働かない―「怠けもの」と呼ばれた人たち

制作 : Tom Lutz  小澤 英実  篠儀 直子 
  • 青土社
3.31
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本棚登録 : 172
レビュー : 15
  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791763078

作品紹介・あらすじ

いつまで経ってもカウチから起き上がってこない息子を前にして、とうとう私はキレた。と同時に、人類と労働に関する歴史を遡る決意をしたのだった。私たちは、なぜ働かない人に対して怒りを感じるのか。パウロの書簡「働きたくない者は、食べてはならない」から、情報社会の怠けものまで-。数々の文学・映画作品、社会学・心理学のデータを駆使して綴られた、壮大なる「労働文化誌」。

感想・レビュー・書評

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  • 1953年生まれで劇作家や文学研究などを行う著者が、
    自分の息子がカウチで毎日ゴロゴロしているのを見て
    なぜか湧き上がることを止められない怒り。
    それは、息子に対する怒りというよりも
    「自分だってそーいう人生を若いとき送っていたし、
     許容できる人間だ」
    と自分を評価していたにも関わらず、なぜかその感情が
    止まらないことに対する怒りが大きい。

    というところからスタートして、
    18世紀のベンジャミン・フランクリンやサミュエル・ジョンソンに
    始まり、主に米欧社会における「働かない人々」の
    活動と思想についてを幅広く俯瞰していく。
    (最後には、日本のフリーターについても少し触れている)

    本書を読んで思うのは、
    労働(および怠惰)に関して、これほどまでにあっちこっちへと議論が
    形成され、数多くの思想が打ち出されていたのだなぁという
    感慨であろうか。

    本書はあくまで人文・社会学的目線に終始しているけれど、
    自然科学的視座を組み合わせれば、より面白い理解ができるのではと
    思った。
    産業社会の中で、同じ労働環境にあっても「フィットする」人と
    「苦痛でしかない」人がいるのはなぜだろう、というところから、
    我々の認知や行動に関する多様性や分布に関する議論も成り立つのでは、と。

    ともかく、まぁ働かないことの歴史は、少なくともアメリカ建国くらいからは
    これほどまでに多様な面白い歴史があるのだから、
    今日の「高度情報社会」などと言われる中では、より一層、
    「なんでもいいから働け」などという価値観がフィットしないことは
    あきらかなように思われる。

    かつては大多数が食糧生産に携わらなければ成り立たなかった社会が、
    技術とシステムと流通のおかげで、今ではほんの数%がそれに関われば
    済むようになったのである。
    「働かざるもの食うべからず」という労働観は、過去の道徳概念であり、
    今日の社会にそうものとは思えない。
    が、そういう価値観がフィットする人も一定割合でいることもまた、
    人間の多様性という事実からすれば、否定できない真実である。

    とりあえず世の親の方々へ、
    「働かない子はしょうがない! それはあなたの教育が悪いわけでは
     まったくない! 人間はそーいうタイプも出てくる種なんです!」
    ってことを、社会学的立場から、リアルな助言として引き出せる
    一冊。

  • 「AIの発達で今の仕事の8割はなくなる!」といった予言(?)が昨今かまびすしい。
    しかし、だ。食べ物も睡眠もおしゃれもレジャーも必要としないAIが働いてくれるのなら、我々人間はその上がりを収奪して、左団扇で暮らせるのではないのだろうか? そもそも、人の労働を代替する機械とはそのために、人間様を怠けさせるために、作り出されたのではなかったか?

    といったことをかねて考えていたのだが、こんなものは今に始まった議論ではなかったことを本書で知った。
    「働きたくない」とぼやいたり、その一方で「仕事が欲しい!」とあがいたり、「あいつはなんで働かないんだ!」と憤ったり、「機械に仕事を奪われる!」と打ち壊しに走ったり、「こんなつまらんことは機械にやらせとけ」と吐き捨てたり…といったことは有史以来飽きもせずくり返されており、まったくもって現代的でも、今日的でもなかったのだ。
    画期的な自動紡績機ができた時と同様、近い将来画期的なAIが実用化されたとしても、私たちはやっぱり「働きたくない」と言いながら働き続けるのだろう。そう思えば、なんとなく気が楽になった。

    2018/2/26〜3/6読了

  • タイトルが最高。本棚に置いてみるといい。厚さ2センチの背表紙にデカデカと書かれた「働かない」の文字をみるたびにビックリする。
    18世紀から現代までの英米の怠け者たちを追っていく。
    労働に反抗する「怠け者」たちはいつの時代もいたことは心強い。
    (それぞれの時代背景や思想は違っているが)
    最後に日本のフリーターの話も出てくる。2017年にはちょっと時代遅れか?
    読んでると気持ちが揺さぶられ自分の労働倫理について考えたくなる。
    バートルビーの「しないほうがいいのですが」(I would prefer not to)の言葉は座右の銘にしたい
    ちょっと高めだが、買う価値は十分ある。
    しかしこの大著を書いた著者も翻訳者も「働かない」とは真逆の労苦をしなきゃいけないのは皮肉な話だ。
    ていうか500ページを読むのも重労働だし。

  • 欲しかったけど3500円の値段にびびってまた今度にしました

  • 働かない生活を目指した偉大?な先人たちの記録がとてもよくまとまっている。

    志を同じくする自分としては残念なのだが、こうした偉大な先人たちが成しえなかった「働かない」生活をするのは困難だという風に思えてきて、いまは「なるほど、ならば働かざるをえまい」と思うようになってしまった。

    また、産業革命直後の労働環境の過酷さなどについても勉強になった。

  • 米国文化史を講じる著者が「怠け者」の誕生とその類型を語ったもの。

    古代ギリシャやキリシタンの教えに見えるように、元来労働とは罰であり怠けるのが自然の姿であったが、産業革命以降の勤労倫理がこれを批判し、やがて「怠け者」の概念が生まれたとの指摘。

    ゼークトの組織論に通じるものを感じます。ヒトの本性に従うならば、有能で怠惰な者は司令官に、無能な働き者は即時銃殺という主張は実に理に適ったものでありましょう。

    また「何もしない」という気高い余暇の態度。樽に住んだ思想家ディオゲネスの理想にも通じます。

    突き詰めると、現代の無政府ポゴ党のスローガン"全ての労働はクソである"に至るように思います。とはいえ、これは自明のことなのであえて声を荒げて主張するまでもありません。


    ○労働に対する嫌悪は、時の始まり以来の規範であったとすら言えるかもしれない。…つまり生存に不可欠な労働とは、ユダヤーキリスト教の伝統にあっては原初の呪いであり、原罪に対する罰なのである。古代ギリシャ文明において神々と人間とを峻別するのは、神々が「労苦と不幸から遠く離れて」いることだとヘシオドスは書いている。…古代ギリシャにおける労働とは、堕落した世界のなかで死すべき人間に課せられた呪いであり、奴隷の領分、頽廃の罰、あるいは債務であった。

    ○私たちはいつも余暇の権利について話すが、怠惰の権利について話したことはないのに気がついたことがあるだろうか?さらに言えば、ここ現代の欧米社会において、「何もしない」ことは本当に存在するのだろうか。私とはまったく異なる、より厳しく、より疎外された勤勉な生活をしている人々ですら、自由な時間に「何もしない」ということをしない。彼らはいつも何かしている。
    ○例えば日曜日のように、普段の活動をすべて停止できるとき、彼は幸せを感じる。「なぜなら、予定が何も詰まっていない一日、怠惰でいられる静かな一日、それはつまり自由であるということだからだ。現代の怠惰の気高い形態が最終的に行き着くところは、自由だからである」

  • // memo
    副題の「「怠けもの」と呼ばれた人たち」のとおり、もう史上の怠け者やそれを支持する理屈をあれこれ集めた本。根性すわった怠け者から軟弱な怠け者(というのはつまり働き者、ということなんだろうか?)、屁理屈から上のラファルグのような真面目なものまで様々。別にそこからすごい教訓を引き出すわけではないけれど、仕事が嫌いなのは別に罪ではないので、その確認の意味でもどうぞ。

  • 働かない人間に腹が立つのはなぜか?という自分の息子の姿を見て感じた疑問から怠け者の歴史研究をする著者。が、背景・経緯・構造等々はある程度解明できたものの、その答えは明確化できなかったように思う。(が、多少のモヤモヤは晴れてある程度スッキリはしたような)
    本書を通じ、労働倫理というものは「働かざる者食うべからず」「天職」といった宗教的価値観(日本の場合は武士道らしい)によるある種の刷り込みによるもので、結局は怠ける事は罪ではなく、人間の真の欲求なのではという印象を受けた。それが、自分が怠けている・何もしないで何かを得るときは罪悪感と同時に喜びを覚える一方で、他人が怠けているときには、笑いや嫉妬や怒りの感情が引き起こされるという事の説明になるのではないだろうか。(という事は、不労所得を得る事が天職という思考回路を得たなら最強なんだろう)
    が、著者は結論的に次のように述べ、どちらの立場もとらない。「労働に対するふたつの立場は、お互いを煽りたててより極端になっていくかもしれない。だが、ふたつはともに、反対からの圧力にもなれながら、働くことをめぐる私たちの感情をかたちづくっていく。私たちの文化に存在し、私たちの原動力となっているふたつの主要な幻想―すなわち、完璧に実現された天職という夢と、罪悪感ぬきでのんびり暮らす夢―を打ち砕いていきながら。労働倫理とスラッカー倫理は、こうした幻想に異議を申し立て、労働生活に対する私たちの考え方を改めさせる。そしてこのプロセスは、人々の生活が絶え間なく変化していくにつれ、繰り返し必要となるのである。」要するに幻想的な両者を単純な二元論で語るではなくスペクトラムとして捉え、両極の間を揺れ動きながらバランスを取っていくしかないのかもしれない。(ここがどうもスッキリしないところではあるんだが、きっと自分は二元論に縛られてるんでしょう。もう少し中道を大切にしたいです)
    日本人は釣りバカのハマちゃんやフーテンの寅さんに怒ったりはしない(最近は怒る人もいるらしいが)。これは非現実的な映画の世界と言ってしまえばそれまでだが、自分の中の怠ける倫理への願望を素直に認める勇気も必要だろう。が、「怠け者なら孤独になるな、孤独なら怠け者になるな」には留意する必要があるのかもしれない。
    本書は欧米の歴史書のような体裁なので、具体例が多すぎてかなり冗長で読みにくい。もう少しコンパクトにして欲しかった。

  •  最近ではニートとかひきこもりとか、昔でいえばヒッピーとか、産業革命が起きてから「働かない」という生き方をする人たちがいた。
     それは、産業革命以降は、時代の「働く」という価値観が常に変わり続け、「当たり前に働く」という「当たり前」が失われたからでもある……ように思う。

     しかし、働かない……と言うことについて真面目に書きすぎです! 読み応えが半端なくあった。

  • 怠惰論を構築しただけで素晴らしい。ただし、パラグラフリーディングが全くできないくらい、文章の構成が不明でまとめの箇所もなくて読みにくい。ま、この本を読んでるようじゃー本物の怠け者にはなれないんだろなー。

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