「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか

著者 :
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791766109

作品紹介・あらすじ

原発は戦後成長のアイコンだった。フクシマを生み出した欲望には、すべてのニッポンジンが共犯者として関わっている。それを痛切に思い知らせてくれる新進気鋭の社会学者の登場。

感想・レビュー・書評

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  •  ブラックな話です。眉を顰めて聞いてください。

     被災地では、雇用がなくて困っているという。そこで中央の資本と国家の補助で企業のプラントを建設することにする。津波で図らずも更地ができているから、そこに大きなプラントを作る。
     まずは建築業で雇用が創出される。そしてプラントが稼働したら、住民はそこで働くことになる。反対運動も起こるだろう。そこは金をばらまいて懐柔する。何しろ、プラントができれば出稼ぎしなくとも、家族とともに故郷に住むことができる。4人に1人くらいはプラントで雇われ、労働者を相手にした商売で潤う人も出てくる。プラントでは定期点検があり、数千人単位で季節労働者もはいってくるようになるので、地元はますます栄える。
     反対派は反対運動を続けるだろう。住民もプラント建設を手放しで歓迎しているわけでもないので、反対派の運動を見ると、変わり者だと思いつつも「がんばれよ」などと声をかけてみたりする。しかし、もはやプラントなくして生活は成り立たないので、プラントを通して社会貢献している地域や自分に誇りを持つようになる。

     本書は気鋭の社会学者の、「原子力ムラ」を通して、戦後日本の成長神話と地方の服従のメカニズムを明らかにしようという研究である。ここでいう「原子力ムラ」とは原発の立地する地域のことである。電力会社や行政の原子力部門をまとめた閉鎖的集団を原子力ムラとも称するが、本書で問題にするのは地方の在り方であり、それは戦前に遡る「ムラ」の在り方を継承しており、それは、3.11以降もなにも変わっていないと述べられる。
     福島原発が中心にすえられるのは、著者自身が福島県出身ということもあろうが、もっとも早期の原発のひとつであること、また当該地域が、反対なく建設成功(第一原発)、反対あるも建設成功(第二原発)、反対のため建設断念(浪江小高原発)と三様の様態がみられているということがある。研究は2006年から進められ、2011年1月に修士論文として提出されており、3.11に乗ってやっつけ仕事で書かれた本ではない。

     その「なにも変わっていない」という点について評者が敷衍してみたのが上述の「ブラックな話」である。中央から、あるいは「原子力ムラ」の外からみる限り、原発推進−反対というのは明確な対立軸だが、「原子力ムラ」の中からみると、そうではないということが重要な論点のひとつ。原発はいやいや「ムラ」に押しつけられたとはいえず、「ムラ」は原発をすすんで「抱擁」する。そして首都圏の電力生産を担うことに誇りすら覚える。
     双葉町の元町長は当選以前は原発反対派だったが、町長に選出されてから推進派に「転向」したという事実が述べられる。彼にとっての軸は愛郷であり、愛郷のもとでは原発推進−反対は対立軸ではなかったのである。歴代の福島県知事は地方の自律を目指そうとする「反中央」の立場から原発を推進したが、佐藤栄佐久知事は同じ「反中央」の立場で東電と対決姿勢を取らざるを得なくなった。しかし、「原子力ムラ」は原子力によって雇用を得、繁栄を続けるにはさらに原発を建設するしかないaddictionに陥っている。栄佐久知事のプルサーマル凍結にムラはむしろ戸惑うのであった。
     筆者は前近代的な要素を残しながら都会のように繁栄したいと望む「ムラ」の欲望と、成長を遂げつつ支配を徹底したい中央とのあいだに、県などの地方がメディエーターとして機能して原発が推進されたが、もはや地方の仲介は排除され、ムラが自動的・自発的に服従する支配の構図ができあがったと分析する。「補助金もらって潤っている」「原発を押しつけられて可哀想」といった推進派・反対派の言説は中央からみているという点で、同等だという。そうした硬直化した視点でみているかぎり、「希望に近づこうとすればするほど希望から遠ざかって行ってしまう隘路に、今そうである以上に、ますます填りこむことになるだろう」。

     上の「ブラックな話」の「プラント」には何も原発ばかりが挿入されるわけではない。過去には炭鉱だったり、軍需工場だったりしたわけであり、被災地のこれからとも関わってくる問題と思われる。本書の「フクシマ」は放射能によって蹂躙された土地の代名詞ではない。「中央」によって蹂躙された「ムラ」の代名詞なのである。

  • 原発推進派・原発反対派ともに聞こえてくるのは中央からみた地方であり、フクシマ自身は原発に両価的な思いがあると…当事者の思いを想像しつつ考えることについて改めて思わされるところがあった。

  • 二項対立を排した重層的な視座で「地方からみた都市と地方」を描いており、目を開かされた。使う言葉の一つ一つを丁寧に選んでいる姿勢にも好感。地域の歴史を、地域の視点から見つめた記録はとても大切だ。島根でも取り組みたい。

  •  「震災と原発 国家の過ち 文学で読み解く「3・11」 ((外岡秀俊著)」だったかなぁ…、以前読んだ本で紹介されていた。
     本著は著者の修士論文だという、あの上野千鶴子先生の研究室の所属だそうだ。本著はまさに東日本大震災の直前にアクセプトされ、奇跡のような一冊だ。
     著者は福島県いわき市生まれというから、小さな時から原発に関する「ムラ」という存在を感じながら育ったのかもしれないな、なんとなく地域の内向き感を肌身で感じていたんだろう。
     中央の政府や官僚、東電、学者、メディアを〈原子力ムラ〉、原発が立地している住民など地域の共同体を「原子力ムラ」と表し、県議や知事や地域選出の国会議員等をメディエーター(媒介者)としている。原発推進の時期にはメディエーターはコラボレーターの役割を演じてきたが、原発の負の面を認識するようになるとノイズメーカーの役割を演ずるという。しかし、いったん「原子力ムラ」が形成されると、「addictionalなシステム」が形成され、原発を受入れざるを得ない状況(補助金ありきの地域づくり、原発で働く人を当てこむ民宿や飲食店等)に陥ってしまう。
     著者はさらに〈原子力ムラ〉に代わって「原子力ムラ」からメディエーターの役割を演じる「東電の高卒社員」や「民宿」にも焦点を当て、植民地支配における被支配エリートによる支配者と被支配者(同胞)の切り離し・排除を例に挙げ、「東電の高卒社員」による〈原子力ムラ〉と「原子力ムラ」の切り離しや「民宿」による〈原子力ムラ〉と「流動労働者」との切り離しと言った、統治のメカニズムについても切り込んでいく。まさに、外向きの植民地化(戦前)が内向きの植民地化が進められたと分析する。
    社会学として、本著の論拠の確からしさがどれほどなのか分からないがよくここまで切り込んでいるなぁという印象を持った。もしかして、よく言われる日本人のムラ意識についても考察できる一冊なのかもしれないな。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18353

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB06003432

  • 震災後に書かれた本だと思っていたので、奥付(2011年6月30日第1刷発行)を見て、こんな厚い本をよく短期間でと驚いたが、基になっているのは、同年1月14日に提出され、2月22日に受理されて、3月15日の修了の確定を待つばかりとなっていた修士論文だそうだ。時宜にかなった著作に見えたのは、不幸な偶然。高度経済成長期の日本で経済的な繁栄を求めるのは自然なことだし、ほかに選択肢がなかったように見えるのがやるせない。2011年9月11日付け読売新聞書評欄。

  • ちょっと期待はずれの内容。

  • 社会
    原子力発電

  • 著者の方、お若いのにたいしたもんです。これまでのムラの気持ち、よくわかりました。問題はこれからですね。

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著者プロフィール

1984年福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。専攻は社会学。現在、立命館大学衣笠総合研究機構准教授(2016-)。東日本国際大学客員教授(2016-)。福島大学客員研究員(2016-)。
著書に『福島第一原発廃炉図鑑』『はじめての福島学』『漂白される社会』他。

「2017年 『エッチなお仕事なぜいけないの?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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