- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791765119
感想・レビュー・書評
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自由貿易は正しい、と考える俗説に意義を唱える。素晴らしい本。
経済学に疎い自分にも、分かりやすくデューイら実践主義者(プラグマティズム)の議論を説いてくれる。
グローバリズムに胡散臭さを感じながらも、抗らえないと思う人に必見。
主流派経済学とプラグマティズムとを対比してみせる。教条的に過ぎる主流派経済学はさほど正当な理由が見出せず、一方日本の官僚制度は責められるべきものでないという。社会の紐帯を構成し、集団的な学習を継続しているそう。
以下は自分の感想。逆に日本が社会の繋がりを軽視したり、エリート層が精神的に堕落した時、そのインパクトはかえって大きいのではないか?リーダーシップが見えにくい日本だが、悪い意味でのカリスマが幅を利かすのは危険な兆候に思えた。
また、ホントに新しいことにチャレンジするのは、日本のような調整型の社会だけでは足りない。どうやって多様性を確保するか、が喫緊の課題と思える。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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グローバル化した世界においては、自由貿易体制の下では、際限なき外需の追求が、生産コストと賃金の低下圧力となり、内需が縮小し、さらなる外需の追及が進むという悪循環が生じる、とトッドは力説している。こうした悪循環は、日本においても発生していた。二〇〇二年から二〇〇六年にかけての緩やかな景気回復は、輸出主導で進んだが、その間、国内の実質賃金は抑制され、内需は拡大しなかった。経済統計上は景気回復が示されていながら、実質賃金が上がらない国民には、その実感がなかった。36
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財政出動の原資は、税金である。国民が支払った税を原資にした行政サービスの恩恵は、国民が享受すべきであるというのが、民主主義における財政の基本原則である。(…)生み出した鉄鋼需要を、例えば中国や日本の企業にとられてしまい、アメリカの企業に恩恵を与えることができないとしたら、アメリカ政府は、納税者である国民に対して、説明責任を負うことができなくなるであろう。「バイ・アメリカン」政策の保護主義は、経済自由主義の論理には相反するのかもしれないが、民主主義の論理とは整合的なのだ。56
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現代社会においては、個人の自律した生活を守るために、政府が自由な経済活動を一定程度制限することは、広範に認められている。例えば、労働政策や社会保障政策は、競争市場による破壊から人々の生活を保護することを目的としており、自由の基盤である自律的な生活を確保するための政府介入である。(…)ただ、通商関係という領域においてのみ、政府介入による自由の保護という考え方が、依然として受け入れられておらず、自由貿易という観念が支配的なのである。62
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従来、保護主義は、他国の利益を犠牲にして自国の利益を追求する利己的な国家主義(重商主義)と連想されてきた。しかし、世界不況下で各国が財政出動により内需を拡大しているときには、自由貿易こそが、他国の利益を収奪する利己的な国家主義となる。(…)長期的にみても、世界的金融危機を引き起こしたグローバル・インバランスの構造を是正し、グローバル化のもたらした問題を除去するためにも、保護主義は有効な方策ということになる。66
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本書は、経済学でいう「保護主義の薦め」の本である。現在主流派経済学では「自由貿易」の天下であり、「保護主義」はかつての1930年代の大恐慌の原因ともなった蛇蝎のごとく忌み嫌われる存在とされているが、著者はその「保護主義の復権」を高らかに宣言しているように思えた。
本書では「自由貿易はデフレを悪化させる」と主張している。「自由貿易によって先進国における労働者の実質賃金が上がらなくなってしまった」というのだ。その構造と全体像を精密なモデルのよう展開している本書は、興味深く読めた。
「リカードの罠」「経済神学」「バグワティの自由貿易擁護論」等々の専門的な経済理論をばっさり切る著者の論理は、読んでいても小気味いいが、はたしてこれは正しい見解なのだろうかと、他の専門家の意見も読みたいと思った。
現在世界的な経済危機は進行こそすれ、いっこうに治まる様子はない。それぞれの国家で対症療法は行えても、危機の歴史的あるいは全体的な構造問題や解決方法を読んだことはあまりなかったが、本書にはそれがあるのではないかと感じた。もし、本書の見解が世界で受け入れられるならば、著者は世界的な経済学者とよばれるのだろうかとも思った。
本書の最後に著者自らが「なにせ、世界中の教養ある人々が長きに亘って信じて疑わない自由貿易の原則を真っ向から否定すると言う、とんでもない代物である」と本書について語っているが、興味深く、おもしろく、かつ多くの問題を提起した良書であると感じた。 -
現在の自由経済の中に保護主義的な考え方というオプションを提示していることはとても評価できる。
内容も他人の考えを引用しつつ、自分の主張を補強して行く形で分かりやすい。
ただ、筆者の考えは現代の自由経済学者には到底受け入れられないだろうことと思う。 -
自由貿易に対する鋭い分析と、その上で保護貿易がどういった利点をもって選択(あるいは共存)されうるかを示した、学術的な本。
単に保護貿易を擁護し自由貿易を批判するだけではなく、自由貿易の
矛盾点・問題点に保護貿易がどのように対応できるかを明瞭に示しています。
本書後半の、プラグマティズムを土台とした政策(政府)の発展も読みどころ。科学的な態度にマッチする(と僕は思った)プラグマティズムが、政策を
考える上でも重要な基盤となっているとは。
著者は官僚でもありますが、それとは関係なく今後政府あるいは経済活動の共同体が選んでいくべき道を真剣に模索している点に感動しました。