどがとりこんで表面に提示した抗原をみつけ、骨髄由来のB細胞につたえ、B細胞はプラズマ細胞に変化し抗体をつくりだすそうである。この際に遺伝子が特殊な使われ方をしているそうだ。第三章は、イェルネという学者が提唱した免疫のネットワーク説の話である。第四章は白血球の間で情報を媒介するインターロイキンの話で、免疫系だけに話が収まらず非常に広範で「混沌」ともいえる化学物質のネットワークができあがっている話。第五章は著者の視点である「超システム」としての免疫系である。つまり、変化しつづける自己を参照し、自己を更新していくシステムのことだと思う。「動的ゆらぎ」と似ていると思う。第六章は老化と免疫系、基本的には免疫系の制御がにぶり、自己を攻撃していくのが老化だそうである。第七章のテーマはエイズである。エイズが細胞に自己を複製し、頻繁に変化しながら免疫の攻撃をさけ、最終的に「自己」の境界を崩壊させるまでを書いている。第八章はアレルギーである。免疫が過剰に攻撃を行うのがアレルギーなのだが、大人の喘息にはアレルゲンが特定できないものがたくさんあること、プラスティックや夫の精液で全身症状がでるなど、痛ましいアレルギーの例が紹介されている。第九章は消化器と免疫系のかかわりである。胃腸は解剖学的には身体の外部で、外界が通過する場所である。そこを免疫系がどう守っているのかということが書かれてある。免疫系は臓器をもたないが、消化器と関わりが強いようだ。このあたりは中国医学の現代医学に対応臓器がない「三焦」をイメージした。第十章は自己免疫症つまり免疫が自己を攻撃する病についてである。たとえば牛乳を直接血管に注射すると強いアレルギーがでて、死にいたることもあるが、消化器からとりいれれば免疫系は「寛容」になるそうである。牛乳のアレルゲンであるタンパク質は最終的に血液中に相当量あふれるのに消化器から取り込めばアレルギーは起こらない。この不思議な「寛容」のしくみはまだ分からないそうである。第十一章はガンやナチュラルキラー細胞の話で、ガンがいかに免疫の攻撃をかわすかが書かれている。ガンは胎児の細胞のようにHLAという標識をなくし、免疫から逃走するそうである。最終章は免疫系の行動としての自己、HLAをどう認識しているのかという話である。免疫の行動が自己の境界をさだめているが、その境界は非常に限定的だという結論である。全書をつうじて難しい内容が興味深く語られており、名著だと思う。また、人体の不思議に改めて驚嘆した。

  • 科学の先端と文学の接点を書いた本としては古典に近いこの本。多田先生の講義を殆どサボっていたこともあり、20年くらい積読になってたんですが、自炊して読みました。さすがにちょっと古いですけど、それでもまあ面白かった。この領域の最近の作品を読みたくなったのがいちばんの収穫かもしれません。

  • 学生の時読んで歯が立たなかった本。なんでこんな平明な本に難渋していたのか、自分の愚鈍さには驚くけど、そんなものですよね。古い本だけど、今読み直しても学ぶことは多い。それは免疫の「意味」を問うているからで、「こと(データ)」を語っていないからだと思う。

  • 中村修先生推薦

    人間の体の神秘さが科学的な裏付けをもって語られている名著です。脳と対立することもある免疫システムのことや「女性は存在そのものであるが、男性は現象に過ぎない」という達観が印象的でした。人間はまだ未完成で本質的な欠陥を数多く持ち合わせている存在であることに不気味さも感じました。

  • 最初と最後の章を読むだけで、論旨をほぼ理解出来ると思います。

  • 著者は免疫学を専門とするサイエンティストのようだが、本書は雑誌『現代思想』に連載された原稿が元になっており、「そういう読者」を対象に書かれたものだ。テーマは免疫学の新しい知見を通して「自己とは何か? 自己と非−自己との境界はどこにあるのか?」と問い直すことにある。これは実にスリリングな、そうそう出会うことの出来ないような書物である。
    免疫なるものに私は予備知識はほとんどなく、ここで出会うT細胞やらアレルギーやらの実態の話は真新しく興味深いものだった。科学専攻の学生でもない一般読者を想定しているので、少しでも難しい概念についてはきちんと説明がされており、読めばおおむね理解できるようになっている。
    抗原・抗体の複雑なやりとりを経て、結局どこまでが「自己」と呼びうるものなのか?という疑念を提示していくのが著者の戦略だ。
    私は読み始めた頃から、「自己」を突き詰めるならジルベール・シモンドンの『固体化の哲学』の基本的考え方を援用し、完成品として不動のものとみなされた「固体化されたもの」に拘泥するのではなく、前−固体化との関係性を断つことのない、現在進行形の「固体化」プロセスそのものを「自己」と見なすべきだろう、と考えていた。そこでは「自己」は非−自己から独立しているわけではなく、絶えず自立へと向かいつつも孤絶にまで到達しえないような、無限の営みが、その領域の境界を微妙に・曖昧に刷新しつつ自己組織化してゆく様態がイメージされるだろう。
    面白いことに、著者の多田富雄氏はこれにかなり近い考え方に至りついたようだ。

    <「自己」というのは、「自己」の行為そのものであって、「自己」という固定したものではないことになる。現代の免疫学は、「自己」の行為が「自己」を規定するという部分について理解しようとしているのである。>(p220)

    「もの」から「こと」へ、という思想は大森荘蔵氏や木村敏氏のテーマとも繋がる。我々は「もの」にこだわりすぎると誤謬を犯すのである。
    本書でもう一つ痛快なのは、「自己」を問題にしながらも、古典的哲学がこだわりまくっていた「自己の意識」が全く出てこないことである。免疫は完全に不随意の生体プロセスなのだから当然なのだが、こうしたクールな考え方は実に「現代的」と言えるものであろう。

  • 現代の免疫学の成果を一般の読書人に向けてわかりやすく解説しながら、「自己」と「非自己」の境界をたえずかたちづくっているメカニズムを「超(スーパー)システム」と呼び、それがもつ思想的なインパクトについて一歩踏み込んだ考察を展開している本です。

    寺田寅彦や中谷宇吉郎、湯川秀樹や三木成夫など、文学的なセンスをあわせもった科学者の名前は何人も思い浮かびますが、著者の作品もこの系譜のなかに位置づけられるように思います。この方面にうとい読者としては、生命についての科学的探究にたずさわる科学者たちのエキサイティングな仕事についてうかがい知ることができて、おもしろく読みました。

  • 医学

  • 知っているようで知らない免疫について専門的でありながらわかりやすく書かれています。
    ニワトリとウズラの"キメラ"実験は、子供の頃テレビで見て驚いた記憶があります。
    どうやって「自己」と「非自己」を見分けるのか、実は曖昧で不思議なシステムです。自分とはなんだろう、という心理学や哲学で取り上げられるような命題を、免疫学から考えるというのは面白く、自他の境界線が外的環境によって変わるというのは心理学などでも同じように言える気もして興味深いです。

  • 105円購入2012-10-01

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著者プロフィール

多田富雄(ただ・とみお、1934-2010) 
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発見、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイストクラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞出版)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄 新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。


「2016年 『多田富雄のコスモロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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