ローマのテラス

  • 青土社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791759064

作品紹介・あらすじ

十七世紀欧州を放浪するひとりの銅版画家の腐食版画にかける信念と妄執、激しい恋の遍歴を情動溢れる筆致で刻みつけた物語の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • すでに婚約者がある女性と通じたがゆえに銅版画家に降りかかった不幸。薬品を浴びて醜い姿となった彼は、突如断ち切られた幸福を抱えてヨーロッパを遍歴する。

    17世紀を生きた架空の版画家の謎めいた人生は、その作品がもっとも多くを物語るはず。にもかかわらず、そんな版画家の一生を現代において語ろうとする語り手とは何か。それが最大の謎であり、パスカル・キニャールのエッセンスでもあると思った。

    著者は接続詞を用いる代わりに、断片という形式を用いる。それはまた、銅版画家が春画「トランプ」を作成することとと類比関係にある。

    版画作品がその作者の人生を物語り、その人生を断片という形式で物語る現代の作家がいて……本作は、無限カノンとして開かれている。

  • 平たく言えば17世紀ヨーロッパを生きた版画家の生涯を記した小説です。唐突に終わり唐突に始まる短いセンテンス、削ぎ落とせるだけ削ぎ落としたソリッドな文章に時系列的な繋がりを見出すことは難しく、徐々にと高い視点から俯瞰する視野の広がりが生まれてきます。これは崇高な感覚でした。黒を基調とした版画家の人生に折々差し込める光のコントラストに瞬きながら、主人公それぞれの時代の版画作品を言葉の力を通じて鑑賞しきりました。徹底して無駄なく潔い文章だからこそ、言葉のめぐらす共振が秘めやかな緊張となって強く響いてきます。

  • 久しぶりにこの人の書いた本を読んだ。独特な文体もあるけれど、何か形容できない哀しさが読む手を止めない。人間は本当のことを言っているつもりでも、実はみんな嘘をついている・・・不遇の彫師の言葉が、心の中の本質的なところへ、どこまでも深く突き刺さるような気がした。

  • 小説よいうよりは文字による写真集

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著者プロフィール

1948年、ノルマンディー地方ユール県に生まれる。父方は代々オルガン奏者の家系で、母方は文法学者の家系。レヴィナスのもとで哲学を学び、ガリマール社に勤務したのち、作家業に専心。古代と現代を縦横無尽に往来し、時空を超えたエクリチュールへ読者を誘う作品を精力的に発表しつづけている。

「2022年 『楽園のおもかげ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

パスカル・キニャールの作品

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