アラブ革命の衝撃 世界でいま何が起きているのか

著者 :
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791766178

作品紹介・あらすじ

いまアラブ諸国で吹き荒れる民主革命の熱風。それは独裁政権だけではなく、私たちの世界認識そのものをも覆した。アラブ・ナショナリズム、アメリカ覇権の凋落、民主化のゆくえなど、多彩な切り口で、日本の報道からだけでは分からない、この歴史的大転換の根底にあるものを問う。

感想・レビュー・書評

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  • 講義風で読みやすくなっている。自分にとっては新しく知ることが多く、もっとアラブやイスラーム世界について知りたいと思わされた。以下はメモ。
    中東という言葉を広めたのはマハン。中東という言葉は曖昧で戦略的な用語として用いられた。
    国を意味するペルシャ語のスタンは英語のstandと同じ語源と言われている。ペルシャ語は中東のフランス語といわれた国際的な共通語だった。イスラームの帝国は都市的で点と線をおさえてモノを動かすフロー型の経済。インド洋を支配してたのはムスリムの船乗りで、イスラーム世界で天文学が発達したのは航海のため。領土喪失とともにオスマン帝国の衰退、ヨーロッパ間の領土切り取りを巡る外交問題を東方問題と呼ぶ。アラブ主義の観点からはオスマン帝国の時代はヨーロッパでゆうとこの暗黒時代。中東各国を理解するにはそれぞれの国がどのようにヨーロッパ、近代化と接したのか知る必要がある。
    アラビア語の言語的繋がりを重視するカウミーヤと地縁的な絆を重視するワタニーヤの二つのナショナリズム。カダフィが大佐だったのは尊敬するナセルが大佐で退役したからといわれてる。
    第二次大戦中、英国はアラブを味方につけるためユダヤ人の移民を制限、これが杉原の美談にも繋がっている。イスラエルの独立戦争としての第一次中東戦争、エジプトの植民地解放戦争としての第二次中東戦争、イスラエルの拡張の六日戦争の第三次中東戦争、イスラエルが敗北した第四次中東戦争。このあとエジプトはイスラエルと単独で講和、孤立する。
    民主制にして選挙をすると反米のイスラーム主義政党が政権をとってしまうので、親米的な権威主義体制を維持する米国。
    オスマン帝国を侵略するのに利用され不平等条約の原型となったカピチュレーション。

  • 時事的なものをチャラチャラ語るのではなく、問題の根源にある歴史的背景を解説してくれる本。本気で興味があるならお薦め。

  • 2011年12月に実施した学生選書企画で学生の皆さんによって選ばれ購入した本です。展示期間終了後の配架場所は、開架図書(3階) 請求記号:312.27//U95 

    【選書理由・お勧めコメント】
    アラブの歴史や国内・国際社会の問題点を見出し、アラブは世界とどう付き合うか、どのように世界と良い関係を築くかの糸口を探すのに知識を集められそう。(数学科/1年)

  • アメリカは中東の民主化を行うというときには、必ずといっていいくらいに、上からの制度的な枠組みを導入するというやり方をするのだが、それがどうもうまくいかない。

    中東における国境線のあり方は厄介。特定の宗教、宗派に属する集団の居住する地域と一致していないから。アラビア語にナショナリズムという言葉自体が存在しない。2つのナショナリズムがアラブ世界では同時並行的に存在している。自分はエジプト人であり、同時にアラブ人である。

    ユダヤ人たちは、ユダヤ迫害を行ったナチスドイツもにくんぢえるが、同じくらいにパレスチナへの移民を厳しく制限したイギリスも憎んでいた。当時のシオニストユダヤ人にとって目前の最大の敵はイギリスであった。

  • (2011.10.25読了)(2011.10.13借入)
    【アラブの春・その⑥】
    朝日カルチャーセンターで行った講座「いま、中東の政治変動を考える―「政変」の底流に流れるもの―」をもとにして作成した本ということです。実施の時期は、2011年4月8日から6月24日まで6回にわたるということです。
    現在進行中の「アラブ革命」の時事的解説ではなく、「アラブの春」とも呼ばれる事態の底流に流れるものとは一体何かを考えるための概説です、と「あとがき」に書いています。
    かつて、「オスマン帝国」支配下にあり、その後欧州列強の植民地となり、欧州列強の引いた不自然な国境線のまま独立したけれど、民衆の暮らしは一向に改善の見込みがない。
    イスラームの宗教団体は、貧困層の援助をしながら、生活がよくならないのは、イスラームの教えに背いた欧米思想のせいだと教える。
    欧米文化はすべて排除し、イスラームの教えに従って生活することを提案している。
    欧米は、アラブ諸国が民主化すると、イスラーム法に基づく国家が次々と出来上がり、石油が手に入らなくなると恐れているので、民主化を望んではいない。
    最近のエジプトの動きをみると、イスラーム教の団体が、前面には出ていないし、デモの呼びかけは、インターネットという欧米文化が造り上げたものが利用されている。
    イスラーム法による支配とはいっても、イランの例を見ても、解釈をだんだん変えていかざるを得ないのが現状です。絶対的に変えてはいけない教えもありますが、それはわずかで、それ以外は時代に応じて、支配者の意向に応じて変えることはできるようです。
    5年後、10年後には、イスラーム諸国もずいぶん自由化が進んでいくのではないでしょうか。この本を読んで、アラブの民主化の先行きが楽しみになりました。

    章立ては以下の通りです。
    第1章、「中東」を見る視座
    第2章、植民地支配からの独立と自立への苦悩
    第3章、アラブ・ナショナリズムとその国家体制
    第4章、アラブ・イスラエル紛争とその余波
    第5章、アメリカ主導の「民主化」とイスラーム運動
    第6章、中東政治における民族・宗教紛争

    ●縁故主義(52頁)
    一番大きな問題は何かと言うと、この独裁体制がネポティズムと呼ばれる縁故主義に陥っていることです。つまり、自分の家族に外国資本の入った会社を作らせて私腹を肥やしていくというような形で、外国の援助や投資のお金が独裁者の一家にどんどん流れて行って、それを不正蓄財する。それを皆が見ている、そのような中で革命が起こったということです。
    ●新たな状況(99頁)
    アル・カーイダの報復テロを心配する前に、そもそもアル・カーイダあるいはビン・ラーディン自身がすでにアラブ世界では時代遅れになってしまっている。彼らの言っていることは殆どアラブ革命の新たな状況に対応できていないのであり、その点をきちんと考えるべきだ。
    ●アラブ人(106頁)
    アラブ人とは、アラビア語を喋り、アラビア語に基づく文化的伝統を共有する人々であるということができます。
    ●イスラーム法(180頁)
    イスラーム法において、クルアーン、ハディースに次いで重要視されるのは「合意」です。アラビア語でイジュマーといいます。
    ●修正不可(188頁)
    イスラーム主義が議会制民主主義とどういった点で違う考え方をしているのかと言うと、幾つかの刑罰規定や相続法などのように、人間による変更が不可とされる分野があるところです。こういった法規はクルアーンの中に明記されていて、議会による修正は一切許されないものがあります。つまり、クルアーンに書かれていることの解釈はかなり柔軟にできるのですが、その中でも、どうしても触れてはならない部分があるのです。ただ、それはイスラーム法の中でも全体の5パーセント以下にすぎないといわれています。
    ●ボスニア人(209頁)
    ボスニア人は、オスマン帝国の時代には、バルカンにおけるイスラーム教徒のことを指していました。それに対して、「セルビア人」はセルビア正教徒を指していました。それは宗教団体としては、ギリシア正教会などと同じ兄弟教会です。また、「クロアチア人」はカトリック教徒のことを意味します。

    ☆関連図書(既読)
    「原理主義の潮流」横田貴之著、山川出版社、2009.09.30
    「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
    「革命と独裁のアラブ」佐々木良昭著、ダイヤモンド社、2011.07.14
    「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
    「レバノン混迷のモザイク国家」安武塔馬著、長崎出版、2011.07.20
    (2011年10月26日・記)

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著者プロフィール

1956年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際関係論博士課程単位取得退学。在ヨルダン日本大使館専門調査員、佐賀大学助教授、エルサレム・ヘブライ大学トルーマン平和研究所客員研究員、国立民族学博物館教授を経て、現在、日本女子大学文学部史学科教授。京都大学博士(地域研究)。専攻は中東地域研究。主な著書に、『見えざるユダヤ人――イスラエルの〈東洋〉』(平凡社選書)、『中東和平への道』(山川出版社)、『イスラムの近代を読みなおす』(毎日新聞社)、『原理主義』『世界化するパレスチナ/イスラエル紛争』『イスラエル』(以上、岩波書店)、『イスラームはなぜ敵とされたのか――憎悪の系譜学』『大川周明――イスラームと天皇のはざまで』『アラブ革命の衝撃――世界でいま何が起きているのか』(以上、青土社)、『世界史の中のパレスチナ問題』(講談社現代新書)などがある。

「2018年 『「中東」の世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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