要塞都市LA

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791758784

作品紹介・あらすじ

グローバル化する資本主義の到達点としての未来都市・ロサンゼルス。ユートピアとディストピア、理想主義と権力闘争が混在し、七色に変化する"水晶の都市"にアメリカの光と影が交錯する-SF的想像力と最先端の社会科学を駆使し、21世紀の社会像を見通す、全く新しい都市論。

感想・レビュー・書評

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  • City of Quartz の翻訳本

  • フランク・ゲーリィのこじゃれた建築やお洒落な高級デリが建ち並ぶロサンゼルスは実は、それ以上に強固な人種と階級の壁がいたるところに建ちはだかる、要塞都市なのであった。
    自分本位な中産階級の白人やヤッピーどもが闊歩するダウンタウンから郊外に車を走らせれば、そこは貧困者や不法移民が暮らすディストピア。
    ほとんど『ゼイリブ』の世界。

  •  これを読んで、ギブスンの『ヴァーチャル・ライト』や『フューチャー・マチック』の設定がより理解しやすくなった。

     とりあえず『要塞都市LA』からの引用。

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    「ここはぜいたくなライフスタイルの擁護が、空間と移動における新たな抑圧──偏在する「武装警備員応対中」の看板によってそれは支えられている──の拡散へと翻訳されるところである。」



    「物理的なセキュリティシステム──およびそれに見合ったかたちでの建築物による社会的境界の維持──にたいする強迫観念は、都市再開発の時代精神、一九九〇年台に新たに出現した建築環境の支配的物語となっている。」



    「このようなディストピア的なヴィジョンが把握しているのは、都市改革や人種・階級融合に関してまだ残っている希望が、途方もないスケールの住居および商業上のセキュリティによってどれだけ奪われているかということである。」

    「市場が「セキュリティ」を供給することによって、セキュリティのパラノイア的需要が生まれる。」

    「『恐怖を証拠立てるのは恐怖そのものでしかない』。社会が脅威を認識するのは、犯罪率の高さゆえ荷ではなく、セキュリティという概念が流通した結果である。」

    「都市の安全を確保しようとするこの聖戦はきまって、アクセスしやすい公共空間の駆逐というところに行き着く。」

    「不可触賎民との接触をなるべく避けるために、都市再開発はそれまで活気のあった歩行者のための通りを自動車が行き交う大動脈に改造し、公共のための公園をホームレスや貧民の一時収容施設に作り替えてしまった。」

    「オズの魔法の国のようなウェストサイドの盛り場──ハイソなショッピングモールの連なり、アートセンター、グルメ街──が成り立っているのは、第三世界のサービス業プロレタリアートをますます抑圧的になっているゲットーやバリオに社会的に封じ込めているからである。」

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    『ヴァーチャル・ライト』主人公のライデルが武装警備員であることは、エキゾチックな雰囲気やなんとなく下層という経済水準を示すためでもなく、ましてやハードボイルドなマッチョの役割を果たすためでもない。都市の経済や生活が軍事的に編成されていることの反映である。

    『フューチャー・マチック』における全世界の店舗の出入り口のビデオカメラの監視施設をネットワークでつないだショッピングセンターが「橋」の入り口へ進出してきたこと、の理由も、第四章を読むことで分かる。

    「デベロッパーのアレクサンダー・ハァゲンがスラム化した旧市街地の小売市場を再植民地化する自分の戦略をはっきり示した。百パーセント安全なショッピングモールの先鞭をつけた、金属製の柵と中央の監視塔にある警察の分署にとり囲まれた一望監視施設(パノプティコン)ショッピングモールである。」


     というデイヴィスの視点をつかめば、『フューチャー・マチック』での巽孝之の解説の中の
    「本作品の主要モチーフのひとつである「監視」watchの行為、すなわちミシェル・フーコー的な一望監視体制(パノプティコン)の概念と絶妙にからむ。」という一文の意味もより理解できるようになるだろう。

     物語の敵役として、『ヴァーチャル・ライト』の再開発計画に比して、『フューチャー・マチック』におけるショッピング・センターのオーナーというのはややピンボケしてる印象もあったんですが、そうではなかった。どちらも、都市における人の流れの再編成という点で、ギブスンあるいは都市にとって非常に鮮明な像を結ぶものであったわけです。


     初読時は読み流していたのだけれど
    「街路点検は、シンガポールにある〈ラッキー・ドラゴン〉の親会社が、アメリカの文化人類学者を集めた企業内チームの助言で作った制度だ」
    というあたりも、民間の警備活動に学者が動員されている状況を反映している。


     デイヴィスは『要塞都市LA』で「南カリフォルニア的な現実とSFとの不安定な境界を利用した、戦後のファンタジー」について触れているけれど(ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』からキム・スタンリー・ロビンスン『ゴールドコースト』まで)、この書からの影響によって先行する系譜に連なるギブスンの諸作が書かれたことは注目すべきではないかなぁ。


     宮下公園のナイキ公園化と安全・安心まちづくり条例という一見あまり関係のなさそうな動きを、「パッケージ化された公共空間」というひとつの戦略からながめることをデイヴィスやギブスンは教えてくれている。

     いつまでも『ニュー・ロマンサー』との比較で語られがちなのがちょっと気の毒なこのシリーズ。サイバースペースではなく、あくまでカリフォルニアの非常に具体的な空間について、よく調べた上で書き込んであることが、あらためて認識できます。時間があれば、三部作を注意深く再読してみたいものです。

  • この本もずっと探してた。
    図書館にありました。
    監視カメラなど
    都市が人を威嚇している、
    という例でこの本を
    紹介してた。
    お店での「声かけ」なんて
    まさに威嚇行為。

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著者プロフィール

1946年カリフォルニア州フォンタナ生まれ。精肉工場の工員やトラック運転手、SDSの活動家といった経歴の持ち主。リード大学で歴史学を学んだあとUCLAに進むが学位をとっていなかったために教職につかない時代を長く過ごした。南カリフォルニア大学建築学部とカリフォルニア大学アーヴァイン校歴史学部を経て現在はカリフォルニア大学リバーサイド校クリエイティブ・ライティング学部の名誉教授。『ニューレフト・リビュー』誌の編集委員でもある。日本語に訳されている著作としては『要塞都市LA』(青土社、2001年、増補新版2008年)、『感染爆発』(紀伊国屋書店、2006年)、『自動車爆弾の歴史』(河出書房新社、2007年)、『スラムの惑星』(明石書店、2010年)がある。最近になってもニューオーリンズの災害や金融危機、コロナウィルスといった時事的なトピックについてのエッセイを精力的に発表するなど、アカデミズムの枠にとらわれることのない斬新なスタイルを依然として堅持している。

「2020年 『マルクス 古き神々と新しき謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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